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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第2章 冒険者1~2か月目
35/132

35話 勝負に勝つ為に【前編】

「9時の方向! まずは距離詰めてくれ!」

「わかりました!」


 アルムの矢が、魔族に向けて放たれたのが合図だった。

 リレルは槍を構えて魔族との距離を詰め、素早い一突きをお見舞し、相手の右肩を貫通する。


「物理は効かないでしょうが、こちらならどうですか!? "風と水、そして炎よ! 雷鳴となりて轟け!"」


 一瞬のフラッシュと同時に、落雷音が響く。

 3属性の上位の魔術、こっちも完全に雷を発生させる原理を利用しての発動だ。


 その隙にオレは、落雷音が響く間に壁沿いにダッシュして、サディエルに駆け寄る。


「サディエル! 大丈夫じゃないだろうけど、起きてサディエル!」

「…………ヒロ……ト? いっつ……一瞬意識飛んでたか。状況は?」


 サディエルに肩を貸しながら、ゆっくりと立ち上がらせる。

 オレはちらりと、アルムたちを見る。

 魔族が放つ魔弾のようなものを、アルムたちはそれぞれ回避したり、魔術で軌道を逸らしたりして抵抗していた。


「アルムとリレルが魔族と交戦中。サディエルを回収次第、即撤退だよ」

「……その作戦、まさかヒロトが考えたのか?」

「そうだよ。よく分かったね」

「アルムの作戦だったら、少なくともヒロトはこの場にいないさ。ギルドあたりにお留守番させていただろう」


 さっすが、その辺りの差異はすぐ分かるんだ。


「怪我の状態は? 歩けそうにないとかそういうのは……」

「派手にやられてるように見えるけど、致命傷はない。大半は、前哨戦での怪我だ」

「前哨戦?」


 オレは眉を顰める。

 その言い草だと、魔族の前にもう1戦なにかと戦ったような言い方だけど……


「あの魔物の配下であるデーモンとな。その後は、魔族ご本人と皆が来るまで強制持久戦の防戦一方で、もうちょい遅かったら結構まずかった」

「うわ、ぎりぎりだった。とりあえず、アルムたちの所へ行こう!」


 サディエルを支えながら、先ほどと同じように壁沿いに、出来るだけアルムたちに集中している魔族の視界に入らないように移動を開始する。

 それを確認したアルムがリレルに合図して、オレたちの動きを悟らせないように、少しづつ位置を調整しながら戦いを続ける。

 オレたちが部屋の入口に辿り着くと同時に、2人は武器をしまって脱兎の如く、一目散にこちらに向かって走って来た。


「ヒロト交代だ。サディエル、右腕を僕の肩に回せ! 一気に行くから無理にでも足を動かせよ!」

「ここからが本番です、気張ってください」

「分かってる。ヒロトも少しきついが頑張れよ」

「もちろん!」


 まずは第一段階であるサディエル救出が完了。

 ここからが第二段階。

 ここで魔族がこっちを諦めればそれでいいが、高確率でそれはない。

 となれば、どこまで『あっちを怒らせるか』だ。


『……逃ゲ……ル?』


 ここで、初めて"声"が響いた。

 それを合図に、オレたちは走り出す。


『……逃ゲル……逃ガサナイ……! そいつハ、殺ス……!』


 完全にサディエルにターゲットが絞られてるなこれ。

 すると、アルムは呆れ顔でサディエルを見て


「お前、僕らが駆け付けるまでにどんな恨みを買ったんだよ」

「こっちが聞きたい! と言うのは冗談で、こいつ、もともとは別の魔族と一緒に現れたんだよ」


「は? 他にもいるのか!?」

「いや、もう1人はとっくに帰っている、もしくは精神世界でのんびり観戦じゃないか? 少なくとも、加勢はない」


「どういうこと?」


 オレの問いかけに、サディエルはげっそりしながら答える。


「今回、俺が連れ去られた理由は凄い最悪でな。どうやら、1度も人間を見たことがない新人魔族に、抵抗出来なさそうな奴を攫って、人間っつーのはこんな感じって教え込む。そのついでに、殺し方を覚えろって」


 教え込むって。

 そんな、野生動物が子供に狩りを教えるみたいなノリじゃんそれ。


「ご丁寧に、同伴していた魔族がそんなこと喋ってくれた!」


 と言うか、聞いた範囲で分かったことは、仮にオレが連れ去らわれていたら、シャレになってない内容!?

 サディエルだったからギリギリここまで持っていたけど、オレだったら100%ムリゲーだったってことじゃないか。


「はっ! そういう意味なら、あの魔族は運がなかったな。通常の『殺し方』であったはずのデーモンは、サディエルに倒されただろうし、その時点で予定がご破算済みってわけか」

「そういうこと!……っ、全員、散開!」


 サディエルの合図と同時に、オレたちは近くの曲がり角に飛び込む。

 それと同時に、魔力の弾が複数飛来して爆音を轟かせる。


「怒らせるつもりではいたけど、あの魔族、だいぶお怒りっぽくない!?」


 うるさすぎて思わず耳を抑えながらオレはそう叫ぶように言う。

 オレと同じ方向に飛び込んできていたリレルは、こくりと頷く。


「ですね。普通なら失敗しない通過儀礼をご破算にされたからでしょうけど」


 ばりりっ、と何かがはじける音がする。

 慎重に魔族のいる方向を見ると……目に見えて分かりやすいぐらいの魔力を纏っているのが見える。

 というか、今の攻撃ですら本気の1%以下って、魔族やっぱチートじゃん!


