5 異世界転生したらペタペタ美少女と出会いました(3)
「ダンジョンに、ご興味おありですか?」
「おお! ありありのあるあるだぜ!!」
ミュウミュウは嬉しそうにパンと手を打った。
「でしたら、ちょうどよかった。どう、お誘いしたらよいかと思案していたところでしたの。アーク、魔塔の教育機関である魔術学園に入学いたしませんか?」
え……魔術学校? なんじゃそりゃ。
「俺が行きたいのは、ダンジョンであって、学校とかじゃ……」
「ダンジョンに入るには、魔塔の許可が必要ですわよ。少なくとも、この国だけではなく、近隣の国のダンジョンは全て魔塔が管理しておりますの」
「……え? それって、魔術師にならなくちゃダンジョンには入れないってこと?」
せっかく見いだした希望なのに、そんな障害があろうとは。
「いいえ。そういう訳ではございませんが……一般の方がダンジョンに入ろうとすれば……お高いんですの」
ミュウミュウは、ひどく俗っぽい顔で言う。
「へ?」
「ダンジョンに入るには魔塔にダンジョン使用料を払っていただくことになっております。その使用料をアークが払うことができるかどうか……」
ミュウミュウは、申し訳なさそうに首を振った。
「ちなみに……おいくら万円?」
「オイクラマンエン?」
「いや、こっちのこと。その使用料っていくらくらいかかるんだ?」
ミュウミュウはこそっと耳打ちをした。
「!!!!!!!!!」
無理、無理、無理!! それって、今の年収も超えているから!!
追い打ちをかけるように、ミュウミュウはささやく。
「ですが、今ならお買い得ですわ。魔塔は、次世代の魔術師を求めておりますの。次世代の魔術師候補である、魔術学園の学生ならダンジョン使用料はただ! おまけに、学費もただ! おまけのおまけに寮費もただ! なんなら平民と貧しい貴族を対象に生活援助金も出ますわよ!!」
「なにそれ、おいしい話なんですけれど!! おいしすぎるんですけど!! おいしすぎで返って怪しいわ!!」
ところがミュウミュウはふるふると首を振った。
「それだけ、次世代の魔術師が求められているということです」
「え?」
「さっきも言いかけましたが、魔塔の……いえ、魔術師の役割は魔術の進歩を目指し、魔術で人の住む地を整え、ダンジョンから得たアイテムや素材で新らな魔道具を作り、瘴気を浄化すること。人の生活に欠かせません。これらの中で一番必要とされているのは……。
ミュウミュウは俺の鼻先に指を突きつけた。
「『浄化』です」
「浄化?」
「アークは『瘴気』をご存じですか?」
「ああ。けれど詳しくは……」
魔物を倒すと、時々、黒い煙みたいな物が出て行くことがある。それが瘴気というものらしい。
ミュウミュウは小さくうなずいた。
「『瘴気』は世界の穢れ、様々な生き物の感情が具現化したものですわ。それらが近くにあるだけで、生き物は瘴気中毒という病気になり、苦痛にあえぎ、死に絶えてしまいます。それらの『瘴気』が集まると、瘴気溜まりになり、その瘴気溜まりからは……ダンジョンが発生してしまいます」
その深刻な言いように、ふと疑問になった。
「ダンジョンはよくないものなのか?」
ミュウミュウはふるふると首を振った。
「ダンジョン自体はよくないものではありません。魔物から採れる素材は武器や防具、それに薬や魔道具になり、宝箱から出るアイテムは、時に苦境をひっくり返す切り札になることもあります。それに魔物が体内に持つ魔石は魔道具の原動力として、生活にかかせないものとなっております。ですのでダンジョンはうまく運用すれば、とてつもなく有用な資産です」
「なら……」
「ただ。ダンジョンはその発生時と成長時にスタンビートを引き起こします」
「スタンビート?」
「スタンビートは魔物爆発とも呼ばれています。数十から数百の魔物の大群が一気にダンジョンから飛び出してくることです。これまでのスタンビートで亡くなった人間は、今の総人口を七回入れ替えてもまだ余るとか……」
ふと、嫌な記憶が頭をよぎった。
村に押し寄せる魔物の群れ。
食われる村人たち。
それを呆然と高台から見ていただけの俺……。
そして全てを覆い尽くした炎……。
「アーク?」
ハッとした。
昔、自分が生まれた村に魔物の群れが襲ってきた時のことを思い出していたんだ。
「なんでもない」
「そうですの? では、話を続けても?」
「ああ」
「ダンジョンを放置していると、いずれ成長し再びスタンビートを引き起こします。ですから、それを防がなくてはなりません。剪定師が余計な枝を切り落とすように、ダンジョンの中にある瘴気溜まりを浄化しなくてはならないのです。ダンジョンの中の瘴気溜まりとは、各階層にいる階層ボスのこと。それを倒せるのは……」
ゴクン。
「……倒せるのは?」
間の取り方がうまいな。この子。
「ずばり、瘴気の対極の力。『魔力』……つまり『魔術』です。それも高度な魔術を使える魔術師だけなのですわ!!」
「ああ……だから魔術学園への勧誘なわけか?」
「はい!! アークほどの能力があれば、きっとすばらしい魔術師になれますわ! ですから、ぜひ魔術学園に来て下さい!!」
ミュウミュウは鼻息荒く、目をキラッキラさせている。
一方俺はというと、え――って感じだ。
今の俺の顔を絵文字で表したら(´・ω・`)だろう。
だって困ってないもん。今の魔術で。ダンジョンにはお金がかかるにしても、多分、それなりのリターンがあるんだろうから、一度入っちゃえば、なんとかなりそうだし……。
「えっとさ。そんなに魔術師がすごいなら、魔術学園に入りたいって人はたくさんいるんじゃ……?」
「もちろんです。入学試験のために、何年も努力されている方も多いですわ」
「試験!? いや、無理だよ。俺、何にも勉強してないもん」
「大丈夫です! 私が推薦するので、問題ありません!!」
どれほどの権限がミュウミュウにあるっていうんだよ!!
