36話 勝負に勝つ為に【後編】
『殺ス殺ス殺ス殺ス! ソシテ、貴様ノ"顔"ヲ……貰ウ!!』
ぐにゃり、と歪む。
同時に視界がぼやけて、必死に瞬きするけど全然改善されない。
「何だ、これ!?」
「……こりゃまずい。サディエル、大丈夫か!?」
「……無理……かも……」
オレと同じ状況なのか、皆も苦しそうな表情を浮かべている。
サディエルに至っては、もともとの怪我も響いてか再び気絶してしまった。
「あちらも考えましたわね。もうタブーを冒した以上、なりふり構わずってところでしょうか」
「みたいだな。僕らが"死なない"程度にってわけか、捨てるモノが無くなった奴が一番厄介とはよくいったもんだ」
「どういうこと!?」
「あとは自分の身1つしか守るモノがねーから、無茶出来るってことだ!」
アルムがそういった瞬間、今度はひどい耳鳴りに襲われる。
視界の次は聴覚かよ!?
必死に耳を塞ぐものの、耳鳴りは一向に解消されず、平衡感覚もなくなりはじめ、片膝をついてしまう。
そうか、あの顔の無い魔族……精神世界から、オレたちの魂そのものを、死なない程度に痛めつけているのか!
今、視界が歪んで平衡感覚が失われたのも、耳鳴りのせいで頭痛がすさまじいのも、その影響になるわけで。
すでに『人間相手に、絶対に反撃されない安全地帯からしか攻撃出来ない』と自白状態なわけだから、開きなられたってこと!?
開き直りは人間の専売特許にしてくれよ!
『………………』
動けないオレたちを無視し、顔の無い魔族はサディエルに近づく。
ダメだ……! このままじゃ、サディエルが……!
くっそ、そっちがなりふり構わないっていうなら、オレだってな!
覚悟を決めて、右耳を抑えてた手を放すと、より酷い耳鳴りと頭痛が同時に襲い掛かる。
吐きそうだけど……今は!
腰に帯剣していたナイフに手を伸ばし、抜き放つ。
「………ふざけんなよ……オレの目標は……"全員で無事戻ってくること"、なんだ!」
ナイフを持った右手を、大きく振りかぶる。
「お前なんかに……それを……邪魔されてたまるか!!」
そのまま乱暴に、今持てるめいっぱいの力を込めてナイフを投げる。
そのナイフはお世辞にも真っ直ぐは飛ばなかった。だけど、そのまま顔の無い魔族の右肩に深々と突き刺さる。
『グァアアァァ!? 貴様ァアアァァア!』
ナイフが刺さり、顔の無い魔族が悲鳴を上げると同時に、酷い眩暈と耳鳴りがパタリと止んだ。
というか、ナイフが効いた!?
「……そっか! デバフ、めっちゃ効いてるのか!?」
「提案して実践したお前がそれを言うな! だが、ナイスだヒロト!」
次の瞬間、リレルの槍が、顔の無い魔族の脳天を貫通する。
「これはお返しです! "火と風よ、舞い狂え"!」
魔術を発動させる直前に、リレルは槍を引きそのまま顔の無い魔族から距離を取る。
それと同時に、ゴゥ! と、炎の渦が巻き起こり、顔の無い魔族の姿を覆い隠す。
1度、爆発でもしたかのように大きく燃え上がり、ゆっくりと炎が消えるとそこに顔の無い魔族の姿はなかった。
「さすがにこれで、倒せるわけないよなぁ……」
フラグにしからないから『やったか!?』だけはぜってぇ言ってやらねー!
いや、心の中で言ってる時点でアウトかもしれないけど。
「物理世界側の肉体"は"倒せただろうな、これで」
「んで、精神世界側に本体があるから、本当の意味では倒しきれないってことだよね?」
「正解。回復次第また狙ってくる。つまり、ここで僕らが精神世界側のあいつを消滅させられなかった以上、永遠の鬼ごっこ決定だ」
だよなぁ……これで死なないって本当に魔族の方がチートだよ、チート。
……そのチートを楽々倒す物語も、存在するけど。
今まさに魔族と戦った身として一言『何で倒せるの?』だ。
「けど、精神世界には基本的に手出し出来ない。都合よく消滅させる方法とか……あったら、こんな苦労はしてないよな」
「追加しますと、次は今回みたいに上手くはいかないでしょうね。唯一の朗報を上げるとすれば、自白した分は永久に弱点として、あの魔族に付与され続けるはずですから、まったく勝機がないわけじゃありません」
都合よく、顔の無い魔族が精神世界に戻ったところを、別のやつがこうバスッ! と倒してくれるとか、そういう展開もないわけで。
こういう時はご都合主義で、こいつと一緒に居たって言う別の魔族が出てきて『所詮は雑魚だな』とか言いながら、トドメ刺してくれたっていいんだよ!?
