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17話 ~受験生入場~

 


 巨大な白亜の城に見える建物。


 王立ワシントン学園。


「国は人成り」を理念として最高の教育を受けさせるために王の個人資産によって建立された。王族、貴族の多くが通うこの国で最も格式の高い学校。


 大きく開け放たれた鉄製の門の前に立つレイ・フェリックスの顔色は悪い。


「がんばってよ!」


「絶対合格!」


 母のアイラ・フェリックスと同じ道場に通うシャルル・ド・ゴールの気合は半端ではない。ふたりのテンションが上がるごとにレイのテンションは下がっていく。


 いかにも王族とか貴族が通う学校です、という雰囲気がばんばんに出ていて、こんな所に庶民である自分が万が一通うことになれば、確実に嫌がらせの対象になるだろう。


「すいませーん、ちょっとよろしいでしょうかぁ?」


 そこにいたのは受験生ではなく、大きなテレビカメラを持って待ち構える大人たちだった。


 門のすぐ傍で待ち構えて逃がさないようにしている。厚化粧をした女性レポーターが嘘全開の作り笑顔で、これから受験だという子供とその家族を捕まえて、インタビューをしている。


 一瞬で嫌な気持ちになる。


 この国のテレビと言って思い出すのは、子供の頃に見た「突撃!新米探索者」という番組だ。作りとしては単純で、新米探索者に密着するドキュメンタリー。


 しかしその内容が大問題。


 レイの記憶に鮮明にあるのは新米探索者たちが全滅する内容。その映像をスタジオにいるタレントたちが見ながら「怖い」とか「うわー」とかの薄っぺらいコメントをするという最悪の番組だった。


「レイ、あれ………」


 シャルルの表情も硬い。


 わかる。


 分かるぞシャルル。


「無視して早足で歩いて行こう」


 頷くシャルルと共に歩く。シャルルも人見知りだからテレビに取材されて放送されるなんてお断りなのだろう。


「あら!」


 厚化粧が目を輝かせたが、それを無視して一気に校内に入る。「少しだけインタビューを」という声が聞こえるが無視。最高速度の早歩きで突っ切る。


 どうやら諦めたらしいと判断して振り返ると、母が捕まっていた。


「Oh my god!」


 思わず英語も出るというものだ。


 カメラは母親に向けながらこっちにも向けてくる。その瞬間に反対方向を見て写されないようにする。何を勝手に撮ってんだこの野郎。


 さすがに母を置いて行くわけにはいかないので待つ。そしたら母よりも先にシャルルの祖母であるアダチがやって来た。この人もテレビクルーを無視してきたらしい。


「一般人の受け入れは学園の長い歴史の中でも初めてだからね。マスコミもやって来るってもんだよ。学園としてもこういう取り組みもやっていますよとアピールしたいんだろうね」


 それは分かるけどこっちにしてみたらいい迷惑だな。


「んあーなんで先に行っちゃうのよぉ!」


 考えている間に母が追い付いてきた。


 なんでと言われてもテレビの取材なんか受けたくないの一択しか考えが無い。なぜ嫌なのか、と聞かれても理由を答えることが出来なかった。


「テレビの人たちはあなた達の事を取材したがってたのに」


 あなた達?


「もちろんレイとシャルルちゃんのことよ」


「私もですか!?」


 驚いた顔で自分を指でさす。


「お二人は兄弟なんですかって聞かれたわ。違います、同じ道場に通う幼馴染なんですって言ったら、是非取材させてほしいって言ってたわ」


 うわー、最悪だ。


「まさか取材してもいいなんて言ってないよね?」


 シャルルも興味深そうに返答を待つ。


「もちろん言ってないわ。ふたりは照れ屋だから取材とかは難しいと思いますって、ちゃんと言っておいた」


 よかった。


 我が母上はたまに予想外の行動をしてくるから不安なんだ。


「ところで一つ聞いておきたいんですがよろしいですか?」


 鬼婆ことアダチに目を向ける。


「改まってなんだい?立小便は駄目だよ」


 は?


 受験しに来てるのにそんなことするわけないだろ。この人は俺のことをどういうやつだと思っているのだろう。


「せっかく用意して頂いたこの制服なんですけどね」


 無視して言う。


「ああ、よく似合ってるじゃないか」


「似合ってるとかに会ってないとかじゃなくて、なぜ誰も着ている人がいないのでしょうか?」


「………」


 そう。


 いきなり着替えさせられたこの学園の制服。受験生らしき子供はいくらでも見るのだが誰一人としてきている者はいないということが大問題。


 めちゃくちゃ恥ずかしい。


 なんで受かる前からひとりで制服を着てるんだよ。最初から変だなとは思っていたがこの世界で受験をするのは初めてだから言われるがままにやっていたらこうなっていた。


 周りの視線が痛い。


 きつい。


 つらい。


「まあいいじゃないか、良く似合ってるよ」


 だから似合ってるとか似合ってないの問題じゃないんだよ。


 また騙しやがったなこの鬼婆!



 着替えなど持ってきているはずもなく怒こったままで、素敵なお城のような校舎へと向かって行く。建物も大きいが敷地もとてつもなく大きい。これだけの広さがあれば部活で場所の奪い合いをする心配はなさそうだ。


 歩いて行くと大きな掲示板があって、そこに人が集まっている。どうやらそこに今日の受験についての事が書いてあるらしい。


 最初は面接、そして筆記試験をすると書いてある。順番は特になく、学校についた順番でやってくれるらしい。待ち時間が無いような仕組みになっているのはとても助かる。


 一応隅から隅まで読んでみるが、受験のしおりに書かれていたことと同じことが書いてある。受からなくていい、むしろ受かりたくないと思っているのになぜ自分はこんなにも真剣に読んでいるのだろうと気が付いて、自分で自分が分からなくて困惑する。


「それじゃあ私たちはグラウンドで待ってるからね」


 母親たちと別れて校舎へと入っていく。


 周りを見渡すと、同じように子供が親と別れて一人で入っていく様が見える。みな緊張した顔をしている。


 自分は前世では高校生だったのに普通の6歳と同じように緊張していてどうするんだ。


 そう考えると気持ちが楽になった。




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