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81話 実地試験【前編】

 ―――エルフェル・ブルグ、滞在9日目の昼過ぎ


「無理ゲー!」


 クレインさんのお屋敷に戻り談話室に入った瞬間、オレはそう叫んだ。

 アルムとリレルは、そんなオレを見て苦笑いしている。


「何だよ、サディエルのあの素早さに体力!」

「ヒロト、忘れているようだが……あいつ、あれでも古代遺跡での戦闘で、ガランドの配下であるデーモンを撃破して、体力温存優先での防戦を行いつつ、僕らが駆け付けるまで、魔族相手に生き残っていたんだぞ」


 そう言われると、確かにそうだけど。

 オレはなかなか捕まらないサディエルに、苛立ちを覚えていた。


 昨日から全戦全敗、欠片も捕まえられる気がしないのである。



◆作戦その1、出待ち


「病院から出てくる瞬間、アルムとリレルで上手く誘導して、オレが近づけば行ける!」


 と、オレは病院からサディエルが出てくるのを待つ。

 お礼参りの為にリレルが病院内に入っており、そこから上手く誘導して、アルムで気を引いて貰っている隙に、オレがサディエルを捕まえる、と言う流れを予定していた。


 そう、過去形である。


「退院おめでとう、お大事に」

「はい、ありがとうございました!」


 医師のおじいさんや、看護婦さんたちに挨拶を済ませたサディエルとリレルが、病院から出てきた。

 オレとアルムは、病院の門の陰に左右別れて待機、その瞬間を待つ。

 リレルと会話しながら、警戒心無く近づいてくるサディエルだったのだが……


「それじゃリレル、またあとで」


 門に近づいた瞬間、彼は少し右にずれて近くの木に登り、軽々と門壁を乗り越えて着地する。

 いきなり門壁を越えてこられたせいで、オレが目を白黒させていると、彼はいつも通り気楽な感じで右手を挙げてから……


「アルムにヒロト。この後はアークを探すから、軍港あたりでな」


 と、行き先だけを宣言して、さっさと歩きだしてしまった。

 待ち伏せに気づかれている可能性は、想定していたわけだけど。


 オレは去っていくサディエルの背中に向けて、大きく息を吸い込んでありったけの声量をぶつける。


「木を使って門壁を超えるとか聞いてない!」



◆作戦その2、人混みを利用した接近


 エルフェル・ブルグの軍港へ行く道は、どうしても人通りが多い中央道を通らないと行けない。

 そこの人口密度はなかなかのものであり、お祭りでもないのに、結構人にぶつかりやすいのだ。


 で、その人混みに紛れてサディエルに近づいて、捕まえる!


