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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第3章 冒険者2~3か月目
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45話 過去と現在

「そっか、あれから無事に航海士を経てか」

「まーな。下積みと資格試験の勉強を平行して5年半か……まっ、色々あって今はこんな立場さ」

「その色々が大変だったんじゃないか。相変わらずサラっと流してさぁ……」


「どっかの誰かさんの、小さな親切大きなお世話に振り回されていたことを考えればな」

「うぐっ、それは痛い目見たからもう落ち着いただろ!? というか、滾々と説教してくれたのはそもそも誰だよ。いつの事言ってるんだ!」


 宿に向かう道すがら、オレらより少し後方でサディエルとアークさんがそんな会話を交わしている。

 本当に仲良さそうって言うかそれ以前に……


「サディエルのお人よし、昔からだったわけか」


 むしろ昔は今よりも酷かったっぽいんですけど。

 おまけに、痛い目もすでに見ていると……それ差し引いても、今のレベルなのか……


「筋金入りだな」

「ですね、死んでも治らないんじゃないでしょうか?」


 オレと同じ結論なのか、アルムとリレルも呆れ顔である。

 と言うか、それ以前にちょっとした疑問として。


「2人は、ちょっと複雑じゃない?」

「んー?」

「どうしてですか?」


 問いかけの意図が伝わらなかったのか、2人は揃って疑問符を浮かべている。


「いや、アークさんって、どういえば良いかな……同郷で幼馴染を差し引いても、元はサディエルの旅仲間だろ? なんかこー……モヤッとするというか」


 説明がめっちゃ難しい……!

