表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第3章 冒険者2~3か月目
58/132

58話 はじまりから3カ月後【前編】

 1日の休憩と出発準備を挟み、オレたちはエルフェル・ブルグへの旅路に戻った。

 既に1か月を切った距離まで来て、わくわくもあるが、当然不安もある。


 目下の不安は、当然ながら顔の無い魔族、ガランドとの戦闘が控えていること。


 サディエルはここ数日、いつもの倍の時間の運動時間を取って、何とか筋力維持に努めている。

 荷馬車で移動中も定期的に並走して走っているぐらいだ。


 アルムはアルムで、毎日あれこれと戦略を練っている。

 オレも少し手伝って、対ガランド戦へのシュミレートを続けているが、決定打が無い以上、こちらの被害をいかに最小限に抑えるか、に重点が置かている。


 リレルは念の為にと、応急処置の道具を作り始めている。

 包帯など購入可能なものはともかく、怪我をしたらすぐに張り付ける事で、消毒と傷口を塞ぐ効果がある湿布……とはちょっと違うかな、けどまぁ例えが浮かばないから湿布としておこう。それを準備している。


 そして、オレは……


「なぁ、ほんとーに、オレ1人で?」

「完全な1人じゃない。少し後ろで俺らも援護をするさ」


「いや、ここは普通コンビネーションとかさ……」

「いざ戦闘になったら、自分の動きと相手の行動を見る事でいっぱいいっぱいになるんだ。そこに僕らの動きまで見たり、聞いたりしろ、と言う方が無理だろう」


「けどさ……」

「往生際が悪いですよヒロト。今日まで頑張って来たんですから、大丈夫です!」


 サディエルと、アルムと、リレルの、いっそ無責任なまでの励ましに、オレは思わず遠い目をしている。


 異世界に来て、今日で丁度3か月目となる90日目。

 オレは、皆から『往路の最終課題』を突き付けられて途方に暮れていた。


 3人から提示された、最終課題。

 それは、次に襲撃してくる魔物1体を、オレ1人で討伐することだった。


「複数出現した場合、まず俺らが周囲の敵及び親玉を討伐する。で、残った1体をヒロトが倒す! 実に分かりやすい!」

「分かりやすいのと、いざやるのとは結構違う気がするんだけど!?」


 いっそ清々しいぐらいの笑顔で言い切ったサディエルに、オレは力いっぱいツッコミを入れる。

 急に難易度ハードモードになっているんですけど!?

 ほら、こう、弱らせたところをペシッ! とまでは言わないけど……!


 くっそー、異世界に行ったみたいな話の主人公さんたち、何で魔物との戦闘を特に恐怖もなくやれるんだよ!?


 普通、いきなり戦闘になったら怖いものだってのに、その肝が据わり切った神経を少し分けて欲しい!

 心の中で、若干オレの世界のファンタジーに逆恨み状態だが、現実見てきたらそうなるよ。


「不安なのはわかるが、僕らが居る内に初戦を経験しておかないと、あとでもっと最悪な状況で……とかもあるぞ」

「うっ」


「そもそも、ガランドとの戦闘でもあれだけ動けたのです。私たちは少しも不安に思っておりませんよ」

「うぅ……」


「ヒロト」

「……サディエル」

「男は度胸!」

「アルムやリレルのように、もうちょっとマシな言葉は無かったの!?」


 オレだって、若干うじうじしてるし、みっともないことぐらい分かってるよ。


 はー……異世界に来た当初みたいだ。

 旅立つか旅立たないか、魔物が居るわけだから危ないし安全の保障がないしで、あれこれと悩んでいた。

 今、まさにあの時の気分がぶり返してきている。


 これまでは皆と一緒だったから、大丈夫だという自信と共に何とかなってたわけで、いざ1人でってなるとやっぱり状況が違うわけで。


「……どれだけ準備しても、練習していたとしても、いざ本番になったら緊張して動けなかったりすることあるよ」


 情けなくも、オレはそう問いかける。

 その言葉を聞いて、アルムとリレルが同時にサディエルを肘で突っつく。


 そう、不安な時や何か漠然とした言葉が欲しい時の役目は、"彼"なのだ。


「そうだな、そういう時もある。失敗した時って凄く落ち込むよな。毎日あれだけ足運びの練習とか、剣の構え方とか、こういう展開になったら負けが濃厚になるから、そうならないようにここだけは押さえてとか……この日の為に、必死に練習していたのに、本番では思ったように体が動かなくて、そのうち頭が真っ白になって、全然出来なくてさ」


「………」


「怖いよな。うん、誰だって怖い。その失敗が自分の準備不足ならばまだ諦めもつく。だけど、そうじゃない場合だって沢山ある。想定以上の強敵が出たり、周囲の環境が悪かったり……そうなると、これまでの努力ってなんなんだろうなーって、思っちゃうよな」