だけど、どうかお願いです。と、美少女に伏してお願いされてしまうと、完全無下にするのも難しい。
「う~ん」
ボリボリと頭を掻く。
「何が問題なんですの!? 家族? 家族なら、学園に連れてきてもいいですわ! 寮で、とはいかないけれど、学園はイタリアルの王都にあるから、そこに家を借りて住まわせればいいですわ。それくらいは援助金でなんとかなるはずですもの!」
「いや、家族はいないんだけれど……」
「お金の心配? さっき言ったように、お金は不要ですのよ!」
「そりゃ、ありがたいけれど……」
「まさか……」
ミュウミュウの目がキッと厳しくなった。
「……女!?」
「ないないないないないないない!! それは絶対にない!! 金輪際ない! 一生ない! 死ぬまでない! あ……」
自分の発言に、ガーンと傷ついてしまった。
「だったらかまわないでしょ? 魔術学園に来て下さい!」
「ん~。でもなあ……」
この村に心残りがあるって訳じゃないんだけれど、なんか、面倒ていうか……別に魔術なら教わらなくても困っていないっていうか……そりゃダンジョンは諦めなきゃいけないけれど、それさえ納得すれば、別に今の生活でも特に困っていないし……。
それよりもなによりも、転生前の年齢を合わせると、俺、アラフィフどころか、アラ還、いやこの世界に還暦はないだろうからアラシックスだぞ。そんな俺が学校に……?
学校って事は勉強もするんだろう? 今更、机にかじりついて勉強? ……いや、無理だろう。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
腕に今まで感じたことのない、えもいわれぬ柔らかなものが当たった。 なんだ? この小ぶりとはいえポヨンと弾力があって、けれど柔らかくて、ぬくもりも……。
「はうっ!」
思わず、素っ頓狂な声が出てしまう。
ミュウミュウが俺の腕に抱きついていたからだ。
って、ことは。これは……この感触は……ま、まさかのOhーPai!?!?!?!?
あれ? これ夢なのかな? おれ、いつの間にか寝ていたのかな? あれ? あれ? あれ?
「ぬふっ」
どこからか、あざ笑うかのような笑い声が聞こえた。
「お願い。わたくし、アークと離れたくないんですの」
さっきよりも鼻にかかった声ででそう言いながら、ミュウミュウはもっと強くおっぱいを俺の腕に押しつけてきた。
初おっぱい! 俺のノーおっぱい人生に初めての光が!! ああ、神様、異世界転生させてくれてありが……。っ!!!!!!!!!
いや待て、これ子供! おっぱいとは言っても、子供のおっぱいだから!! これをおっぱいカウントしたら、俺、ただの変態!! っていうか、人類の敵! 子供は慈しみ、成長を見守るもの……。あれ? でも、子供も大きくなれば立派なおっぱいになる。ましてやその成長を見守り、理想のおっぱいに育てあげ……。!!! 光源氏!?
いや、でもあれは平安の人。現代の人間がそれをしたら、やっぱり犯罪。って! ここは異世界じゃねえか! 現代日本の倫理観とも違うはず!! え? この世界の倫理観はどうなの? これ、おっぱいと認めていいの!? 俺の初おっぱいはこれでいいの!?
ともかく、おっぱいカウント停止!!
離れがたく思いながらも、やんわりとミュウミュウを引き剥がした。
「ともかく、俺は魔術学園なんかに行くつもりは……」
ミュウミュウがギリッと歯を鳴らす。
え?
「……魔術学園は、女生徒の方が多いわよ」
「じょ、じょ、女生徒……」
頭の中には、まだ見ぬ美少女たちがきゃっきゃうふふと次々と浮かんできては、俺を誘惑する。
異世界転生、魔術チートとくれば……残りはハーレムじゃね!?
「行く!!」
気付けば、そう返事をしていた。