 くっそー、こういう時にオレの世界の例えとして、幼馴染で親友だけど学校が違った結果、同じ部活の全国大会でかち合ったみたいな……いや、これもちょっと違うな。


「ごめん、オレも上手く説明出来そうにない」

「ヒロトの場合は、優しいお兄さんを、自身が認識していない友人に取られた感じゃないですか?」


 ………うわぁ、ちょっと納得いっちゃったかも。


 オレも男兄弟がいないからなぁ……優しく頼りがいある兄ちゃんって意味なら、当てはまるかもしれない。

 あれだ、オレと遊ぶ約束してたのに『ごめん! 今日は友達と出かける予定になったんだ! 埋め合わせは今度!』って言われた感覚かもしれない。


「僕らはその感覚はないかな。どうあれ、サディエルが無事に僕らと出会えたのはあの人のお陰なんだし」

「そうですわね。複雑な気持ちがあるとすれば、アークさんに申し訳ない、ぐらいでしょうか」

「どういうこと?」


「一応、僕らはサディエルとアークさんがパーティ解散する経緯を知っているからな。つーか、パーティ組む時に基本方針と共に教えられた」


 あ、そうだったのか。

 それならば確かに2人がオレみたいな複雑な気持ちにならないか。


「ヒロトは聞きたいですか? 彼らが解散した経緯。お伝えすることは出来ますし、サディエルも特に止めないでしょうけれど……」

「うーん………」


 リレルにそう問われて、オレは考え込む。

 そうだなぁ……正直な気持ちを言うとすれば……


「聞きたい気持ちと、聞いちゃいけないかなって気持ち半々。喧嘩別れしてそうなら多分聞いてた。だけど……」


 オレはちらりと後方を見る。


 久しぶりに古くからの親友と再会して、昔話に花を咲かせる2人。という言葉が本当に良く似合うぐらい、サディエルとアークさんの会話はポンポンとテンポよく続いている。

 これまで、見たことないぐらいに若干幼い雰囲気で話すサディエルの姿は初めて見た。


 だけど、これも"良くある"光景なんだ。


 高校生になってから知り合った友達とかが、地元の幼馴染と会うと、オレたちと居る時とは明らかに違う……いわば『小さい頃からのノリ』で会話する光景。

 今、サディエルとアークさんの姿はそれだ。

 人によっては全くの別人にすら見えてしまうぐらいに態度が違ってる時もある。


「あれだけ仲良さそうってことは……相応の理由でパーティ解散したんだと思う。だから、気軽に聞いていいものかってのもある」

「ヒロトの所の"お決まり"だと、パーティ解散はやっぱり複雑なのか」


「ううん、オレの所の"お決まり"は真逆かな。6割ぐらいが死別、4割が大目標を達成したからお疲れ様、解散! って感じ」


 オレの世界にある物語で、仲間が完全離脱するパターンはかなり少ない。


 大半は今述べた通り"死別"になる。

 それ以外の場合、多少の怪我なら何かしらの手段で克服して戦線復帰、下半身不随みたいな明らかに戦えなくなっても、後方支援に回ったりする。


 裏切りの場合、本気で裏切っていたら死別、そうじゃない場合は途中で必ずこっちに戻ってくる。


 そう、物語の終わりを迎えるまで、基本的に1度仲間になった人物は離脱はしないのだ。

 話の出だしならば離脱は多少あるかもだけど、それはそれだ。大局を見たら些事なものである。


「だから、参考には欠片もならない」

「なるほどな。明日が保証されているファンタジーならでは、って訳か」

「そうかも。そんなわけで、もし聞くならば……サディエルの口から直接と言いたいけど……重そうなんだよなぁ……内容がきっと」


 肩を落としながら、脱力するように、叫びたくなるような音色で言う。

 それに対して、2人が特に否定しないあたりは、あながち間違いじゃないのだろう。


「それに、わざわざ思い出さなくてもいいことを言わせるのもあれだから……今の所はいいかなって」

「ヒロトがそう決めたのであれば、それでよろしいと思いますよ。全てを知るだけが仲間ではありません。触れられたくない傷というのは、誰しも持つものです」


 だよな。

 まぁ、一般的な物語ならここで回想なりなんなり、ちょっとチラ見せみたいな感じで補足説明が入ったりするのかもしれないけど、オレそんなの検知できねーし!

 実際の人間関係もだいたいこんなもんだよなぁ、むしろ後から『え? そうだったん?』な事の方が多いし。


 サディエルが喋る気になってくれるのを待つぐらいが丁度いいはずだ。


「そういう意味だと、2人が何でサディエルとパーティ組んだのかってのも、聞いてないなオレ」

「聞いても何も面白くないし、波乱も何もないぞ」

「ですね」


 ふと思い出して、3人の出会いについてを口にしたところ、2人は微妙な表情。


「……あー、とりあえずサディエルのお人よしに巻き込まれた感はめっちゃする」


「おおむね大正解」

「そうですわね、あれは彼の小さな親切大きなお世話、だったかもしれませんね」


 おーい、サディエル。

 出会い頭から2人に迷惑めっちゃかけてる疑惑があるんですけど!?

 そのあたりの弁明は後でして貰おうかな……うん。


「あっ……あの宿じゃありませんか?」

「えーっと……うん、地図見た限りじゃ間違いなさそうだ」


 ふと、視線の先に大きめの宿が見える。

 アルムがこの街の地図を見て、ここで間違いない事を確認してくれる。


「おーい、サディエル!……って、だいぶ後方だな」


 それならばと、オレはサディエルたちの方向を見ると、先ほどよりも少しばかり後ろ居た。

 あれ、オレたちの歩く速度ってそんな早かったっけ? それとも、あっちが喋るのに夢中で遅くなっているのか。


「どうせここで間違いないんだ。先に入って、部屋を取ろう」

「それもそうだね」


 アルムの提案に同意して、オレたちは宿に入る。

 この宿の主人に今日の空き具合を確認して、部屋を3室予約した。

 オレとサディエルとアルムの3人で1部屋、リレルで1部屋、クレインさんで1部屋という割り振りだ。


 部屋の鍵を受け取っていると、ようやくサディエルたちが追い付いてきた。


「悪いアルム。もう部屋は取ったか?」

「あぁ。僕らは3人部屋、リレルとクレインさんが個室……あっ、アークさんも部屋必要でしたか?」

「おれの分は不要だ。夜には船に戻る」

「それなら良かったです」


 そう会話をしながら、今日泊る部屋に入る。

 寄宿舎のような場所だから、久々に2階じゃなくて1階の部屋だな。

 とりあえずは情報共有が先だからと、オレら3人が泊まる部屋に入ったわけだけど……


「さってと」


 ドアを閉めた途端、アークさんがサディエルを向いて


「サディ、歯ァ食いしばれ。舌噛むぞ」

「え?」


 サディエルが驚いた顔をしている間に、アークさんは右手を握る。

 そして、容赦なく右ストレートをサディエルの頬にクリーンヒットさせた。


 ガッ、と鈍い音が響き、サディエルは近くにあったベッドに倒れこむ。


「外じゃ人目があったから殴らなかっただけだ、このアホ! 再会したらぜってぇ殴るって、こちとら決めてたんだ!」


 突然のことに、オレは目を白黒させてしまう。

 なおも追い打ちかけようと、アークさんがサディエルに近づいて、胸倉掴んで……って、まったまったまった!!


「アークさん!? ちょ、ストップ、ストップ!」


 オレは慌ててアークさんの右手に飛びついて、まったをかける。

 しかし、肝心のアークさんは何とかオレを振りほどき、追加で殴ろうと躍起になっている。


「離してくれないかヒロト君! 1発じゃ気が済まないんだよ!」

「いやいやいや!? サディエル、もう気絶してるから!? というか、落ち着いてくださいー!」


 よく見ると、さっきの1発で当たりどころ悪かったのか完全に意識飛ばしちゃってるし!


