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55話

 


 魔物の肉を取り扱う露店で揉めている店主と、ラーテルと言う名の冒険者らしき少年。そして取り囲む群衆たち。


 その全員がレイフェリックスを見た。


「本当に買ってくれるのか!?」


「それが本物のストームドラゴンだったらね」


 値段次第だけど。


「間違いなく本物だよ、ほら見てくれよ」


 そう言って首にかけていた緑色をした細長い生き物の死体を見せてくる。


「ちゃんと見たら蛇とは全然違うだろ?ちゃんとストームドラゴンの子供の死体なんだよ」


 魔物図鑑によればストームドラゴンとは中国の絵画に出て来るような長細いタイプのドラゴン。上空を飛んでいるため捕まえたという例はほとんどないという珍しい魔物。


 そしてAランクに分類されるという、かなり強力な魔物。しかしそれは成体のストームドラゴンのことで、ラーテルが本物だと言っているそれは、片手で簡単に持てるくらいのミニサイズ。


 蛇の疑惑を掛けられるのも納得だ。


「な!本物だろ?」


 そう言われても見た目だけでは蛇とドラゴンの違いが分からない。いや、小さな手が付いているな。けどこれだってトカゲの手をくっ付けたと言われればそんな風にも見える。


「うーん」


「うーん、じゃなくて本物だから。間違いなく本物のストームドラゴンの子供。なんでわかってくれないかな、俺が偽物作って騙すわけないじゃん」


 初対面の人間にそんなことを言われてもなぁ。


「カネナリ、あれ………」


 カネナリが鞄から取り出したものを受け取る。


「それって魔力を計るやつだろ?」


 さすがに知っているか。この卵みたいな形をした「魔力含有測定装置」を使えば魔力を測定できるのだ。もしこれが蛇だったら数値はゼロだろう。


 ストームドラゴンに近づけるとピピッという音がして数字が表示された。


「これいくらなの?」


「おお!買ってくれるんだな、やっぱり蛇じゃなかっただろ?!」


「値段次第だけどね」


「五百万ゴールドでいいよ!」


 話にならないな。


「この話は無かったことに………」


 それだけ言って立ち去る。


「ちょっと待ってくれよ、おい、ちょっと、わかった!三百万でいいよ」


 一瞬だけ足を止めて再び歩き出す。


「おいちょっと待てってば」


 焦るラーテルの声が聞こえる。


 楽しい。


 前世の時から一度はやってみたいと思っていた値切り交渉が異世界に来て実現している。


 昔読んだ本には値引きさせるためには一度立ち去ってから、後で戻って来て値段を下げさせるのが良いと書いてあった気がするので、それを実践してみる。


 魔物の肉を取り扱う店は近場に3件はあるというのをカネナリから聞いていたので、別の店を見てから考えるのも悪くはない。


 ただ「ストームドラゴン」と言うのは名前が格好いい。子供の頃からドラゴンの背中に乗って大空を飛んでみたいという夢もあった。だから本当は買ってしまいたいのだけどここは我慢。


 今は値切り交渉のワクワク感を楽しみたい。


 さっき魔石を売ったから、その分だけで一億ゴールド以上は持っている。魔道具技師のハラトロ・モスと折半する予定だから俺の取り分は半分の5千万ゴールドくらいだけど、それでも所持金としては十分。


 正直言ってストームドラゴンの子供の死体が5百万ゴールドと言うのも高いかどうかなんて、本当はわからないし。


「わかったわかった!」


 ラーテルが追いかけてきて目の前に立ちはだかった。


「それじゃあいくらなら買ってくれるんだよ」


 おお!


 まさかこっちに値段を決めさせるとは思ってもみなかったな。どうしたものか。


「なに?」


 ラーテルの目を真っ直ぐに見たら、少し驚いたように聞いてきた。


 なかなか感性が鋭いな。俺はいま、このラーテルと言う少年がどういう人間なのか分析しようとしている。


 少年といっても今の自分からしたら多分年上。中学生くらいに見える。格好はお世辞にも立派とは言えないので裕福ではないだろう。


 それならあまり値切るのも可哀そうか。


「それはどこで、どのように見つけたの?」


「えっ!?それは………」


「正直に言ってよね」


「樹海の森だよ」


 樹海の森か。


「かなり危険な場所だって聞いたけど、何人くらいのパーティーなの?」


 詳しいことは分からないが初心者から中級車くらいまでの冒険者が行く定番の狩場だと聞いたことがある。そこに出入りするという事は本職の冒険者なのだろう。


「ひとりだよ、俺一人でパーティーだ」


 それはパーティーとは言わないだろう。


「強いんだね」


「もちろん!俺の体は特別製だからな!」


 特別製?


「それってどういうこと?」


「いやいや、いくらなんでもそれは教えらんないな。冒険者は自分の戦い方を簡単に教えるわけにはいかないんだ、生命線だからさ」


 そう言われたら聞きたくなる。


「教えてくれたらストームドラゴンを三百万ゴールドで買うよ」


「本当か!?それなら教える、教えるから決まりな?3百万だぞ、ちゃんと持ってるんだろうな」


 それは大丈夫。


 俺は今なかなかの金持ちなのだ。半分は人の金だけど。


「もちろん」


 カネナリが懐から大金貨が入った袋を取り出してジャラジャラした音を聞かせている。


「おお!やっぱり金持ちなんだな、高そうな服を着てるからすぐに分かったよ」


 その割には疑ってたじゃん。まあいいけどね。


 さて、これで多分ストームドラゴンの子供と、少年の秘密をゲットだな。





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