12話 ~たんこぶという教え~
「うー………おはよう」
ある日の道場の朝。レイ・フェリックスは頭をさすりながら入ってきた。
「どうしたのそれ?」
黒髪の天才剣術少女シャルル・ド・ゴールが驚いたのはいつもの少年の頭の上がぷっくりと膨らんでいたから。
「昨日の夜、父親にやられたんだ」
レイは語る。探索者である父が「神の塔」から久々に帰ってきたので髑髏の杖の魔道具を見せた。しばらく興味深そうに見ていた父だったが、少し立ち会ってみようと言い出した。
髑髏の杖は髑髏が吐き出した包帯のような布を使って相手の体を縛り上げて自由を封じるところだ。じっさいにレイはその威力を体感しているので拘束してしまえば動くことは出来ない。
そうしたところ、父は一瞬で距離を詰めてきてレイが杖で攻撃をしようとするよりも早く、頭にゴツンと拳骨を貰っていた。
「力の加減が分かってないんだよあの父親は、あー痛い痛い………」
そう言いながら痛そうな顔でコブをさする。摩ったからと言ってよくなるはずもない事は分かっているのだが気になって仕方がない。朝起きたら少しは良くなっているかと思ったら全く変わらない痛みだ。
「なんだそうだったの。良い魔道具だと思ってたのに」
「もう全然駄目。あっという間に距離を詰められちゃって、体を縛るくらいの時間なんか無かった」
「そうか、あれは相手の体をぐるぐる巻きにしないといけないもんね。それじゃあやっぱり剣が一番ね」
誇らしそうに剣を振る。
「武器として剣が良いのは間違いないけど、昨日に関しては僕が未熟だった。この杖が悪いわけじゃないよ」
「そうなの?」
「相手を縛るということに意識が行き過ぎていて、相手を見る余裕が無かった。あの杖を普通の槍みたいに使って戦いながら隙を見て相手を縛る、くらいのほうがよかったと思う」
「なるほどね、勉強になって良かったじゃないの」
「良かったけど痛すぎるんだよ」
頭のコブをさする。
「勉強にはなったけどさ………」
「それじゃあまだその杖で戦うことを諦めたわけじゃないんだ」
「もちろん諦めてないよ。力の差がある相手と闘うために魔武器とか魔道具を使うって言うのはいい方法だと思う」
「ふーん………それじゃあ今日からはその杖で戦う練習をするのね?」
「いつも通り普通に剣の練習をするよ」
「なんでよ、言ってることが違うじゃないの」
「剣の練習は剣の練習でちゃんとやる。せっかくこれだけ剣術家が揃ってる環境なんだから教えてもらわないと損だよ。杖は家で遊びながら練習してみるよ」
「ふーん」
「今は基礎を体に染み込ませないといけない時期だからね」
「あなたそればっかり言ってるじゃない」
しばらくして師範がきて今日も剣術の練習が始まる。
レイ・フェリックスは今日も基礎に取り組んだ。
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「トーレスさん、いまちょっといいですか?」
稽古が終わって汗を拭く門下生のトーレスにレイ・フェリックスは声を掛けた。
「いいよ。もしかしてその手に持っているクッキーを俺にくれるつもりかな?」
ツンツン逆立つアッシュグレーの髪をした人懐っこそうな笑顔。
「それならいつだって大歓迎さ。レイのお母さんの手作りクッキーはうちの嫁さんの大好物なんだ。持って帰ればすごく喜ぶんだよね」
目はレイの手の中に注がれている。
「もちろんプレゼントするつもりです、いつもお世話になっていますからね。それと、ちょっとお願いしたいことがあるんですけど」
「お願い?また足運びを見たいのかな?」
「トーレスさんの足さばきは軽やかで素晴らしいと思うんですけど、今日は違うんです。実はこの前、アダチさんから杖の魔道具をもらったんですよ」
「知ってるよ。みんな結構びっくりしてたんだよ、まさかアダチさんが手放すとは思わなかったって言ってる」
「そうなんですか」
「うんそう、結構大切そうにしてたからね」
「知りませんでした」
「最近はあまり持ってきてなかったからね。それでお願いって言うのは何?」
「実はあの杖を使った稽古の相手になってもらえないかと思いまして」
「稽古?俺は杖は使ったことは無いから教えられないけど」
「いえ、剣士として立ち会ってもらえれば大丈夫なんです。昨日考えたことを試してみたいだけなので。どうですか?」
「なんだそういうことか、ちょっと焦ったよ。けど俺でいいの?」
「はい。トーレスさんにお願いしたくて」
レイから見たトーレスという剣術家はバランスのいい剣術家だ。道場にいる中では若手らしいのだが攻守ともに優れ欠点らしきものが見当たらない器用なタイプ。
性格的にもフランクで話しかけやすい。
「レイは打たれるのが嫌いだもんね」
そう。
道場生の中には痛い思いをして体で剣術を覚えるのが上達する一番の近道と考えているものが多い。現にレイの父親はそうだ。しかしトーレスは寸止めをしてくれるので打ち合っても痛い思いをすることが無い。
「わかった、引き受けるよ。それとちゃんと寸止めもしてあげるよ」
「ありがとうございます」
レイは頭を下げ母親のクッキーを手渡した。
さあ昨日考えた魔武器を使った戦い方を試してみよう。