「落ち着けるか! こいつが6年前にやった所業を考えれば、まだ足りない!」

「それでも落ち着いてください! お上にも慈悲ぐらいあっていいと思います!」


「いーやないね! コイツにだけは絶対ない! 6年前、こいつはな……おれがぶっ倒れてる間に、勝手に……」


 ちょっと、マジでサディエルなにやらかしたんだよ!

 さっきまでの旧交を温めるみたいな、ほのぼのとは言わないけど、微笑ましい光景どこ!?

 オレの目の錯覚か幻覚だったとか!?


「勝手に、治療費と手術代と入院費を全額払って」


 ん?


「クッソ高い荷馬車の予約までして」


 んんん?


「おまけに、その代金も全額前払いで支払い済み! その金をどこから捻出したかと思えば、テメェの全財産と、病院に入れない早朝と深夜にあれこれ仕事請け負って稼いだ金で、おれの手持ちには手をつけないどころか、少し増えてたし!」


 んんんんー!?


 なんか、思ってた内容から爆速で方向転換した気がするんですが!?

 あれ、あの言葉のあとに続くのって、普通サディエルの悪行三昧じゃなくて!?


「ほぼ無一文になった癖に、それを隠して旅立ちやがって! 病院の入り口でそれ聞かされたおれの気持ちが分かるか!? 途中で餓死とか、野垂れ死にしたんじゃないかと、生存の噂聞くまでさんざん心配させた……コイツが、全部、悪い!」


「あ、はい。ごめんなさい、サディエルが悪いです。殴ってOKです、どうぞ、好きなだけ、心行くまで、気のすむまで!」


 オレはパッ、とアークさんから手を離す。

 許可が出たと言わんばかりに、アークさんはサディエルを……さっすがにさっきみたいな右ストレートこそしないものの、ペシペシと額叩きまくってる。


 オレはゆっくり、ゆっくりと後ずさり、急な展開でポカーンとしていたアルムたちの所まで行く。


「……クレインさんと出会った当初、金欠だった……っつーてなかったか? あの馬鹿」

「言ってましたね。その結果、フットマンとして3か月程雇ってもらったって……」


「あのさ……こういうどーでもいいフラグっつーか、こんな形で過去話をオレは知りたくなかったんだけど。何やってんだか、ほんと……」


 思わずがっくりと肩を落とす。

 あー、なるほど……さっき2人の歩みが遅かったのって、今の会話からして、アークさん側に今も何かしらの後遺症があるから、それに歩調を合わせてたわけか。


 と言うか、再会した直後もよくよく思い出したらそうだ。


 アークさんはゆっくり歩いていたのに対し、サディエルは慌てて駆け寄ってた。

 つまりは、後遺症を心配しての行動だったわけで。


「はぁ……さっきまでのオレの葛藤、返してもらいたいんだけど」

「ヒロトも、後でサディエルを殴ればよろしいかと」

「だな。1発殴っても罰はあたらんさ」


 そうだよな、だいたいサディエルが悪いんだ。

 どういう理由でそんなことしたのかは知らないけど、少なくとも無一文になったのを隠して旅立ったのは、さっすがに良くないと思うよ、うん。


「……アーク、ちょっとまってくれ、結構頬が痛い」


 一方で、気絶してたはずのサディエルも意識を取り戻したらしい。

 痛む左頬を抑えながら、必死にまったを掛けている。


「だ、れ、の、せ、い、だ!」

「あっははは……悪かったって。けど、あの時の俺に出来る事はあれぐらいしか……」


「それでもだ!……どれだけ、心配したと思ってんだ……6年ぶりに再会してみりゃ、まーた厄介ごとをしょい込んでやがる! ほんっっっと、世話が焼ける!」


 最後に1発と言わんばかりに、頭を強くはたく。

 ようやく憂さ晴らしが完了したと言わんばかりに、アークさんは満足げな表情をしている。

 ……これで、オレの件まで言ったら、追撃行くんだろうなぁ。


 異世界の人間云々が、まず信じられないから言わないわけだけど。


「船旅の間は、ぜってぇ大人しくしてろよ!」


「……無理じゃない?」

「無理だと思います」

「うん、オレも無理だと思う」


 アークさんの言葉に対して、オレたち3人は音速で否定する。

 それを聞いて、アークさんはしばし沈黙した後


「いっそ、船底の囚人牢に突っ込んどけば平和か……?」


 と、つぶやくように言う。

 わぁお、物騒。


「アーク……考えが物騒、勘弁してくれ」

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