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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第3章 冒険者2~3か月目
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57話 到着とこれからのこと【後編】

「予想はしていたけど、悪化してない?」


 検診室に入ると、サディエルがベッドにうつ伏せ状態でぶっ倒れていた。

 意識はあるらしいが、顔を上げる元気は無いらしく、声を出すこともなく、右手を左右に振る。


「お前な、仮にも体力自慢の前衛がなっさけない」

「………」


 アルムの言葉にすら、返答する気力が無いレベルの模様。

 どれだけの検診だったのやら。

 ふと、リレルは近くの机に置かれていた紙の束に目を向ける。


「こちらは……先月の検診結果ですね」


 紙の束を手に取り、リレルはパララッ、と内容を確認していく。

 オレは文字が読めないので、リレルが確認している間に、サディエルに水を準備する。


「サディエル、飲めそう?」

「………」


 コップを見せると、サディエルはゆっくりと起き上がる。


「……ありがとう」


 そして、かなーり弱々しい声で答えて、コップを受け取った。

 うーん、本格的に重症モード。


「リレル、どうなんだ?」


 一方で、先月の検診結果資料を確認しているリレルに、アルムが問いかける。

 リレルはしばし沈黙した後、その問いかけに答える。


「先月の時点では、やはり目立った異常は無かったみたいですね。まぁ、痣を受けた直後のことですから、この結果はある意味当然だったのですが……」


「今日の検診結果の方がよっぽど重要ってわけか。結果はすぐに出るのか?」

「あー……すぐに出る奴は数項目、2週間ほど時間掛かるやつがいくつかってところ」


 コップを置きながら、サディエルは答える。


「本当に体調悪そうだけど、大丈夫なのか?」

「……今回は、採血だけじゃなくて、薬も飲まされたからな。完全に副作用と格闘中だ」


 悪い、寝っ転がらせてと断りを入れてから、サディエルはベッドに倒れこむ。

 薬、と言う単語を聞いて、リレルは眉を顰める。


「サディエル、飲まれた薬と言うのはどういうものですか?」

「検査薬、ぐらいしか分からない。先月の検査結果から、可能性がある症状を見る為にあれこれ……あぁ、そうそう。筋力低下がやっぱり見られた。自己申告で伝えたら追加で検査されてな」


