↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第3章 冒険者2~3か月目
PR
54/132

54話 船上の攻防戦【前編】

『護衛艦、閃光弾用意。本艦は水中用音爆弾の用意! まずは連中の土俵から、こっちの土俵へ引きずり出す!』


 アークさんの指示の元、甲板にいる水夫たちが慌ただしく動き出す。

 オレたちは下手に海に投げ出されてはいけないので、甲板の中央部分へと集結する。


「お相手が水中にいるんじゃ俺らも手が出せない。まずは、アークたちの結果を待つ。音爆弾でこの船を攻撃してくるやつが浮上してくるなら良し、来なかったら別の手段を講じることになるから、その指示があるまで待機」


「なぁ、雷の魔術とかで水中をどかーんっと出来ないの? その方が早いような」

「そうしたいのは山々ですが、それをやってしまうと、この周辺に住む魚介類にも悪影響があります。生態系が大きく狂うと後々に影響が出てしまうので、最終手段の域ですね正直」


 やっぱりかー……一応提案はしてみたものの、そういう危険があるよな。

 くっそー、ゲームとか漫画とかでは気楽に雷で痺れさせて勝利ってのが一般的過ぎて、そりゃ冷静に考えたら無理だよな。


「ちなみに、間違っても火の魔術使うのも禁止だ。船が燃えて逃げ場無くすどころか、自ら餌になる為に海へドボンだ」

「あ、はい。デスヨネ」


 アルムの追撃に、オレは思わず項垂れる。

 一般的な対策がこれで軒並み潰された。スケルトンの時とほぼ同じ状況である。


 かと言って、わざわざ水中戦を仕掛けに行くのは恐らく下策中の下策だ。


 じゃなきゃ、こうやって甲板中央にオレらを含めた冒険者たちが集まるわけがない。

 けど、雷も、火もダメとなると残るは水と風、土の3属性と、それに紐づく複数属性の魔術だけが有効打か?

 あとはこういう海上戦の場合は、船の設備でどうこうするか、甲板に魔物が飛び込んでくるのどれか。


 って、甲板に魔物が飛び込んでくることがそもそもファンタジーだ。

 誰が好き好んで得意フィールドである水中から、動きが鈍くなりがちな上に、呼吸すら覚束ない地上に上がってくるんだよ!

 そりゃ、アークさんたちの初手が『相手の土俵から、こっちの土俵へ引きずり出す』わけだ。


『閃光弾、確認完了。射出と同時に雷の魔術の準備! やつらが空中に居る間に感電させろ!』


 あ、そうか。水中に放つのがダメなだけで、空中に居るならば話は別だ!

 さっきリレルが懸念を示した、水中の在来種を含めた魚介類に対してまでダメージが行ってしまう件も、これならば大丈夫だ。


 護衛艦の閃光弾が発射体勢に入る。

 複数の砲撃音と共に、球体が次々と船から離れた位置に向かって射出された。

 球体は一定距離飛翔した後、爆音と共に凄まじい光を放つ。


 距離と取っているこっちから見ても、かなりの光だ。


 閃光弾の光が発せられた直後、そこに向かって大量の魚が海面から飛び出してきた。

 その一瞬を逃さず、空中に対空していたニードルフィッシュめがけて、雷の魔術が直撃する。


 やっぱり、ニードルフィッシュの見た目は、完全にダツのそれだ……あの魚、確かオレの世界でも結構な事故を起こす魚で、死者も出ているやばい奴なんだよな。

 うへぇ、刺さることを想像しただけでも血の気が引く……


 オレがそんなことを考えている間にも、左右に分かれて配備されている護衛艦で、それぞれがニードルフィッシュを一網打尽にしている。


『音爆弾、準備出来たな!? 水中に放て! 甲板の冒険者諸君、戦闘準備を!』


 その言葉を聞いて、オレたちは一斉に武器を持つ。


「ヒロト、分かっているだろうが防御主体だ。どうしても前に出たい時は俺らの誰でもいい、声をかけてくれ。援護に回る」

「分かった。必ず声を掛ける」


「アルム、今回の勝利条件」

「今から上がってくる奴の撃破、もしくは手を出したらダメだと分からせること。負けの条件は、船から落ちるな、船の守り最優先、ヒロトはそこに追加で自衛しっかり!」


 船が壊されようもんなら、こんな島も陸も見えない海のど真ん中で救援待ちとか嫌すぎる。

 ファンタジーなら都合よく無人島なりに流れ着くんだろうけど、冷静に考えて鮫とかだっていそうな海で、潮の流れにのって流されてそんな場所に着く方が色々おかしいもんな!

 絶対にありえない、安全第一!


