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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第3章 冒険者2~3か月目
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53話 航海の最中【後編】

 食堂を出て、オレたちは二手に分かれる。

 幸いにも、船内訓練場と談話室は真逆にある為、特に打ち合わせなくオレたちは左に、アルムは右へと進んだ。

 

 オレらが向かった方向には、談話室があるはずだ。


「着いた……! はー……前よりは走れるけど、やっぱりきっつ……」


 必死に深呼吸しながら、オレは談話室内を見る。

 えーっと、目的の人は!?

 結構な人数が談話室に居るけど、少々無骨で人を寄せ付けない見た目な人、どこだ!?


 この人違いそう、あの人……? と、オレが頭を悩ませている間に、リレルがとある人物の元へ一直線で歩いていく。


「申し訳ありません。少々、よろしいでしょうか?」

「ん? 何だい、お嬢さん」


 リレルが声を掛けたのは、確かに少々無骨で人を寄せ付けない見た目をしている冒険者だった。


 どっちかっつーと強面。

 ファンタジーで良く居るちょい悪者風な感じの人物である。

 パーティのリーダーっつーよりは、そのリーダーに突っかかるタイプにしか見えない。


「そちらのパーティメンバーが、甲板で喧嘩をしております。仲裁よろしいでしょうか?」

「はぁ!? チッ、あいつか……最近、機嫌悪かったなそういや。分かった、すぐに行こう」


 そう言って、少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんが立ちあがる。

 その言葉に反応して、周囲に居た彼の他の仲間たちも立ちあがった。

 わお、見た目に反して統率力が高い。


 いや、人を見た目で判断は悪いよな、うん。


「それで、どういう理由で喧嘩してんだ?」


「ここ数日、魔物の襲撃が来ないからどうなっているんだと、突っかかっているんだよ」

「あー……サディエル君が言ってた件か。わりぃな、こっちの調整ミスだ」


 オレの説明を聞いて、さっさと止めねーとな……と、少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんが愚痴る。

 そして、オレたちは大急ぎで甲板へと戻ると、やはり例の冒険者は、サディエルに詰め寄っている。

 それを見た少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんは、止めようとして……その場に立ち止まった。


 って、ちょっとまって、止めないの!?


 オレは思わず少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんを見る。

 すると、彼はオレの視線に気づいたのか、肩を落として……


「止めようと思ったんだが、こりゃ決着つきそうだな」


「へ?」

「………残念。少し遅すぎましたか」

「リレルさん? ちょっと言い方がトケトゲしい……」


 オレがツッコミに奔走している間にも、最後の罵倒を言い切った冒険者さんは、サディエルから手を離す。

 その間、サディエルはやはり真剣な表情のままだった。


「えーっと、ちなみに何で……」

「彼、俺たちを呼び行く前からずっと無言だったのかい?」

「はい、そうですけど」

「まぁそれなら簡単だな。あいつの愚痴を一通り吐かせて、落ち着いた所で状況説明ってことだろう」


 うーん、さっぱり意味が分からない。

 出来れば誰か、オレに詳細な説明をプリーズギブミー!!


「お相手さんが希望していたのは、"何故そうならないのか"って説明だからだろ」

「アルム!?」


 後ろから聞き覚えのある声がして振り返ると、アルムがゆっくり歩いてきた。

 どうやら船内訓練所を確認して、その足ですぐに戻って来たみたいだ。


「説明?」

「そっ、魔物の襲撃に備えているのに何も起こらない。なら自分たちはどうすればいいのかという判断材料が欲しいってわけだ。いつまで甲板で待機していればいいのか、対象海域は抜けたのか、持ち場を離れても問題ないのか、とかだな」


「なるほど……って! それならそうと最初から聞けばいいじゃん。何で喧嘩腰で突っかかってくるんだよ!」

「それを判断出来るやつが、この船にいないからだな。誰にも『もう魔物の襲撃はありません』って断言する術がない」


 結果として、今回の情報を伝えてきたサディエルに矛先が向いたんだろう、とアルムは呆れながら付け加える。


 けど、やっぱりそれ、理不尽なんですけど!?

