7 睡眠って大事だよね!
俺は、目を覚ました。
「見知らぬ天……。ふっ。やめとくか」
今が何時か分からない、いい朝だ。日当たりもいい。開けっぱなしだった窓からは、気持ちのいい風が吹き込んでいる。
ま、気分は最悪だけどな! そりゃそうだ。昨日、精も根も尽くし、全てを貢いだ相手に振られたんだから。ハッハッハ。
ん? 気分は最悪でも、体調はここ最近……っていうか二年ぶりくらいに最高にいい。なんだこりゃ、体が軽い。節々の痛みも、ギリギリする頭痛もない。
「ゆっくり寝たからか……」
睡眠って大切なんだな……。
今まで、毎日毎日、夜が明けるまで働き、日が昇る前から働いていたって、睡眠時間どれくらいよ!? ん~、平均三十分かな? テヘペロ♪
あ、授業に出られる時は、もうちょい寝らたぞ。
俺、鬼体力。身体強化魔術がなかったら、死んでたぜ。
「んじゃ、体を労るために、もう一回寝るか……」
伸びをして二度寝を決め込もうとした瞬間、小ぶりだがポヨンとした弾力があるけれど柔らかくて、温かい何かを感じた。
「ん?」
布団をめくって見れば、まるで子猫のように俺の体にぴったりと身をくっつけているミュウミュウがいる!!
「ほわっ!!!! な、な、な、な、何やってんの!? ミュウミュウ!」
自分のベッドに美少女が勝手にもぐり込むって、どんなラノベさ!
「何って……。アークを慰めているのですわ」
「えっと? えっと? ええっと????」
なんかあったっけ?
このラノベ展開で、何か大事な事が吹き飛んだような気がするけれど、何だっけ?
「聞きましたわ! あのクソ女のこと!!」
「ん?」
あれ? 聞き違いかな? クソ女と聞いたような気がするんだが……。元貴族令嬢のミュウミュウが、そんな下品な言葉を使う訳がないな。うん、気のせい気のせい。
「あのクソ女! 本当に許せませんわ!!」
ぶっ! 聞き間違いでもなく、気のせいでもない!! ど、どうしよう。ミュウミュウが果てしなく下品な言葉を使ってるよ!!
「ミュ、ミュウミュウさん……あの、その言葉は……」
「あのクソ女を庇うんですの!? アークは、あのクソ女に振られらのでしょう!?」
………………あ、それね! それ、それ! いやあ、うっかり忘れるところだった。というよりもミュウミュウの言葉遣いショックで、軽く忘れていたよ。
「な、なんで知っんだよ?」
昨日フラれたばかりだってのに、噂が広がるのは早すぎないか……?
「今年の学生は貴族の方が多いでしょ? お相手の男性が自分のコネクションを使って積極的に話を広めているそうなんですの」
「へ、へえ……」
そういや、相手の男はなんとか伯爵って言っていたな……。
「貴族って、暇なんだな……。そんな世界に飛び込むなんて、イービスは大変だろうに……。ハハハハ……」
「アークが心配なさるようなことではありませんわ! どんな目にあっても、悪いのはあのクソビッチ女ですもの!」
ミュウミュウの言葉が、悪い方に進化している!!