 いや、そもそも人間が対抗できるような種族じゃなかったんだった。


「あっちこっちに設置した肉燃やして、煙でこっちの姿隠せないかな!?」


 もともと、ここに別の魔物が居た場合や、上位の魔物に追われた時用に設置していたゴブリンの肉。

 やけくそで使えないだろうかと叫ぶように提案する。

 すると、リレルが少し考えこんで……


「……それ、いい案かもしれません。視界さえ遮ってしまえば、彼らは"精神世界から見える魂"を基準に行動しなければなりません。すなわち」

「魔族のあるある! 人間側が干渉出来ない精神世界の利点を使って、人間を探し出す! それはつまり『私は精神世界で魂を見ないと人間を探し出せません!』と自白してるわけで、デバフ発生だ!」


「今回はヒロトの所の"お決まり"が妙に役立つな。精神世界の説明の手間も省けたよ。つか、何でそんな変な部分だけは一致するんだか」

「アルム、それオレが一番思ってて頭痛い項目だから!」


 そうと決まれば、とリレルはすぐさま後方に向かって火の魔術を放つ。

 ゴブリンの肉に火が着火し、バチバチと燃え始め、無駄に食欲をそそる香りと煙が充満し始める。


 だけど、さすがにこれだけじゃまだ足りないわけで……


「リレル! 今着火した肉の方角に真っ直ぐ進んで、最初の曲がり角を右に! そのまま2ブロック先でもう1回右に曲がれば、他の設置場所だ!」

「了解しました!」


 いつの間にか、本を取り出してアルムが肉の場所を指示する。

 それを聞いて、リレルはすぐさま走り出す。


「アルム、いつの間に!?」

「ペンダント確認しながらメモ取るぐらいはできる! 言っただろ、"懸念事項に関しては、僕の方で適時援護する"って! お前が思いつかなかった部分を補うのも、師匠の務め。初めてなんだから抜けがあるのは当然だ。その抜けを"負け"に繋げないことが、今回の僕の目的だ!」


 今回の作戦は、30分という短い時間での立案だった。

 その短さゆえに、検討不足の部分も確かにあった。

 実際に、アルムは魔族との戦闘に関してはっきりと『不安要素』と言っていた。


 その不安要素を少しでも無くすために、負け筋とならないように、移動しながらもあれこれ考えててくれたってことか!


「来たぞアルム!」

「ちっ、もうちょい悠長に魔力練っててくれればいいものを!」


 相手の魔族は、迷いなくオレの方ではなく、サディエルたちが飛び込んだ方向を見る。


『殺ス……貴様ダケハ……必ズ……!』


 右手に集められた魔力が、2人に向けられようとした時、暴風のようにすさまじい煙がこちらまで流れ込んできた。

 同時に、無駄に広がる肉の香り。ってことは、リレルだ!

 煙によって、魔族を含めて全員の姿が見えなくなる。


 一見すると、凄い悪手にも見えるし、オレたちも身動きが取れないように感じる。


 だけど、恐らくはこれで!


『何処ニ居ヨウトモ………ッ!?……グア、アァアアァァアア!』


 ビンゴ! 上手くいった!

 ただでさえも、色々ご破算でプライドずたずたの状態で、この目くらまし!

 本来であればタブーに近かったはずの、人間相手に精神世界から干渉しようとした結果、魔族の苦しむ声が周囲一帯に響き渡る。


 その隙を突いてか、サディエルとアルムが魔族の横をすり抜けて、オレの所に合流して来た。


 よく見ると、2人の周囲だけ煙が見えない。


「ヒロト、ちょっとそのまま。"風よ、守りとなれ!"」


 アルムがそう唱えると、オレの周囲にも僅かに風が流れ出す。

 それと同時にオレの周囲にあった煙も雲散した。

 風の魔術で空気の流れを作って、オレらの視界だけを良好にしたってわけか。


「このまま、リレルと同じルートを通るぞ」

「分かった。そこの曲がり角を右、そのまま2ブロック先で右だったよね」

「正解。行くぞ!」


 オレたちはサディエルを支えながら、リレルと同じルートを通る。

 少し走ると、同じように風の魔術で視界を確保していたリレルを見つけることが出来た。


「全員、無事ですね!」

「問題ないし、作戦成功だ。あとは階段まで行って……」


 アルムが言い切る前に、再び強い風が周囲一帯に吹き抜ける。

 ここに居る誰かが放ったものじゃない、ということは!?


 風がおさまると同時に、オレは魔族が居るはずの方角を見て……唖然としてしまった。


「顔が……ない……!?」


 いつの間にローブが外れたのだろう。

 晒された魔族の顔は、何もなかった。

 妖怪の、のっぺらぼうのような顔の魔族に、オレは思わず後ずさってしまう。


「……なるほど、生まれたばかりの魔族ってのは、顔がなかったのか」


 顔無しの魔族は、最後の力を振り絞ってかこちらに……いや、サディエルに右手を向けてきた。

 それと同時に、この空間が揺れた感覚がする。


『殺ス殺ス殺ス殺ス! ソシテ、貴様ノ"顔"ヲ……貰ウ!!』

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