 情報量の関係上、指揮官であり船長でもあるアークさんですら、こうだってハッキリ断言出来ないだろうし。


「それに、船内ってのは閉鎖空間であり、娯楽も少ない。知らず知らずのうちにストレスを溜め込みやすい環境だからな」


 あー、あれか、ずっと家に居るとストレスがたまっちゃって感覚。

 多分それに近いのか。

 もしくは、ミステリーとかで屋敷に閉じ込められた時に、時間経過とともに極度の緊張状態が続いて、精神バランス崩れて暴走する人とか居るわけだけど、あんな感じかな。


「結果的に、普段なら怒らないようなことにもイライラしてしまった。って、ところじゃないですか?」

「サディエル君のパーティメンバーかい? だいたい君の想像通りだと思う、いやはや、面目ない」


 そんな会話をしている間に、サディエルは何かをあの冒険者に伝えている。

 今の流れを総括すると、何で襲撃が来ないのか、今後どうすればいいのかの具体案を提案しているのかもしれない。


「そろそろいいかな。じゃあ、行くぞ」


 少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさん合図と共に、オレたちはサディエルたちに近づいた。

 近づくにつれて、サディエルたちの会話内容が聞こえ始める。


「はい、現状としては危険度はだいぶ減っている為、長時間の甲板待機は不要となります。今後は甲板にいる水夫の皆さんでも、初動の対応は可能でしょう」


「対応が遅れる心配は無いんだな」

「その通りです。この船に乗船している水夫の皆さんは優秀ですし、何より今回の航海では護衛船団も付いています。それよりも、今回の話を似たような意見の方々に伝えて頂けませんか? 俺の方ではそこまで把握しきれません。今回は俺が対応出来たので良かったですが、何も知らない人とぶつかり合うのはあまりよろしくないかと……」


「わかった。悪いな、怒鳴っちまって」

「いいえ。不安な気持ちは分かります。実際、俺も海上、しかも船の上での戦闘経験が少ないので、心配でしたから」


 うわぁ……さっきまでの怒鳴り散らしていた人と同一人物には見えない。

 オレらが少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんを探している間に、どんな話術で説得したんだよ。


 むしろ、そのシーンをしっかり見たかった気もする、けど……いや、悪化してたらまずいわけだから、これで正解だ、正解。


「おいコラ、何やってんだお前」

「げっ、リーダー!? お前らも……あー……その、すまん。暴走してた」

「謝るならサディエル君だ。ったく、俺の方もお前の心理状況把握しきれてなかったのがそもそもの失敗だった。ほらっ!」


 バシッ! と、少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんは、冒険者さんの背中を叩く。

 やってしまった、と言う表情を浮かべながらも、冒険者さんは頭を下げて


「すまん、迷惑かけた!」


 そう改めて謝罪してきた。

 すると、サディエルはゆっくり首を振り


「いいえ、仕方ありません。残り数日、無事に航海を終えられるように、協力しましょう」


 彼らに握手を求める。

 順番に握手を返されて、これで解決という流れになった。

 うーん、この光属性主人公。


「とりあえず、乱闘騒ぎにならなくてよかった」

「だね……って、え? 乱闘騒ぎの可能性もあったの?」

「サディエルの説得がもうちょい遅かったらな。リレルが殴りかかりそうだった」


 アルムの言葉に、オレはちらりとリレルを見る。

 ようやく、いつも通りの笑顔に戻って居る……んだけど、圧が、無言の圧がやっぱり怖い……!