「ミュ、ミュウミュウさん。女の子なんだから、『クソビッチ女』はやめなさい。『クソビッチ女』は……」
「でも、あの方は本当に『クソビッチ女』ですわ!! アークが働いている間も、あのクソビッチ女はあの豚と一緒にいたらしいですのよ!」
………………………………………………あ、そうだよね。当たり前だけど、俺がアルバイトしている間、イービスはあの男と知り合って、あの男といちゃついていたってことだよね。
改めて、他人の口から言われると、きっついなあ……。
はあ……。
「アーク。ですからあの女なんて『クソビッチ女』で十分ですわ!!」
「う~ん。まあ、そうなんだけれど……」
俺は頭をボリボリと掻いた。
「あまりそういうのは聞きたくないなぁ。あれでも、本当に好きだった人だから」
俺がそう言うと、ミュウミュウは一瞬怒ったような顔をして、その後すぐにシュンとしてうつむいた。
「そうですわよね。ごめんなさい。アークの気も知らず……。まだ気持ちが残っているのですね」
「いや、それはない!!」
「え?」
「昨日寝るまではそりゃグチグチ考えていたけれどさ、朝起きたら自分でも驚くほどに、清々しいほどに気持ちが残っていなかったんだ。むしろ、もっと早くに別れていればよかったと思うくらい」
「そ、そうなん……ですの?」
ミュウミュウは複雑な表情を浮かべた。
「でもさ」
俺はニカッと笑う。
「でもさ、やっぱり一度好きになった人の悪口は聞きたくないんだよ」
俺はミュウミュウの頭をポンポンと撫でる。
「それに俺が聞きたくないって言ったのは、ミュウミュウにはそんな下品な言葉は似合わないからもあるんだぜ」
ミュウミュウはハッとして頬を染めながら、口を押さえた。
「ま、まあ……。私としたことが……」
俺はミュウミュウをベッドに残したまま、立ち上がった。
「いや。悪いのは俺さ。俺がふがいないからイービスは俺に見切りをつけたんだし、もっと期待に応えられていたら結果は違ったのかなって思うさ」
あれ? ミュウミュウが横を向いて、身体能力向上で拾わなければ聞こえないような声で「それはどうでしょう」なんてつぶやいたぞ。ま、いいか。
「だからさ。もう一つの期待には全力で答えようと思うんだ」
「もう一つの……期待?」
俺はガバッとミュウミュウに土下座する。
「ミュウミュウの顔に泥を塗るような真似をして、すまなかった」
「え?」
「アーク……」
「せっかくここまで連れてきてくれたのに、勉強もダンジョン試験も、俺どん底の成績で、推薦者としてミュウミュウは肩身が狭かっただろう?」
そう。俺にずっと期待して、支えてくれたのはミュウミュウ、その人だ。
「い、いいえ……、そんなことはありません。どん底だろうが、なんだろうが、アークは落第者が多く出る中、合格基準をクリアし続けてきたではありませんか!」
「それは、テスト前にミュウミュウが対策を練ってくれていたからで……」
ミュウミュウは、微笑みながら首を振った。
「私が無理を言って、ここまで連れてきたのですもの。お手伝いするのは当たり前のことですわ」
「だからさ。俺、ミュウミュウの期待はもう裏切らない。本気で魔術に打ち込もうと思ってる」
ミュウミュウはパッと目を輝かせた。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
「嬉しい!!」
まだなんの成果もだしていないのに、ミュウミュウはまるで俺が何かを成し遂げたかのように、涙顔になった。
「おいおい、泣くなって」
「だって……アークが本気を出すならば、学年首位! いえ、それどころかスキップ卒業も可能ですもの。嬉しくて泣きたくもなりますわ」
「ハハハハ……。冗談で慰めてくれなくてもいいからさ」
田舎じゃ敵なしだった俺も、ダンジョンの魔物にかなり手こずっていた。というより、ダンジョン攻略はほとんど進んでいない。地下三十階層を目指さなきゃいけないっていうのに、俺はまだ五階層あたりを行き来しているくらいだ。
「冗談じゃありませんわ!!」
「え?」
ミュウミュウは真剣な表情を浮かべた。
「アーク。以前、私の前で魔力を練り上げたのを覚えていますか?」
「ああ、確かミュウミュウのおっぱ……」
ミュウミュウのおっぱいが見えたのを心頭滅却しようとして……。と言いかけて、ムグッと口をつぐんだ。
「あの時の魔術操作をもう一度して欲しいんです」
「魔術操作……? あ、ああ……。いいぜ」
そういや、しばらくしていなかったな……。
俺はへその下に魔力をグッと溜めて、体内にぐるぐる回した。
ん……? あれ? ちょっと待て! 俺の魔力……何でこんなにもあるんだ!?
ちょっと、いや、半端なく焦るくらい魔力に溢れている。
あ!! もしかして、それと睡眠不足でろくに回復をしないまま魔力を酷使して身体強化魔術を使いまくっていたのが原因かも! 赤ん坊の頃、もわざと魔力切れを起こして、気を失って目が覚めたら魔力が増えていた。それと同じ事が起こったってことか!?
だとしたら二年間もすり減らし続けた俺の魔力、いったいどれくらい増えているんだ?
わざわざ外に放出しているつもりもないが、ミュウミュウはすでに感じているらしく、目をとろんとさせて口元もだらしなくゆるんでいる。
って、ミュウミュウさん! ロリでその顔は禁止ですから!!
心の中で叫んだ瞬間に、ドバッと外に出てしまった。魔力が。その魔力をもろに浴びたミュウミュウが痙攣するかのように震えた。
「あ……。ん……。アークの……濃くて、素敵……」
だから、ミュウミュウさん!!
次回は、明日0時に予約投稿です。