 さすがにオレだって、もう現実的な思考くらい出来る!……いや、さっきの雷云々は忘れてください。


 それに海に落ちたらもれなく相手のフィールドだ。

 水中じゃ碌に身動きすら取れない状態な上に、目なんて開けられるわけがない。

 仮に目を開けても、周囲がぼやけて見えるし、目が痛くなるから無理だ。


 よしっ、状況整理完了!

 アルムが言った勝ち筋と負け筋、これをきっちり今回も守るだけだ!


『音爆弾投下!』


 アークさんの合図と同時に、閃光弾とは打って変わって静かな時間が訪れる。

 だが、その静けさは嵐の前のもの。


『炸裂まで、5……4……3……2……1……! 全員、支柱などに捕まって、衝撃に備えろ!』


 その言葉と同時に、船が大きく揺れる。

 だけど、これは船に攻撃されたものではない。


 同時に、ザバッ! と津波のような大きな水しぶきが前方に出現する。


 水しぶきが甲板にいるオレたちに降り注ぎ、遅れて大きな影が甲板に着地する。

 その重さで前方部分に大きく傾くものの、オレたちはそれぞれ手近な支柱に捕まっていたおかげで、滑り落ちることはなかった。


 あっぶな!? いきなり海に投げ出される所だった!


 何とか船がバランスを保ち、ぐらぐらと揺れはするものの、立ち上がれる程度には落ち着いてきたところで、オレは甲板に揚がってきた奴を見る。


「クラーケン!?」


「スクウィッドだな」

「スクウィッドだよな」

「スクウィッドですね」


 あー、そうか。現存する生物を魔物化している真っ最中だから、異世界で通じるはずの単語が通じないのか。


 うん、クラーケンって言っても分からないよな。イカだ、イカ。英語でスクウィッド。

 オレの世界でも一応、巨大イカは確認されているし、ちょこっと検索すれば実物の写真も見つけることが出来たりするわけだけど、ここまでデカくて直立で立っているって意味では、やっぱクラーケンだな。


「とりあえず、甲板に揚がってきたなら雷の魔術………は、無理だ。オレら今ずぶ濡れ」


 先ほど、こいつが揚がってきた時の水しぶきで、オレら含めた甲板にいた冒険者たちはずぶ濡れ状態。

 こんな状況で雷なんぞ撃ったら想像しなくても分かる。


 漫画とかのお約束の全員に被害行くやつ!


「まっ、元がスクウィッドならば対処は楽だな。俺が触手攻撃を引き付けるから、後よろしく!」

「援護する。途中でドジるなよ!」

「分かってる!」


 そう言うと、サディエルは剣を構えて走り出す。

 同様に他の冒険者の何人かも、クラーケンに向かって走り出す。

 ただ、全員が突撃しているのではなく、各パーティごとに1~2人ぐらいだ。


 他の冒険者も居る状態の戦闘は、最初の街での魔物襲撃以来なわけだけど、パーティ全員が突撃してるわけじゃないんだな。

 必ずパーティのうち何人から、その場から動かずに周囲を見て、あれこれ相談をしているのが見える。


 さらにそのうち何人か、遠距離攻撃をする術がある人たちが、弓矢などで援護しながら指示を飛ばしている。

 なんつーか、イメージはパーティ全員で突撃ー! って感じなんだけど、この場にいるほぼすべての冒険者パーティがオレらと同じ状況だ。


「スクウィッドの弱点は真水です」

「真水?」


 リレルの言葉に、オレは鸚鵡返しで問いかける。

 あれ、確かそれって……学校で習ったような……そうだ、生物学で確かそんな話を。

 オレは必死に頭を捻って、ようやく思い出す。


「そうだ、浸透圧が違うからだ! 確か、浸透圧調整が出来ない特徴があるから真水に触れ続けると、細胞内の方が浸透圧が高いせいで細胞内に水が染み込んで、大変だって」

「種類にもよりますけどね、ただ今回元となっているスクウィッドを考えると、真水が弱点で問題ないでしょう」


 正面では、サディエルたちが触手を引き付けて回避したり、上手く防御したりしている。

 オレたちがやることは、あのクラーケン……いや、もうこっちの言い方に統一しよう、スクウィッドの弱点を突く準備ってことか。


「ヒロト、魔術のおさらいです。4大元素魔術は、"魔力で周囲にあるものを集めて、それを放つ"……そして、あのスクウィッドの弱点は真水です」


「そう言うってことは、単純に水の魔術を使えばいいってわけじゃなさそうだよな?」

「その通りです」


 簡単に水をぶっ放すことが出来ないってことか。

 えっと、周囲にあるもの……周囲って、海なんだから水ならたくさん……って、まさか。


「リレル、まさかだけど、ここで何も考えずに水の魔術を使う場合、魔力で集められる"水"ってまさか……」

「最も消費を少なく放つのでしたら、ご想像通りです」


「水は水でも、"海水"が集められるってこと!? うわぁ、めんどくせー!!」


 本当に融通効かないなこの世界の魔術ってやつは!

