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3 異世界転生したらペタペタ美少女と出会いました(2)

(び、美少女だ……。こんなところに美少女だ……。それなのに、俺ってば「きゃっひいい」って、「きゃっひいいい」てバカみたいな叫び声を上げて。恥ずかしい……)


 思わず両手で顔を覆ってしまった。

 俺、こんな風に周りが見えないことがあるから、村の若い娘さんたちにはちょっとキモがられているんだよな……。きっと、この子も……。


「あの……」


 ん? 話しかけてくれた?

 そおっと両手を外して、美少女に目を向けると、そこには思いがけぬ満面の笑顔があった。


「……ん?」

「私たちを助けてくださって、ありがとうございます」


 助けた? 俺が?

 首を傾げつつ、周りをよく見てみると少女のすぐ近くには、気を失ったおじさん。恰好からして、御者さんかな? そして少し離れたところに壊れた馬車と、体を半分無くして死んだ馬。

 ああ……。最初にオークが食べていたのは、馬だったのか。


 探知魔術ではこんな森深くに人間がいるなんて思いもせず、成人男性よりも大きなサイズを設定基準にしていたから、この二人には気付かなかったのだ。

 オーク肉が欲しくて倒したら、結果的に少女も助けてしまったってことだな。

 それにしても、オークは食欲が旺盛だ。それ以上に、性欲も旺盛だ。俺がたまたまオーク狩りに来ていなければ、あと数年後にはとんでもない美人になるに違いないこんな美少女はオークの餌食になっていたかもしれない。そんな世界の損失をふせげたなんて……グッジョブ、俺!!


「ご無事でひょ(・・)かったです!!」

「あ……。はい」


 いいシーンなのに噛んでしまったから、つい微妙な空気になってしまった。いじいじ。


「えっと……あ、あの……。どうしてこんな森の中に?」

「街道を走っていたはずなのですが、魔物に襲われてこんな森の中に逃げ込むことに……。護衛兵士もいたはずなのですが……みんな散りじりになってしまったようです」

「そ、そうですか……」

「はい……」


 魔物に襲われて、森の中に逃げ込むなんて、悪手中の悪手だな。ま、この女の子が悪い訳じゃないけれど。

 それにしても、本当にきれいだ。こんなきれいな女の子は今までに、転生前のテレビや映画の中でさえ見たことがないくらいに。

 青みがかった銀色の髪はまっすぐ長く、肌も白くてすべすべしている。色素は全体的に薄いけれど、頬はうっすらピンクだから不健康には見えない。それに、目だ。緑色の目。まるで朝露を浴びた森の緑みたいな色をしている。優しい色だ。


「あ、あの……あなた様のお名前を教えていただけませんか?」

「名前? 俺……いや、僕のですか?」

「ええ。もちろんですわ」


 当たり前だ。ここには俺と彼女と、気を失ってる御者しかいないんだから。


「えっと……。アークです。平民だから家名はありません」

「アーク様……」


 噛みしめるように美少女は俺の名前をつぶやいた。

 自分の名前に「様」なんてつけられると、なんだがむずがゆい。


「えっと……。アークで十分です。『様』はいりません。あなたは?」

「わたくしはミュウラ……ミュウミュウと申します。命の恩人ですもの。わたくしの方こそ呼び捨てにしていただいて結構ですわ」

「それは……ありがたいです」


 呼び捨てってことは敬語も使わなくていいって事だろ? 敬語なんて転生してから使っていなかったから、さび付いているからな。


「失礼ですが、家名は?」


 この世界では王侯貴族は家名を持っている。ミュウミュウの気品といい言葉遣いといい、てっきり貴族だと思っていたんだが……。


「ああ。私は魔術師なんです。魔塔の所属になるときに国籍も家名も捨てて出家したのですよ。ですから、今は家名がないんです」

「へ、へえ……」


 ってことはやっぱり貴族出身だってことか。

 それにしてもこんなに小さいのに魔術師? この世界に来て、俺以外に魔術を使う人に出会ったのは初めてだな。


「えっと、魔術師って……ん?」


 展開したままだった俺の探知魔術に何かが引っかかった。


「……血の臭いを嗅ぎつけられたか……」

「え?」

「他の魔物がここに集まりかけています」


 不安そうにキョロキョロと周りを見渡すミュウミュウ。


「安心して下さい。あと2キロくらい距離はありますから。魔物の脚でも十分以上かかるはずです。その間に、俺の村へ行きましょう。必要な荷物はありますか?」


 俺は壊れた馬車を指さした。けれどミュウミュウはフルフルと首を振る。


「いいえ。荷物よりも御者をなんとか運びませんと……」

「俺が担いで行きますから大丈夫です」

「……あ、ありがとうございます!!」


 そしてミュウミュウは、申し訳なさそうに気に吊り下げたままのオークに目をやった。


「せっかく狩ったのに、私たちのために置いていくことになるオークは私が必ず弁済いたしますわ」


 気をうしなった御者を俺が担ぐからには、せっかく狩ったオークを諦めるしかないと思っているのだろう。


「いや、置いていきませんよ。もったいない」

「はい?」


 ミュウミュウは首を傾げた。


亜空間収納(アイテムボックス)


 心の中でテレレテッテレ~と音が流れると、空中に亜空間ポケットが出現した。中は時間停止、容量は……どれくらいあるんだろうな? 少なくとも今までに足りなくて困った事はない。

 さて、オークの体をポイとアイテムボックスに放り投げ、肩に御者さんを担ぎ上げて紐で縛り付ける。

 うん。軽い、軽い。でもバランスが悪いな。

 俺は、ポカ――ンと口を開いているミュウミュウに、ちょっと恰好をつけて手を差し出した。ついでにできるものなら、白い歯をキラッとさせたい。


「乗ってくかい?」


 そう言ってもミュウミュウは、しばらく無言で俺をじっと見つめていた。

 やばい。なんか、外したか!? イメージの中では、貴族のお姫様って、こうやってエスコートするもんだと思っていたんだけれど! あ、御者さんを先に担いだのが悪かったのか!? 確かに絵面はよくない。やっちまったか――――――!?

 しかし俺がダラダラと冷や汗が流れ出すちょっと手前で、ミュウミュウはクスッと笑って手を取った。

 ほっ、よかった。これで「結構です」なんて言われたら、俺のメンタルやばかった。




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