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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第4章 聖王都エルフェル・ブルグ
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外伝2 文字を綴る

 ―――エルフェル・ブルグ、滞在6日目

 魔術省の特別入院室。


「これが、ひらがなの "あ" で」

「うん」


「こっちが、カタカナの "ア" で」

「うん」


「こっちが、漢字の "あ" 一覧」

「うん、おかしい。あと、目が滑る」


 亜、亞、阿、哇、娃、啞、堊、婀、猗、椏……と、並ぶ漢字を見て、サディエルはストップをかけた。

 目が滑る気持ちは凄く分かる。


「ちなみに、漢字1文字で、読み方が2文字以上の意味になったりもするよ」

「なんだその難解言語……俺らの所で大昔にあった言語ですら、もうちょい簡単たぞ」


 似たような漢字が並んでるようにしかみえねぇ、とサディエルは目を細めてオレが書いた文字を見る。

 さて、精密検査を受けているとはいっても、1日中と言うわけではない。

 その為、検査外の時間帯は比較的暇しているサディエルに、こうやってオレの世界の言語を教えている。


 ……いるんだけど、やっぱり、難しいよな。


「この、ひらがなって奴と、カタカナって奴だけじゃダメだったのか?」

「実は、オレの世界では、ひらがなとカタカナって漢字の後に出来たモノなんだよ」


「は?」


 オレの言葉を聞いて、サディエルは信じられないという表情をする。


「漢字は見ての通り、画数が多くて、書くのが大変でさ。字形を崩したり、省略しようという発想から、ひらがなと、カタカナが生まれたんだ」


「……つまり、楽しようとしたってことか」

「言い方……いやまぁ、ある意味そうか」


 表現内容が若干釈然としないけど。

 オレはサディエル用に準備した、お手製の言語取得表を指さしながら話を続ける。


「オレの世界の言語は、この3種類あること。覚えることが少ないひらがなと、カタカナだけだと読みづらい文書になること、漢字も音読みと訓読みで全く違う発音になる、ってわけでさ。実際に日常生活で使っている人間ですら、まともに扱えなかったりもするんだ」


「日常生活で使っているのに、まともに扱えないとはどういうことだよ……」

「基本的な言葉さえ出来れば、日常生活には支障はないから」


 実際に、言語を理解している人って言ったら、その筋の研究者や弁が立つ職業の人、もしくは、性格が相当捻くれている人ぐらいだろう。

 いきなり漢字まで見せたのはアレだったかもしれないけど、これの存在を伝えておかないと、先日みたいな怪奇言語が爆誕しかねないからな。

 

 いやぁ、あれの解読は流石にひどかった。


「とりあえず、ひらがなと、カタカナを先にマスターしようよ」

「了解。えーっと? "あ" が……こっちの言語では……」


 サディエルは、オレの文字を見様見真似で自分のノートに書いて、その隣にこの世界の言語を書き込んでいる。

 思ったんだけど、彼がこのノート完成させた時に、それを模写させて貰えば、言語翻訳用の辞書完成! ってことで、オレもこの世界の文字が読めるのでは?


 そんなことを考えていると、コンコンコン、と部屋のドアをノックする音が響く。

 オレが返事をすると、ガララッ、とドアが開きアルムとリレルが入ってきた。


「おーい、やってるか?」

「お邪魔しますね」


「アルム! リレル!」

「よっ、ヒロトから教えて貰っている真っ最中だ。2人の用事は済んだのか」

「一応な」


 そう言いながら、2人はそれぞれ近場の椅子に座る。

 ここまでの道すがらで買って来たのだろう、2本の飲み物をオレたちに渡してくれた。


「勉強の方はどうですか、サディエル」

「うーん、すぐに何とかなりそうなのと、時間が掛かりすぎるのとで、3:7って感じかな。ヒロトがこれまで目標達成表に書き込んでくれた文字全てを読めるように、が目標なんだが……」


