11話 ~青空を駆ける~
青空の異世界を奇声を上げながら走り回るレイ・フェリックス。
「ちょっとどうしちゃったのよレイ」
「わかんない。わかんないけど走ることがすっごい楽しいんだ!」
杖を持ったままでバク転。
「魔道具に弄ばれてるわよあんた!」
「楽しい!」
走りながら笑顔で言った。
「たーのしーい!走れる、僕も走れるんだーーー!」
シャルルは戸惑った。
自分が知っているレイ・フェリックスという少年はこんなのじゃなかった。同い年なのに落ち着いていて皆が嫌う基礎練習ばかりを自分から一日中やっているような変な奴。
木刀で打たれても泣いたりせずに顔をしかめるだけ。落ち着いていて人の話をよく聞いて練習態度も真面目でどちらかといえば落ち着きのあるやつだと思っていた。
それなのに祖母、アダチの杖を貰った途端に人が変わったようにはしゃいでいる。まるで普通の子供みたいにはしゃいでいる。
「ちょっと一旦落ち着きなさいよ」
「オッケー!」
スキップしながらやって来た。
「あんた魔道具の中にいる悪魔に完全に操られてるのよ。自分がいつもと違うのが分からないの?」
「わかるよ。僕は普段こんなことしないから、この杖の影響なのは間違いない」
「それはちゃんとわかるんだ………」
意外そうな表情のシャルル。
「わかるけど悪霊に体を乗っ取られてるとかそういう感じは全然しないんだよね」
テンションは異様に高いけども中身はレイのままという感じがする。
「けどあんたいつもと全然違うわよ」
「それは自分でもわかるんだけどね」
今度はでんぐり返しをしている。普段と違いすぎて気持ちが悪い。
「ただ体を動かすことが楽しいっていう感じなんだ。たぶんこの杖の中にいるのは悪い悪霊でも無いと思うんだよね」
「悪魔なんて全員悪いに決まってるわよ」
「そうかな?人間にも色々な奴がいるように悪魔の中にも色々な奴がいるんじゃないかな。ひとくくりに悪魔っていうことでまとめるのは違う気がする」
「でんぐり返ししながら分析なんかしないでよ」
理屈っぽいところはいつものレイだ。
「楽しいから別に良いかなって感じがする。もし僕が本当にヤバくなったらこの杖を取り上げてくれよ。シャルルなら簡単にできるでしょ?」
また走り出した。杖の持ち手の所の髑髏から包帯のような白い布が飛び出す。何をするつもりかと思ったら、布が蔵の屋根に巻き付いた。
「フォーーーウ!」
一気に布を縮め、猿のような奇声を上げながら壁を上って行く。
「シャルル見てるか?この杖、こんなこともできるんだぞ。これってもう完全に忍者になってるでしょ、フォーーーーー!」
異様なテンションで屋根から逆さづりになりながら地上まで降りてきた。そして走ってシャルルの元へきてその目の前でピタリと止まった。
「な、なに?」
顔が近い。
「へへへ………」
レイは杖をズボンにさしてシャルルの両手を握った。
「シャールルシャルルシャールルシャルル!」
そのまま社交ダンスのように回り始めた。
「わっ、」
シャルルの体が浮いた。
それでもさらにレイは回る。
するとシャルルの体はメリーゴーランドのように大きく回り始めた。
「ちょっとあんた何やってんのってば!」
「しゃーるるるるるるるー!」
もし手を離されたとしても安全に着地できる自信はあるので、回されていること自体に恐怖は感じないが、異常なテンションのレイに対しては少し恐怖を感じる。
だんだん回転がゆっくりになっていって地面に着地した。
レイはまた走り出す。
考えてみたらレイが楽しそうなのは初めて見た、手を繋いだのも初めてだ。そう考えると温いお湯の中に全身が使っているような変な気持ちがする。
少し考えた後で祖母の元へ歩いて行く。
「ちっとアダチ、レイのやつさすがにヤバいんじゃ………え、」
アダチ・ド・ゴールは泣いていた。
微動だにせず、シャルルの方を見ることもなくただレイの姿を見ていた。
目を大きく開いて口元は笑っている。
声もなく笑いながら泣いていた。
「アダチ………」
シャルルは見てはいけないものを見たような気持になった。
シャルルが知るアダチとは、お婆さんと呼ばれることを嫌って名前で呼ばせるほどプライドが高い人。そんな人が泣いている。
どうしたらいいのか分からなくなってウロウロしていたら、つま先に何か当たった。見てみたら、五人の大罪人の背骨を使って作ったという魔武器「人人無情」。驚いて思わず飛び上がってしまった。
「なんでこんなところにあるのよこれ!」
シャルルもレイと全く同じ考えで、こんな不気味なものは近くにあってほしくない。
「人人無情」からうっすらと鳴き声が聞こえる。
「もうちょっとなによこれ………」
周りを見渡す。
レイはおかしくなっている。
アダチは泣いている。
「人人無情」は鳴いている。
「なんなのこれ………」
シャルルは頭を抱えた。