「そうだよ、急なトラブルとか想定外なこととかさ……」

「けど、それを味方につけるのもまた、今日までのヒロト自身だ」


 その言葉に、オレは思わずサディエルを凝視する。


「今日まで、何もしてこなかったわけじゃないだろ? むしろ、たくさんのことをやって来たはずだ。それはヒロトが一番わかっているよな」

「……やってきた。色々、何でここ(異世界)に居るのに受験勉強したりとか、治癒の魔術習おうと思ったら内臓の位置がどうとかこうとか、挙句の果てには負け筋を学ぶ方が先だとか」


 オレは苦笑いしながら答える。


 サディエルから『受験勉強の方法を確立する』って言われた時は驚いたけど、もっと驚いたのは『生き残るための知恵』を除いた、"異世界の知識は、無駄な知識"と言う言葉。

 今でもその衝撃ははっきりと覚えている。


 普通、異世界の知識って必要だろ、この世界で旅なり生きていくなりする為には。

 だけど、帰るつもりでいるならば、最終的には不要になる。だから、必要最低限以外覚えなくていいって。


 リレルから治癒の魔術を教わろうとしたら、いきなり人体がどうとか、内臓が飛び出た仲間を助ける云々。

 これもかなり衝撃だった、ただ単純に回復させれば終わりだろと。


 けど、それは違った。

 単純に治癒の魔術をかけて終わりなのがファンタジーであり、現実は違う。

 破傷風や、他の感染症……そういう危険があるから、消毒などの事前の処置が必要となる。

 これを疎かにすると、後々……致命傷になってしまうことも。


 アルムから教わった負け筋。

 これは本当に考えさせられた……結果に対する過程の問題点の洗い出し。

 その過程は、様々なことに応用出来た。


 戦闘にだって……


『恐怖心は誰にだってある。未知なことだと余計にな。だけど、それを上回るのは常に "信頼" だと思っている。確実な安全は誰にだって保障できやしない。それが普通だ。だったら、何を基準に恐怖心を上回るか?』


 ふと、最初の街で宿のご主人と交わした言葉を思い出す。

 恐怖心を上回るのは……常に信頼。


 オレは、改めてサディエルたちを見る。


 いつも通りの彼らと目が合う。

 そう、いつも通り。

 緊迫しているわけでもなく、不安そうな表情でもなく、無理やりオレにやる気出させようとしているのでもなく、本当に、いつも通りの彼らがそこにいた。


 この3か月の成果を、オレなら出せると信じ切っている顔だ。


 その信頼が、今は少し重たいとも感じる。


「頑張ってみるから、危なかったら助けてよ」


「もちろん」

「当然だ」

「はい、お任せください」


 こうして、オレの『往路の最終課題』が始まったのだった。


 その瞬間は、意外なほどすぐに訪れた。

 休憩を終えて、移動初めて数分後、荷馬車の上部に登って周囲を警戒していたアルムは眉を顰める。


「……ん? 前方に魔物発見! あいつは……オーガか。数は4体だ」


 そのの言葉を聞いて、オレは荷馬車の窓を開けて進行方向を見る。

 少し先、オレたちに進行を邪魔するようにオーガたちがその場に居た。


 今の所、気づかれてはいないわけだから、迂回するという手段も残されている。


「サディエル、どうする?」


 同じく迂回の可能性を考慮してか、アルムはサディエルに問いかける。


「荷馬車を停止、こちらに気付かずに通り過ぎるなら良し。見つかったら……戦闘に入る」

「分かりました。丁度4体です、1人1体でよろしいのでは?」


「だな。とりあえず、俺が親玉と思われるやつと1体の動きを止める。その間に、アルムとリレルは各自で1体づつ撃破してくれ」


 その言葉を聞いて、クレインさんはゆっくりと脇道に寄りながら荷馬車を停止させる。

 オレらは荷馬車から、オーガたちの様子を観察する。


「2体撃破の後、俺は親玉を相手にする……そのタイミングで、ヒロト。残っている1体をお前が相手しろ」

「分かった」


「私たちの戦い方も多少参考になるでしょう。どのあたりを狙っているか、どのような立ち回りをしているか、しっかり見てください」

「了解」


 一通りの打ち合わせを完了させ、オレらはオーガたちの出方を伺う。

 今の所はまだ気づいていないけど……


 そう思った瞬間、やつらがこちらに気づいた。


「うへぇ、きっちりこっちに気づいてきた」

「まっ、そうだろうな。クレインさん、荷馬車内へ避難を。これから戦闘になります」

「わかった。今日も頼むよ」


 そう言いながら、クレインさんは素早く荷馬車内へ。

 逆にオレたちは荷馬車から飛び出して、臨戦態勢に入る。


 地面に足をつけ、オレはゆっくりと鞘から剣を抜き放つ。


 ―――さぁ、本当の意味での、異世界での"初戦"だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