 魔力で集めたら真水だろ普通! ほんっっっとうに、こういう所はもっとファンタジーしてください!


「つまり、今からやらないといけないことって……」

「サディエルたちが踏ん張っている間、集めた海水をいかに早く真水に出来るか、ですね」

「あああああ、本当にめんどくせー!!」


 えーと、海水を真水に変える方法。

 くっそー、完全に科学あたりの知識じゃんこれ、どうなってるんだよ!

 だけど、愚痴っている場合じゃない。海水から水分だけを分離・採取する方法は。確かいくつかあったはずだ。


 特殊な機材を使わずに、海水から真水だけを分離させるには……


「方法は2つ! 海水を煮沸によって、蒸留水を集める。もしくは、冷やして塩分を含まない氷を作り、それを溶かす」

「大正解だヒロト。じゃあ次、どっちの方法が"早い"と思う?」


 弓矢を射て視線を前方から逸らさないまま、アルムがそう問いかけてくる。

 どっちが早いか!? この場合は……どちらかというと。


「量を確保するなら、凍らせる方! 水に塩を入れたら、それだけで凍る温度……水の凝固点が変わっている。通常なら0度だけど、確かマイナス2か3度ぐらいだ!」

「では、海水を凍らせる方向でまいりましょう。どうやら周囲も同じ答えのようです」


 リレルの言葉を聞いて、オレは周囲を確認する。

 すると、各パーティで話し合っていた数名が大量の水を集め始め、凍らせようとしているのが見えた。


「それじゃあヒロト、重要な任務を通達する。リレルをしっかり護衛しろ! あいつの触手は基本的にサディエルたち各パーティの前衛が引き受けてるが、こっちにいつ飛来するかは分からない。魔力を練ることに集中しているリレルたちを護ってやれ!」


「わかった!」

「お願いしますね、ヒロト。正面は大丈夫ですから、左右と後方をお願いいたします。それでは、私もはじめます……!」


 そう言うと、リレルは槍を構えてその矛先に魔力を集中させ、水面から大量の海水を集め始める。

 その間にも、アルムは弓矢を打ちながら前線に出ているサディエルに指示を飛ばし続ける。

 オレはどこから攻撃が来てもいいように、リレルの背に立ち剣を構える。


 大丈夫、仮に攻撃が来たとしても、今日まで特訓して貰った通りに動けばいい。


 足はちゃんと、右足を少し前に、左足を半歩ほど後ろに。

 剣もしっかりと持つ。よしっ、大丈夫だ!


「……"水よ、風よ、巡りて凍れ!"」


 詠唱を終えたはずなのに、いつもよりも集めた水の量が多いせいで、なかなか氷にならない。

 それもそうだ。海水である為、通常よりも凝固点が低い以上、気圧も調整してもすぐには凍ったりはしない。

 こういった調整及び知識が必要だからこその、上位の魔術か……教えてもらっていたとはいえ、実際の光景を目にするとやっぱり受ける印象が全然違う。


 そうこうしている間にも、周囲の冒険者たちも同様に氷を作り上げ、大きな氷塊が複数出来上がった。


 集めた海水を全て凍らせたのではなく、いくらかの量はそのまま零れ落ち甲板を濡らす。

 それを舐めたら恐らく、しょっからい、なんてレベルを通り越した塩加減なのだろう。


「サディエル! 左!」


 その間に、前方ではアルムの声を聴いて、サディエルは左を向く。

 回避しきれない触手が彼を襲うとしているのが見える。

 だが、サディエルはすぐさま剣を斜めに構えて、触手の攻撃を受け止める。


「………くっ!? ちょっときつい……アルム!」

「分かってる! 動くなよ!」


 そう言うと、アルムはすぐさま矢を放ち、サディエルが受け止めている触手にヒットする。

 僅かに緩んだ隙を突き、サディエルは触手に斬り付け……


「……え?」


 驚きの表情を浮かべながら、こちらに後退してくる。

 そして、唖然とした表情で自身の右手を見ている……あれ、どうしたんだろう。


「おい! ボケっとするな! 来るぞ!」

「っと、悪い!」


 次の攻撃を、サディエルは間一髪かわす。

 攻撃は受けていない、はずなんだけど……サディエルの表情が少し悪い気がする。


「……まさか」


 嫌な予感が脳裏を過った。

 あの動き……サディエルが体調不良を確認する時の動作に似ている。

 もし、さっきの動作がそうだとしたならば……


「準備、出来ましたよ!」


 そこで、リレルの声が響く。

 オレは首を左右に振り、目の前のことに集中する。

 見ると、他の冒険者たちも準備が終わったようだ。


『甲板で戦闘中の冒険者諸君に通達! 今から水夫たちがアイツの動きを止める! その隙に攻撃を!』

「「「了解!」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。