☆ Side ミュウミュウ2
(アークとテマリ……どうしているのかしら?)
ミュウミュウの胸はズキッと痛んだ。
アークがミュウミュウではなく、テマリを選んだら? またイービスの時みたいに、じっと見ていられる?
ミュウミュウは自分への問いかけに、「否」と答えた。
自分の想いは告げた。告げた以上、もう脇役として見ているだけなんてできない。アークが欲しい。絶対に。
そうミュウミュウは、胸の前で拳を作る。
「どうしましたか、姉上?」
ミュウミュウの父親くらいに見えるイタリアル王国の国王が、気遣わしげにミュウミュウに尋ねる。
「いいえ。何でもないわ。それよりも、話の続きを……」
ミュウミュウは魔術学園の一室を貸し出し、イタリアル王族の家族会議のまっただ中にいた。もちろんオーランドは謹慎中なので、この場にはいない。魔術師になるときに、国籍も家名も捨てて出家したのだが、やはり家族とつながりを完全に断ち切ることは難しい。
「はい。あの子……オーランドは……末っ子で、王妃が幼い頃に亡くなって以来、皆で甘やかせてきたせいか……少々頭が……」
「お花畑ね」
言いづらそうなイタリアル国王の言葉を、バサッとミュウミュウは切り捨てる。国王は情けなさそうに「はあ」とうなずいた。
「そんなことよりも、オーランドがアークをあんな風に告発した理由は?」
「それなんですが……」
国王は、第一王子である皇太子と顔を見合わせ、そこからは皇太子が
話を引き継ぐ。
「実は、オーランドはドリアネス・ネフロン侯爵令嬢に昔から恋しておりまして、最短卒業記録を狙っていたドリアネス令嬢の功績を奪われたと思い込んでいるようなのです」
ミュウミュウは、ドリアネス・ネフロンを思い浮かべた。高貴な薔薇のような少女。けれど、彼女の実力は身体能力向上、魔力向上、その他さまざまな魔道具を身につけることによって上積みされたハリボテだ。さらにダンジョン攻略も、冒険者の実力によるところが大きい。大きすぎるほどに。あれでは地下三十階層の階層ボスを倒したところで、卒業試験をクリアすることはできるまい。
そう思いながらも、ミュウミュウは固く口を閉じた。
ダンジョンの情報、卒業試験の内容を、魔術師以外に漏らすことはしてはいけないことだからだ。
「そう。理由は分かったわ。けれど、ライオスは公共の秩序を乱した罪で停学、冒険者たちはギルドに追われていたはずよ。なのにどうして今日のパーティーに現れたのかしら。当然、招待なんかされていないのに。オーランドの力だけじゃないはずだわ」
口ごもった国王の代わりに、皇太子が口を開いた。
「確かな事は言えませんが……ネフロン侯爵が手を貸したのだと思います」
「ネフロン侯爵が?」
「ああ。あの事件の後、ネフロン侯爵が歯がみしているのを見た。もちろん、一瞬後には平然と下顔をしていましたが」
「……なるほど。となると、アークが無試験であることをライオスが知っていたのも、ネフロン侯爵の入れ知恵かもしれないわね」
入試に関することは、完全に魔術学園内部の情報。それを一般の学生が知っているわけがない。知っているとしたら、権限を持つ魔術師が情報を流したということ。けれどライオスの実家にそうした伝手はなく、反対にネフロン侯爵家の後押しで魔術師になった者は多くいる。それらの者が情報をもらしたとも考えられる。
いやそんなことよりも……。
(もしかしたら今までの入学自体も、不正があるかもしれない)
一学年に何人入学しようとも魔術師になれるのはそう多くはない。少なければ誰も魔術師になれない年もある。だから、魔術師たち――それもランクが上がれば上がるほど、入試を気にすることはない。魔術師になってからの方がずっと大変なのを知っているからだ。
けれどパーティーでオーランドが言ったように、魔術学園に籍を置いていただけでもその者の付加価値が高まるとしたら、不正を働いても入学させたいと思う者がいるかもしれない。
ミュウミュウはギリッと爪を噛んだ。
(綱紀を引き締める必要があるわね)
「ところで、ネフロン侯爵はなぜそんなことをしたのでしょう?」
皇太子がぽつりとつぶやいた。
「というと……?」
「ネフロン侯爵なら分かっていたでしょう。ライオスの事件の真相も、叔母上の権限でアーク殿を入学させたことも」
ミュウミュウは黙り込んだ。確かに、アークが冒険者を雇って調べられるような事ならば、ネフロン侯爵が知らないはずがない。また、ドリアネスでさえミュウミュウが何者かを知っていた。ネフロン侯爵が知らないはずもない。
「ネフロン侯爵は強欲な男です。あやつは私を廃して、オーランドを皇太子にしようとの動きを見せていました。オーランドがドリアネスにベタ惚れですので都合もよいのでしょう。二人を婚姻させて、オーランドを操り人形としてすれば、国政を執ることも可能ですから。ならばどうして、こうも穴のある計画を進めたのでしょうか? 今回の件で、オーランドの評判はがた落ち。オーランドを皇太子にする動きも静まるでしょう。なにゆえに、自分の手駒が沈むような策を許したのか……。それが分かりません」
「……」
王太子の問いに答えられる者は誰もいなかった。
ふうっと王はため息をついた。
「ネフロン侯爵の真意は分からぬ。けれど、オーランドは今回のパーティーで、王としての資質がないことを近隣諸国に知られてしまった。オーランドが表舞台に立つことはないじゃろう。けれど、王子がいるということは、国の強みでもある。王太子に何かあったときに、代わりになるものがいるということじゃからな。オーランドが頼りにならんということは、王太子の地盤安定を最優先させるさせねばならぬ」
「私の……ですか?」
王太子はポカンと顔を上げた。
「そうですわね。もうそろそろ王太子にも身を固めていただきましょう」
「……ひっ!」
とんだ、やぶ蛇をつついたものだ。
「そういえば、ローラン国のメイザ王女が来ておりましたね。大変な美人でしたが……」
「い、いや。あの手の美人は、私はちょっと……」
「では、ニュルンベルグ公国の公女は? 大変な才媛という噂ですよ」
「まあ、知的な女性は好きですが……。公女様は確か年齢が私よりも上でしたよね?」
「じゃあ、他にどんな人がいたかしら?」
こうして、一人を犠牲にして、王族たちの夜はふけていった。




