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8 かっこの中は口に出してはいけません

「スキップ卒業?」

「はい」

「今の俺ならスキップ卒業ができる……と?」

「はい!! 今のアークの魔力ははるかに魔術師になりたての者よりも上です!! 十分にスキップ卒業できる可能性があります!!」

「ふ~む。スキップ卒業か……」


 確か、今までに成し遂げたのは、今の魔塔主しかいないとの噂だ。

 もし俺がスキップ卒業……ということになれば、大変な名誉だ。それに確か卒業の儀式で浄化魔術を習得することができるんだったよな?

 浄化魔術は、俺のイメージではどうあっても再現することができなかった。多分、瘴気ってやつが地球になかったからイメージができないか、浄化魔術ってやつがこの世界の理に基づいているからだろう。

 まあ、浄化魔術のことは今はまだいい。

 卒業したら、魔術師だ。魔術師ってやつは、貴族と同等の地位にあるらしい。…………イービスなら俺を振って、あのなんたら伯爵を選んだことを泣いて悔しがるだろう。


「よし。狙うぞ、そのスキップ卒業を!」

「はい!!」

「ところで、どうすればスキップ卒業できるんだ!?」


 一転、ミュウミュウはずっこける。


「一年の最初の授業で習っているはずですわ!!」

「あ~。すまん、すまん」


 最初の授業から、アルバイトの掛け持ちで眠くて寝ていたとは言えない。


「いいですか。魔術学園を卒業できなかった学生の一番の理由は、ダンジョンの地下三十階層の階層ボスを倒すっていう試験をクリアできなかったからですわ」

「ほう?」

「なら簡単ですわ。地下三十階層の階層ボスを倒してしまえばいんです。圧倒的な力をみせつけるんですわ!!」


 ……ミュウミュウって、意外と脳筋なんだよな。


「……無理じゃね? だって、俺、地下五階層くらいをうろうろするくらいだぜ?」

「それは、万年魔力切れの状態だったからですわ!! 今のアークなら、次のダンジョン試験で一気に地下三十階層の階層ボスを倒せるに違いませんもの!!」


 マジかよ……。

 ミュウミュウは拳を振り上げた。


「ちょうど一週間後はテストでダンジョンに潜る日です。そのダンジョン、……消しちゃって下さい!!」

「消しちゃっていいのか!?」


 ダンジョンはアイテムとか魔物の素材とかを供給する大切な資源でもある。それなのにダンジョンを消しちまうだなんて……。いいの? え? 本当に? 魔術学園的にやら、国家的にやら困らない?


「コホン。それはダメでした」

「だよな」


 あ~。びっくりした。

 でも、本当にそれで卒業資格が得られるなら、俺にとってはずいぶんと都合がいいな。勉強しなくても卒業できるっていうことだろう?

 そんなことを考えていたら、ミュウミュウがジト――ッとした目で俺を見ていた。


「まさか、力業でなんとかするだなんて思っておりませんわよね?」

「ギクッ!」

「ダメですわよ!! ダンジョンは深くなればなるほど、広大で、迷路のように入り組んでいますわ。しっかりと勉強をして、準備をしてから入りませんと」


 あ、やっぱり勉強は必要なんだ……。


「まずは残りの時間で、ダンジョンに巣くう魔物に詳細データをインプットして下さい。それにダンジョンで野営するための知識や準備を整えますわよ! これはイタリアルの王都で揃えます。買い物ですわ!!」


 と、何故かミュウミュウは嬉しそう。


「あ、そうそう。ついでに、冒険者ギルドで同行者の募集をかけなくてはなりませんわね」

「あ~。冒険者ねえ……」


 ダンジョンには、魔術耐性が強い魔物がいたり、トラップがしかけられていたりしているため、道先案内人になる者が必要だった。それに十、二十、三十とキリ番の階層に地上への転移魔方陣があるとはいえ、何日もダンジョンにこもるには物資が必要だ。学生ははそれらのサポートメンバーを選んで連れて行くことができる。それを冒険者でまかなおうというのだ。

 けれど……。


「いやいい。だって、俺には足手まといになるし」

「え……?」

「ほら、俺には亜空間収納(アイテムボックス)とか探査(サーチ)の魔術とかあるしさ」


 そう言うと、ミュウミュウは少し考えて頷いた。


「ま、まあ、そ、そうですわね。アークの本来の力を発揮できれば、確かに……。分かりましたわ。なら、武器はいかがでしょう?」

「武器?」

「ええ。ダンジョンには魔術が効かない魔物もいますもの。アークの魔術はすごいですが、魔術のみの戦略では、いずれ破綻しますわ。物理的な力も必要です」

「ん……。それもいいや」

「え?」

「物理も対策があるから」

「で、でも……」

「大丈夫、大丈夫」

「……分かりました」


 ミュウミュウは、シュンとする。その表情は、まるで拗ねた子供の要だ。


(そういや……)


 このちみっこも実は魔術師。小さいうちから親元を離れて魔術学園を卒業して、魔術師になり、それからは魔塔で生活しているってことだよな。

 ポムポムポム。


「な! ア、アーク。何をなさっているんですの!?」

「いや。ミュウミュウも子供なのに、ずいぶんとがんばったんだなって思ってさ……」


 ミュウミュウの顔がリンゴのように真っ赤に染まった。


「わ、私、アークが思うほど子供じゃありませんよ!!」

「いや~。そう言われても……ん?」


 そういえばミュウミュウとは出会ってから二年経った。ちみっこだと思っていたミュウミュウも、ずいぶんと成長……?

 成長…………?

 成長……………………?

 成長………………………………?


「どうして、(おまえのおっぱいは)成長してねえんだ!?」


 あ、かっこの中の台詞も口に出ていたらしい。

 思い切り殴られた。


次回は、本日12時に予約投稿です。

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