むしろウェルカム! 超ウェルカムだから!
No more、現実的すぎるファンタジー!
Yes! ご都合主義の超展開ファンタジー!
心の底から、ここまで漫画とかの超展開を望む日が来ることが想定外です。
「……っと、やっと頭痛も引いてきた。あんな状況で良く動けたなリレル。ヒロトもだけど」
「女は根性です……と言いたいですが、私もヒロトと同意見の"ふざけるな"でしたので……今も結構フラフラなんですけど」
「オレのあれは火事場の馬鹿力……初めて経験した……いっつつ……今頃思い出し頭痛……サディエル、だいじょう……」
右手で頭を押さえながら、サディエルが倒れている方向を見て、思わず目を見張る。
―――そこに、顔のない魔族が立っていた。
さっきの攻撃で、物理世界側の肉体は滅びたんじゃなかったのか!?
「サディエル!」
アルムとリレルもそいつの存在に気づく。
そして、アルムは構えていた弓を引き、矢を放った。
しかし、その矢を顔の無い魔族は自身の左手でワザと受ける。だが、痛覚はあるらしく、うめき声が上がる。
『………逃ガスモノカ……何処へ逃ゲヨウト……必ズ……!』
右手から何かがサディエルの首元に向けて放たれた。
その光は一瞬でサディエルに溶け込み、それと同時に顔の無い魔族はその場から消え去った。
アルムとリレルは頭を押さえながらもサディエルに駆け寄る。
「おい、サディエル起きろ!」
「起きてくださいサディエル! 起きないと殴りますよ!?」
「リレル、それはさすがにサディエルが可哀そう」
オレが思わずツッコミ入れるけど、リレルが結構本気で殴りかかりそう。
頭痛いのと、さっきの火事場の馬鹿力のせいで、オレも動けないから止められない、早く起きてサディエルー!
「……っ……アルム? リレル……? 何が」
そこで、サディエルもようやく目を覚ます。
「ちょっと失礼しますよ!」
そう言うと、リレルはすぐさま顔の無い魔族が何かしたと思われる首元を確認する。
オレも何とか立ち上がり、サディエルたちの所に合流して……彼の首元に見える赤黒い『痣』が目に入った。
「これは?」
「……わからないが、大方こういう場合は、サディエルに対する目印だろう。リレル、目印以外の効果はありそうか?」
「確認中です、少し待ってください」
リレルは両手に魔力を集めて、痣に対して反応がないかを確認する。
しばらくの間を置き……
「とりあえずは、目印以外は現状はなさそうです……あくまで現状は、ですけど」
「まっ、今はそれだけ分かれば十分だ。サディエル、残念なお知らせだ。さっきの顔の無い魔族、お前のストーカーにクラスチェンジしたぞ」
「凄まじく嬉しくない報告、あんがと……」
うへぁ……と心底嫌そうな顔でサディエルはそう返す。
うん、言いたいことは分かる。顔の無い魔族のストーカーとか嫌すぎる。
オレも遠慮したい。
「前向きに考えよう、これ食らったのがヒロトじゃなくて良かったってことで」
「サディエル……全然前向きじゃないような……」
「いや、お前だった場合、帰るまでにこの痣"も"なんとかしないといけなくなるんだぞ。痣残したまま元の世界帰ってみろ、こういう手合いは追いかけてくるぞ、異世界だろうと」
…………
オレはそれをちょっと想像して、めちゃくちゃ現実味ある内容だったせいで血の気が引いた。
すごく、嫌すぎる。
その可能性がゼロじゃないどころか、あの顔の無い魔族の根性考えたら90%以上の確率でそうなりそうな気がする。
「半年で帰るのがさらにムリゲー、いや、詰んでたかも」
「そう言う事だ。俺なら何とかする方法を探す時間制限はないから、後回しに出来はするし……」
「いや、ダメだってそれ。しばらくは襲ってこないだろうけど、結構大問題だよ!?」
変なところで自分を後回し、ダメ絶対!
こういう時、主人公属性って意外と厄介だね。自分の身もっと大切にして!?
今、心の底から主人公が無茶するたびにため息吐く周囲の仲間たちの気持ちが分かる。
ぜひとも握手して、愚痴を交わしたい気分だよ!
「大問題ではあるけど、解決策がなぁ……魔族関連になると、もう1か所しかないわけだし」
「1か所しかって……あー……」
サディエルの言いたいことわかって、オレは思わず頭を抱える。
どこが1番、魔族関連の情報を持っているかなんて、そんなもの誰に聞かなくたって分かる。
この世界の常識中の常識レベルの国の名前だ。
「エルフェル・ブルグへ行く理由、ヒロトを元の世界に戻す以外に、もう1つ追加だな……こりゃ」