「僕の方にあちらさんのリーダーが居れば、もうちょい時間稼ぎしてから甲板に来る予定だったんだが、よりにもよってそっちが正解引いてたから、かなり焦ったぞ……」

「……あー、それで大急ぎでこっちに戻ってきたんだ」


 思ったよりもアルムの合流が早かったのにはこれで納得。

 オレは改めてリレルを盗み見る……うん、笑顔の圧が怖いだけで、さっきの絶対零度の見下すような表情じゃなくなった分、かなりマシだ。


 さっきはガチめに怖すぎた、夢に出るぞ……


 一方でひと段落いった為か、肩を落としながらサディエルが戻ってくる。


「アルム、リレル、ヒロト。悪いな、なんか慌てさせたみたいで」

「あ、気づいてたんだ」

「そりゃな。それからリレル、今回は致し方ない事情だったんだ。この航海以降、絶対に会わないならやり返しても良かった。だけど、冒険者同士どこかで必ず協力する時が来る。その時に、今回のシコリを残してしまったら、成功するものもしなくなるんだ。それに、俺は大丈夫だから」


 そう言いながら、普段はオレにするように、ポンポンを頭を軽く叩く。

 扱いがあれだな、小さい子に言い聞かせる的な感じ、いや、あの行動は俺にも良くやるから、年下相手の動きだなこりゃ。

 一方でリレルは少しばかりだがふくれっ面をした後、ため息を一つ吐く。


「わかりました。それで納得いたします」

「ありがと。さってと、同じように不満に思っている連中は、さっきの彼にお任せしてしまうとしてだ……アークに報告しないとだな。ついでに、エルフェル・ブルグからの追加情報がないかも確認しよう」


 なんか、結果的に慌てただけになったけど、一件落着で良かった良かった。

 少々無骨で人を寄せ付けない見た目のリーダーさんを連れてきて、そっからの乱闘騒ぎとかになったらシャレにならなかったし、平和に終わるならそれが一番。


 そう考えながら、オレたちは船内に戻ろうとしたその時だった。


 鈍い音と共に、船が大きく揺れる。


「うわぁ!?」


 バランスを崩して倒れそうになった所を、サディエルが寸ででキャッチして、何とか床への激突は避けることが出来た。

 というか、この急な揺れって!?


 周囲を確認するよりも早く、周囲の船から、ドーン、ドーン、と太鼓のような何かの音が響く。


「これは!?」

「一件落着した途端かよ、魔物の襲撃だ!」


 このタイミング!?

 というか、どこから!?


 周囲を確認すると、オレらが乗っている船と並走している護衛艦が何やら騒がしい。


『護衛艦に通達! ニードルフィッシュのようなものから側面を攻撃されているだろうが、間違っても光物を出すな! そこ目掛けて両顎の棘がすっ飛んでくる。死にたくなければ、光物を出すな!』


 そこにアークさんの声が響き渡る。

 ニードルフィッシュって、オレの所と同じ認識でいいなら、めっちゃ顎が尖って針のようになっている、ダツって魚と同種じゃなかったっけ!?


 そっか、現存する海の生物を元にして魔物に変えてるわけだから、元々危ない魚とかが真っ先に魔物化されてるのか!


「ニードルフィッシュもどきの攻撃か……そうなるとさっきの船の揺れはそれか?」


 何とか揺れが落ち着き始め、アルムが周囲を警戒しながら疑問を呈す。


「いいえ、ニードルフィッシュはそこまで大きな魚ではありません。船を揺らすほどの衝撃はないはずですが……」

「同時に数十匹で……なわけないわな、性質上。となると……別の魔物がいる!」


『甲板にいる冒険者の皆さん、警戒態勢! 護衛艦をすり抜けて、本艦へと魔物が襲撃する可能性大! 繰り返す、警戒態勢! 船内の皆様は、まずは落ち着いて各部屋へ戻ってください。船内の冒険者の皆様は、中層部で待機をお願いします! 船底にダメージがあった場合、近くの水夫の皆さんの指示に従って行動を!』


 矢継ぎ早に、アークさんの指示が木霊する。

 そっか、船底から攻撃される可能性もあるのか!


 こういうのって、だいたい甲板に魔物が出てくるもんだと思ってたから、その可能性すっかり失念していた。


 つーか、普通、船底に穴開けた方が圧倒的に早いよな。


「アルム、リレル、ヒロト。それぞれ武器の準備、迎撃態勢」


「おう」

「分かりました」

「了解……!」


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