☆ とある教授《プロフェッサー》の冷や汗
わしは魔術学園で、若人に魔術を教えるただの爺である。魔術師のランクは教授級。つまりは、ちょっとだけイケてる爺ということじゃ。
なぬ!? 魔術師のランクを知らぬじゃと!? 勉強をしなおしてくるがよい!! と言いたいところじゃが、特別に教えてやろう。
魔術学園を卒業し、魔術師になった者はそれぞれランクに分けられる。初心者、一般級とあり、そこから専門職に分かれ各分野で活躍し、特定の成果を得られると教授級となる。そして教授級であるわしよりもさらなる高みに、賢者級というものがある。
現在賢者級は学園長一人しかおられぬので、実質わしが魔術学園でも世界における魔術師としても二番手といったところじゃわい。
さて今日も教壇に立ち、講義室にいる顔をそれとなく一人一人に目を配る。
二学年になった彼らは、学園入学時の半分の人数になっている。進級テストや定期テストで不合格になったり、自ら限界を認めて学園を去る生徒が多いからじゃ。きっと今残っているいる生徒も、三学年進学時にはさらに半分になり、卒業して魔術師になれるのはさらにその半分いればいい方じゃ。
若い身空で、苦節を味わうのはいたましいことじゃが、それも仕方があるまい。
まあ、魔術師になれずとも、魔術学園で習い修めた魔術が無駄になることはない。卒業出来なかった者は魔術師と名乗ることは出来ぬが、魔法使いとして冒険者になったり、貴族に仕えたりしてそれなりに活躍の場があるでな。
「さて、講義を始めるとするかの」
わしは二人の生徒に注視した。
一人は、ドリアネス嬢。
イタリアル王国の侯爵令嬢らしくプライドも高い。けれど、そのプライドを保つための努力も惜しまぬがんばりやさんじゃ。
少々、周りの声に振り回されがちな部分もあるが、周りの声を聞くのは悪いことではなかろう。あの欠点さえ外せば、もっと成長できるのじゃが……。
そしてもう一人。アーク君。
ミュウラ……ミュウミュウ様が連れてきた人物じゃ。
彼は天才じゃ。
ミュウミュウ様が推薦し、我ら教授級の魔術師全てが、面接と称して彼の魔術を見せられた。
その結果、何人かの同僚が教授級を辞して、それぞれの専門分野に戻って研鑽をするきっかけになってしまった。おかげで今のところ教授級は七人しかおらず、講義やテストなどてんてこ舞いじゃ。
わしもできることなら戻りたいが、わしの専門はダンジョン魔術師じゃ。
さすがにこの歳になると、幾晩もダンジョンで野営は……きっつ。やっぱりダンジョンはアーク君くらいの若者が……。
「おっぷっ!」
今日も、禍々しいまでも魔術錬成を行っておる。
魔術を使う者は、瞑想によって魔力を回復し、さらには魔力を多少なり増加することができる。塵も積もればなんとやら。わずかな魔力増加でも、ダンジョンではそれが生死を分ける事もある。
だから学生には積極的に瞑想を勧めてはおるのじゃが……。
なんなん? あれ、世界でも盗りに行くつもりなん?
もともと魔力が多いのに、あんなに魔術錬成をしたら、時空がゆがむんじゃないのかね? 心配じゃから、保護魔術を重ねがけしておくかの。
「どうしたんですか、先生?」
心優しき生徒が問う。
「な、なんでもない。歳かのう……?」
わし、君らの方が心配じゃよ。アークくんの魔力を感じないなんて。だから、平気でアーク君をいじめたりできるんじゃろうね。実力差がありすぎて、相手の実力が分からないようじゃ、きっと君らは進級もできまいよ。
ほら、ちゃんとドリアネス嬢はちゃんとガクガク震えとる。あれが普通の反応じゃ。もっとも、ドリアネス嬢は実力差が分かっていてもアーク君に突っかかっていくっていう、特殊な性癖をもっておるようじゃから、別の意味で心配じゃがな。
「え~と、今日の講義は魔力増加の方……」
オワタ。なんでわし以上に魔力錬成について長けたアーク君に講義をしなくちゃならないんじゃ! し、仕方がなかろう。他の生徒もおることじゃし。
「まず基本的なことからじゃ。ここにいる者は、ある程度魔術を使える者じゃろう。けれど、走るのに体力がいるように、魔術を使うには魔力がいる。体力を増やすには、徹底的に鍛えること。魔力を増やすにも鍛えることが必要じゃ」
ダンジョンで死にかけるたびに、もっと魔力が多ければ、魔物に攻撃魔術をもう一発お見舞いしてやれたのに、もしくは仲間に回復魔術をかけてやれたのにと後悔したことが何度もあったものじゃ。
もっと魔力が多ければ……。ダンジョン魔術師をやめて教授級になるときに、魔力を増やす研究をし始めた。
「まずやることは、魔力を膨張させることと、凝縮させることじゃ」
わしがこの講義を始めて十数年。ほとんどの子供たちは、口をぽかんと開ける。なぜなら今の子供たち……特に貴族出身で金にあかせて買い集めた魔術スクロールで魔術発動の感覚を体に染みこませ、その感覚頼りで自らの魔力で魔力発動を覚えておる。それらの者は、自らの魔力を自由に動かすこという感覚がないのじゃ。そんな彼らが風船を膨らますかのように膨張させたり、凝縮させたりすることは難しい。
なんなら今この時でさえ魔道具で魔力発動を補っておる者もちらほらおるしの。
わしはついつい、ドリアネス嬢に目を向けた。
もったいないことじゃ。
財がありすぎて、魔道具で身を固めておる。その過剰な魔道具が自らの才の飛躍の足かせになっておるのじゃがのお……。それよりも魔道具に頼る癖さえ外せば、よい魔術師になるじゃろう。まあ、よかろう。いずれ壁に当たったときに、あがくのも若人の特権じゃ。悩むがよい。
「ふぉっふぉっふぉ」
年寄りにとって、若人の悩む姿はなんともいえぬ美味な果実よ。せいぜい悩むがよろし……。
「先生! アークが寝ています!!」
ぶっほ! 君、やめなさい、起こすのは!!
アーク君は寝息と同時に魔力膨張……それも、ああん。なんて、どろどろと濃いのじゃ~。
ミュウラ……ミュウミュウ様の話によると、アーク君もこれからは本気で魔術を極めるとのこと。
正直、これ以上何を極めるつもりかは分からん。それより、アーク君に教えるだなんて、わしを含めて教授級魔術師のメンタルをガシガシ削っていくから、早いところ卒業してほしいものじゃ。
◇◇◇◇◇
いや~。マジやばかった。
久々にまともに講義を受けていたら、「魔力は限界まで使ってはだめ。最悪、死ぬ」って先生が言っていた。
だ――!! それ、俺が赤ん坊の時に、魔力を増やすためにやっていたヤツじゃん!!
俺、今生きているの奇跡ってやつ?
次回は、本日12時に予約投稿です。