 そっちの1枚だと、サディエルは先ほどリレルが読んでいた紙の束とは別にあったものを指さす。

 リレルはその紙を手に取り、内容を見ていく。


「……こうハッキリと数値化されると、なかなかショックになりますね」

「だろ……とりあえず、しばらくは運動量増やして、可能な限り筋力維持していかないと……あー、想像しただけで憂鬱だ」


 半年内に完全なお荷物になる。


 サディエルは、スクウィッド(クラーケン)との戦闘後にそう言っていた。

 その半年というタイムリミットを少しでも伸ばせる可能性があるとすれば、やっぱりいつもの運動量から増やすしかないってわけか。


「とりあえず、皆はこのままクレインさんと一緒に宿へ行ってくれ。俺は動けそうにないから、ここで一晩厄介になる」


「大丈夫?」

「大丈夫だろ、ヒロトの予想だとエルフェル・ブルグ到着直前なんだろ。痣の件まで当たったんだ、そこはもう疑う余地はないはずだ」


 そこまで言い切って、サディエルは少し安堵の表情を浮かべる。


「それに、正直な所……弱体化で良かったよ。もう一方の方が俺は嫌だったからな」


「あぁ、TSの方?」

「TSの方か」

「あら残念。私個人としてはそちらの方が、脱・紅一点で嬉しかったのですが……」


「お前ら分かってて言ってるなら良いが、本気で言っているなら精神病棟に入院していいぞ、マジで」


 冗談でもやめろ、という圧が凄い……いや冗談だけどさ。

 第一、思い出さなくていい事を思い出さないで欲しい。

 せっかくこっちは、ガランド襲撃までは黙っておこう、って一致してるんだから。


「はぁ……まぁいいや、そんなわけで明日合流するから。ただ、宿がどっちか分からないから、ギルドまで来てくれ」

「分かった。じゃあ明日は……僕らも多分ダウンするから、昼過ぎに来る」

「了解。つーわけで、3人ともお休み。クレインさんによろしく」


 こればっかりは仕方ないか。

 体調悪そうなサディエルを置いて行くのもあれだけど、ここじゃオレらもゆっくり休めないわけだし。

 オレたちはサディエルに別れ、受付の近くにいたクレインさんと合流する。

 流石に荷物の手続きは終わっていたらしく、併設されている喫茶店のようなカフェのような場所で一息ついていた。


「おぉ、アルム君たち。サディエル君の様子はどうだい?」

「検査でダウン中です。動けそうにないから、今日はここに泊まるそうです」

「仕方ないの。では、儂らは宿へ向かうとしよう」


 そのまま、この港町の宿へと行き、部屋を確保してそれぞれの部屋へと入る。

 オレはベッドに倒れこみ、久方ぶりの陸の感覚を堪能する。


 いやぁ、3週間の船旅は本当に予想以上に大変だった。


 魔物襲撃じゃなくて、娯楽無し、食事はある程度固定、いつもの内容も時間が有り余ってるせいでさくっと終わっちゃうもんだから、余計に暇だった。

 リレルからあれこれ指導受けている時間もあったから、完全に暇ってわけじゃないが……

 唯一良かった部分を挙げるとすれば、夜とか魔物の襲撃を警戒せずにがっつり寝られたことぐらいだ。


「………」


 オレは一度起き上がり、荷物からメモを取り出す。

 少しばかりよれたそのメモは、最初の街でアルムから貰ったモノだ。

 そこに記載されているカウントに、1本線を追加する。


「明日で、75日目か……」


 オレが異世界に来てから、かれこれ2か月半。

 旅立ってからは、ほぼ2か月と言ったところか。

 ここから約1か月ほどで、目的地であるエルフェル・ブルグに到着する。


 その前に、恐らくは……


 そこまで考えそうになり、オレは慌てて首を振る。

 ダメだ、今それを考えたらフラグになる。

 けど……何か出来ないだろうか。


 このまま、ただ待つ以外に何かが……


 せっかく出現するタイミングも、今の状況のままならばほぼ予定通りになりそうなんだ。

 それを上手く使えないだろうか。

 大きなアドバンテージなんだ、何か……


「あっ……そうだ!」


 オレはガタッ、とベッドから立ち上がる。

 そうだ、そうだよ! わかっているんだから、これをやれば……!

 よし、思い立ったが吉日。アルムには申し訳ないけど、一緒にギルドへ行って貰って、それから……


 ―――コンコンコン


 焦る気持ちを抑えながら、再度出掛ける準備をしていると、部屋のドアがノックされる。


「はい?」

『アルムだ。ヒロト、少しいいか?』


 どうやら、ノックをしたのはアルムだったらしい。

 ナイスタイミング!

 オレはすぐさまドアまで駆け寄る。


 鍵を解除してドアを開けると、アルム以外にリレルも立っていた。


「アルム、と……リレル?」

「よっ、今後の予定確認だ」

「失礼致しますね……あら? 出掛ける予定だったのですか? まだ夕方ですからお店は開いていますでしょうが」


 そう言って、2人は部屋に入ってくる。


「出掛けようと思ってたけど、丁度良かった! 聞いて欲しいことがあるんだ!」


 興奮気味に言うオレを見て、2人は互いの顔を見合わせた後、テーブルを指さす。


「分かった。とりあえず座って話そう」


 アルムの提案に従い、オレたちは部屋に備え付けられているテーブルに着席する。


「それで、話って?」


 彼の問いかけに、オレは一度深呼吸してから、先ほど思いついたことを口にする。


「ガランドの件で、1つ打っておきたい手があるんだ」

「打っておきたい? 内容は?」

「エルフェル・ブルグへ救援要請を出したい。具体的に言うと、ガランドが襲撃して来た瞬間に、エルフェル・ブルグにオレらが大変だって、速攻で連絡出来る手段を確保したい」


 そう、ガランドの次の襲撃予定は『エルフェル・ブルグ到着直前』だ。

 その位置となれば、目と鼻の先とはいかないまでも、かなり近い場所まで来ているはず。

 そこから、何かしらの手段で、オレたちは今襲撃されています! 助けてー! とSOSを出すことが出来れば、エルフェル・ブルグから救援もしくは増援部隊を送ってきてもらえるかもしれない。


 そうすれば、オレたちが無事にエルフェル・ブルグへ辿り着ける可能性がグッと高くなる。


「……なるほど、そうか。僕らだけでの対処を考えていたが、エルフェル・ブルグの近くまで来ているんだ。戦闘開始と同時に救援要請を出せば、後は僕らが持久戦で耐えるだけになる。今の段階での撃破は不要にもなるわけだ」

「うん。オレもすっかり失念していたよ。というか、オレらだけで何とかしないとって認識で凝り固まっていた」


 そもそも、次の襲撃時はどう頑張っても相手の撃退が限界だ。

 こちらには、まだ魔族の本体がいる精神世界に対しての攻撃手段を持っていないわけだし。

 それならば、オレらも余力を残せる手段を講じるのが最善だ。


 これを思いついたのは、国に近くなった辺りでボスとドンパチやったら、流石に城壁とかで周辺警備している兵士たちに不信がられて、なんだなんだ!? って、横やりされるシーンを思い出したからだ。

 その横やりを救援に変えてしまえばいいだけだ。


「アルム、提案してみませんか?」

「……少し待て、一応色々考えている」


 オレの思いつきに対して、有効性は多分理解しているだろう。

 それでもと、しっかりとその手段を講じた場合の勝ち筋、負け筋をアルムは熟考する。


 2か月前のオレだったら、何で即決しないんだ、いい案じゃん! と思っていただろう。


 アルムから戦術論を受けた今となっては、それは無粋以外の何物でもないことは理解しているので、オレは黙って彼の結論を待つ。

 時間にして数分ほど、ようやく熟考を終えたアルムが顔を上げる。


「分かった、エルフェル・ブルグに提案しよう。確か、あの国は周辺警護の際に使う信号弾があったはずだ。その辺りを突きながら交渉してみる」

「よっしゃ! よろしくアルム!」


 オレは思わずガッツポーズをしながら言う。

 それならば、早い方がいいなとアルムは立ち上がる。


「予定確認は後にしよう。僕はギルドへ行ってくる。夕飯までには戻ってくるから」

「分かりました。では、私とヒロトは休憩とまいりましょうか」

「オレが水晶使えればいいんだけど……」

「そんな知識学ぶ暇があるなら、受験勉強していろ」


 痛いところを……いや、ちゃんとやれる範囲でやってるから。

 というか、アルムたちだって見てるでしょ、勉強しているのぐらい!?


 オレの反論はどこ吹く風、アルムはそのままギルドへと向かった。


 それから2時間後、交渉成立の朗報と共に彼が戻ってきたのだった。

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