 ばさりっ、とサディエルは旅の当初からのお供である、目標達成表を広げる。

 あれから3か月、結構な部分が赤い丸で括られており、オレたちの旅の軌跡を物語っていた。


「ヒロトが帰るまでに達成出来るか、ちょっと不安になってきた。勉強として時間が取れるのは、実質残り2か月半……いや、移動とかを加味したら、1か月もないだろうし」

「単純に読み方だけなら、あとはサディエルの記憶力の問題な気もするけど」


「それで何とかなっているのか? ヒロトの世界の……英語、だったっけ」

「………それ言われると返す言葉がありません」


 大学に入ったら、論文を読む為に、海外の文献も調査対象になる。

 だから、出来る限り英語を読めるようになっておかないと、単位取る為の論文作成や卒論とかで苦戦するのは自分自身だぞ。


 ……って、現役大学生の姉ちゃんが言っていた。辞書片手に。


「あれだよ、とりあえず別言語の文字を見ても、脳が拒絶反応を起こさない程度に見続けて、慣れることが第一だと思う」

「訂正、あと3年ぐらい時間くれ。無理なのは承知だけど」


 時間よ増えろ! と叫ぶサディエルに、オレは苦笑いをするしかない。

 しかし、もっと早く覚える方法は無いもんか。

 こういう場合で、良くある勉強方法と言えば……読書以外だと、映画やミュージカルの鑑賞。


 あとは……


「早く覚える方法なんだけど、サディエルの好きなモノを使って、言語を覚えるとかどうかな」


 そう提案すると、サディエルは首を傾げる。


「俺の?」

「まさかだけど、特に好きなものはありません、系の人種だったりするの」


 一定数は居るからなぁ、そういう人たち。

 オレの友達にも、趣味は特に無しって奴いるんだ。ゲームもやるし、漫画も読むし、休日には色々出かけているのにだ。

 はたから見たら多趣味にしか見えないのに、当人の感覚は『いや、特にない』とか言うね。


「いや、好きなことはあるぞ」


 良かった、サディエルが無趣味派じゃなくて、本当に良かった。


「じゃあ、それから覚えよう! で、その好きなことって?」

「えーっとな……『アルム』『リレル』『アークシェイド』『クレイン』『レックス』『バークライス』それから……『ヒロト』!」


 急に人の名前が羅列される。

 それを聞いて、オレは一瞬意味が分からなかったけど、先に察した2人が頭を抱え始めた。


 遅れて数秒し、オレも今の言葉の意味を理解する。


「俺の大切な人たちの名前から、覚えることにするよ」

「…………サディエル。ほんっっっと、さー……そういう所がさー、好きなことって言ったじゃんー……」


 オレも頭を抱えてしまう。

 抱えてしまうけど、嬉しいという気持ちも同時にあって凄く複雑。


 恐らくは、アルムとリレルも同じ心境なのだろう。


 じゃなきゃ、あんな必死に顔を隠したりはしない。


「好きなことだよ。俺にとってはな」


 ほんと、オレとサディエルが "同じ魂を持つ人間同士" って感じがしないよな、こういう所見ると。

 サディエルの来世がオレだったとしても、オレの来世がサディエルだったとしても、だ。


「ヒロト! 早く教えてくれ!」

「あー……うん、分かった、分かった。えーっと、ちょっと待って。まずは……」


 ―――30分後

 拙いながらも日本語で、オレと、アルムと、リレル、そして自分自身の名前を書き込んだノートを高らかと掲げ、俺はやったんだ! やりきった! と、言わんばかりに満足感と達成感を全面に表現したサディエルの姿がそこにあった。


 オレは、この日の気恥ずかしさと、彼の満足気な表情を一生忘れることは無いだろう。


 それから、オレは最初の街へ戻るまでの短い期間で、サディエルに自身の世界の文字を教え続けることになる。

 ひらがな、カタカナに関しては予想通り早く習得してくれた。

 けれども、すぐに、ひらがなとカタカナだけで綴られた文章が、凄まじく読みづらく、見づらいという事実にぶち当たった。


 うん、実際に日本語使っているオレでさえ、全部ひらがなとか、カタカナって読むのが大変だし。


 こうなると、どうしても漢字をある程度学ばないと見るに堪えられないってことで、漢字の学習がスタートしたわけだけど。

 難攻不落な漢字様は伊達じゃなかった。


 オレが目標達成表に書いた分だけでも難しく、それ以外でよく使う単語を……となると、候補が多すぎる。

 そんな状況で、サディエルが最初に覚えた漢字は……


「ヒロトの本名は漢字だったよな。それも教えてくれ!」

「えぇ……名前の部分はともかく、苗字はオレでさえも小学校の後半に覚えたのに、いきなりは無理だって」


「頼むよ! 教えてくれ!」

「分かった、分かった。ちょっとまってて……えっと、さがさき、サガサキ……ってのが、ひらなとカタカナで……漢字で書くと、嵯峨崎。これが苗字の方。それから……」


 ひらがな、カタカナ同様に、オレの本名と言う。

 開幕からハードモードを自ら突き進むとはこれいかに。


「あ、サディエル。そこの綴りちょっと違う、ここに1本線が足りない」

「うえぇ!? 難しいな……とりあえず、山、山、山で3つの山を並べて、それから……」

「最初が差しで、真ん中が我。右側は……えーっと、大と可」


「まだそこ覚えてない!」

「だから、先に簡単な方覚えようよ! そうすれば、文字の意味から合わせる形で覚えられるし」


「いーや! まずヒロトの漢字を覚えたい!」

「そこはちょっと妥協してよサディエルー!」


 あーだこーだと叫ぶオレたち2人。

 そんなオレたちを、少し離れた場所で見ていたアルムとリレルは……


「仲いいなホント」

「ですね」


 苦笑いしながらも、どこか嬉しそうに見守っていたのであった。

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[良い点] 烈苦巣的な…… 馬喰雷巣的な…… 火炉人的な…… (※ちがう)
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