 さっすがのサディエルでも、こんな人混みの中で気配察知とか無理だし、簡単に逃げられないはず。


「敵を発見、これより接近する」


 少し先を歩く彼を発見し、オレたちはじわじわと距離を詰めていく。

 しかし、一定のラインまで近づくと、そこから全然距離が縮まらなくなった。

 まるで、こっちの歩幅を把握しているかのように、彼に全く近づけない。


「……気づいてますね、これ」

「だな」


「こっちに視線を全然向けてないのに、何で分かるんだ……!」


 オレがそう問いかけると、2人はちょいちょい、とある方向を指さす。

 その方向に目をやると、ショーウィンドウがあった。

 よくよくソレを見ると……まさか……


「あそこにオレらの姿が映っている!?」

「その為に、わざわざ右側寄りに歩行していたってわけだな」


 結局、軍港に辿り着くまで、オレらとサディエルの距離に変化が起こることはなかった。



◆作戦その3、アークさんとの会話中を狙う


「よっ、アーク。仕事中に呼び出して悪い」

「構わないさ、今日の分はもう終わったからな。後遺症とかは無いか?」

「お前が言うとシャレにならないんだが。大丈夫、なんともない」

「それなら良かった。ところで……」


 会話を一区切りさせ、アークさんがオレらに視線を向けて来た。

 しばし、こちらを見た後、ゆっくりと、ゆっくりと視線をサディエルに戻して……


「何やっているんだ?」

「ん? 帰路に備えて、ヒロトにコンビネーションの実地試験中」

「あー……5年前にやったって噂のアレ。結構、話題になっていたぞ」

「そんな話題になる程だったっけか……」


「お前がっつーより、出不精の愛弟子・一番弟子コンビが、3日間国内を駆けずり回っていたのが有名かな」

「あ、そっち」


 そんな内容が聞こえてきた途端、アルムとリレルが同時に耳を塞いでから他人の振りをし始める。


「ちょ、ア……」

「今、僕の名を呼ぶな」


「えぇ……リ……」

「呼ばないで頂けますか、ヒロト」


 結果、オレ1人でサディエルに近づこうにも、上手い具合にアークさんを盾にされたせいで、無理だった。



◆作戦その4、お人よしを利用して心配させる


「こうなったら、サディエルのお人よしっぷりを利用する!」


 と言うわけで、サディエルに心配された瞬間に捕まえようとした。

 ほら、良くあるじゃん。

 逃げていたけど、追いかけている側が転んだりとか、何かあったりしたら、追われてる方が心配して戻ってくるアレ。


 お人よしな彼であれば、100%引っかかると確信していたわけだが……


「サディエル、まっ……うわっ!?」


 ズザッ、とオレは地面に倒れこむ。

 それに気付いたサディエルが、予想通り慌ててこちらに近づいてきた。


「大丈夫か、ヒロト!」

「うん、大丈夫だ……よっ!」


 一瞬の隙を突き、サディエルの右手を狙ったが……あっさりと引かれて、スカしてしまった。


「………」

「………」


 オレらの間に沈黙が下りる。


「何で捕まらないの」

「いや、明らかに罠だってのは分かるよ流石に。これを信じるのは、相当なお人よしだと思うぞ、俺……」


「その相当なお人よし筆頭から、ダメだし食らったオレの心境を述べよ」



 ―――と、まぁそんなわけで。


 あの後もあれこれとチャレンジしたが……無理だった。

 もちろん、シンプルな鬼ごっこも当然やったよ、3人で包囲するようにしながら。

 だけど、あっさりと突破されて、スピードに物言わせたサディエルの姿を見失うのに、時間はさほどかからなかった。


 彼を見失ったオレたちは、これ以上の探索を諦め、クレインさんのお屋敷に戻ってきたのである。


「一筋縄じゃいかないのは分かっていたけどさ……こうも手ごたえが無いと、きっつい」


「あいつの動きを止めることが、そもそも大変だからな」

「体力切れを待とうにも、私たちの方が先に力尽きることになるのは、目に見えておりますし……」


 シンプルな体力と俊敏特化って、つまりはゲームで言う、極振りタイプってことだもんな。

 攻撃極振りとか、防御極振りとか。

 それのリアル版……となると、それはそれで弱点があるはずなだけど。


 今回みたいな、逃げ一辺倒となると……その体力と俊敏が完全に生かされて、手の付けようがない。


「あれか、もう罠張るしかないか。サディエルの部屋に鳥黐置くとか」

「鳥や昆虫を捕まえるのに使うアレか?」

「さすがに、クレインさんのお屋敷でそれをやるのは、あまり宜しくないかと……」


 だよな……自分の家ならともかく、ここはクレインさんのお屋敷だし。

 と言うか、そんなものを設置しようもんなら、後でレックスさんに怒られそうな気がする。


「サディエルの入浴中や就寝時を狙うとか……」

「風呂は各部屋にあるし、部屋に鍵かけれるから無理だな」


「食事中を……」

「レックスさんに行儀が悪いと怒られかねませんね」


 作戦が、作戦が悉く却下されていく……!


「はぁ……どうしよう」


 こうして、作戦会議は振出しに戻ってしまった。

 コンビネーションの実地試験なわけだから、アルムやリレルと協力してって部分は達成しているつもりだけど。


 多分、まだ何かが足りないんだろうな。


 一応、明日の昼過ぎにはアルムたちがヒントをくれるとは言っていたけど、出来るならば頼りたくない。

 それに、サディエルは既に大きなヒントを通知済みってわけだし。


『期限は今日から明後日までの3日間。その間に、アルムやリレルと協力して、俺に触れることが出来たら勝ち』


 ……何度思い出しても、期限と勝利条件しか言ってないよな。

 本当にヒントなんてあるんだろうか、と疑いたくもなる。


 アルムやリレルと協力して、サディエルに触れることが出来たら、だろ?


 うーん、ダメだ。こういう時は考え方を変えてみて……

 今までにあった、言葉遊びみたいな奴で何か参考にならないかな。


 直近で言葉足らず、もしくは、言葉遊びみたいな引っ掛けがあった件はっと……あー、思い出した。

 オレが、アルムとリレルを置いて、カイン君とサディエルを助けに行った時になるな。

 その時の会話内容を必死に思い出す。


『何故、"私とアルムも一緒に行く"、と言う選択肢を思いつかなかったんですか!』

『え? いや、だって……』

『あの魔王は、ヒロトがいないとサディエルを探せない、とは言った。だが、僕らも付いて行ってはいけない、とは一言も言ってなかったんだぞ』


 そうだ、そうそう。

 カイン君の言葉の中には、オレの同伴こそ必須だけど、アルムとリレルが付いてきちゃダメというわけじゃなかったって……


「ん?」


 そこまで考えて、何かが引っかかった。

 そして、もう1度サディエルの言葉を思い出す。


 いや、まさか……え? これが正解?


「……アルム、リレル」

「おっ、もしかして気が付いたか?」


 オレの表情を見てか、アルムはニヤリと意地の悪い顔をする。

 一方のリレルは、どこかウキウキと楽しそうな表情だ。


「多分、気づいたかも……ちょっと、相談なんだけど」

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