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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第2章 冒険者1~2か月目
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29話 散策開始【前編】

「よおサディエル! いっちょ前にデカくなったなー!」


 バシバシと乱暴に、サディエルは頭を複数人から叩かれる。

 遠慮も容赦もない洗礼であった。


「いたた!? 頭叩くなよ!? お久しぶりです、皆さん」


 洗礼を受けながらも、サディエルは集まったフットマンたちに挨拶する。


「旦那様から聞いたぞ、冒険者を続けてるんだってな。危ないからまた屋敷で働けばどうだ? お前なら何年か勤めればヴァレットぐらいすぐだろ」

「だよな。そんで、レックスさんの負担軽減してやってくれよ」

「はぁあああ!? 俺はレックスさんの負担軽減要因!?」


「「「当然」」」


「よーし分かった、全員そこに直りやがれ! その根性叩き直す!」


 そんな光景を眺めつつ、俺は遠い目をして、リレルはいつも通りニコニコしている。

 付き合ってられない、と言わんばかりに音速でこの場を離れたアルムが1番賢かったのかもしれないな、とか思いつつ……


「ここでメイドじゃなくて、フットマンの皆さんに囲まれる辺りがサディエルっつーか、何この男子校のノリ的な感じ。いやオレは共学だから詳しくは知らねーけど……」


 ギルドに行こうと部屋を出た。

 うん、そこまでは良かったんだ。

 問題は、出待ちしていたフットマンさんたちが一斉にサディエルを取り囲んで、現在進行形で出発が遅れている状態だ。


 と言うか、会話の内容からもしかしなくても顔見知りなのか?


「リレル、どゆことこれ」

「それなんですけど……実は私もあまり詳しくないのです」


 おろ、珍しい。

 これまで"詳しく知らない"ってパターンが皆無に近かったから、リレルの困った反応が妙に新鮮だ。


「私やアルムと出会う1年くらい前? でしょうか。たまたま旅の途中でクレインさんを助けて、ついでにお屋敷まで護衛して」


 わぁお、ここで人助けのお人よしモードか。

 主人公属性、その頃からバリバリあったんだな……


「道中で金欠だと知ったクレインさんが、サディエルにお礼と軍資金を提供するって名目で、フットマンとして3か月ほど雇ったことがある、とか」

「ところどころ、敬語とはいえ軽口が混ざった会話をしていたから、顔見知りなのかなーぐらいは思ってたけど」


 顔見知りどころのレベルじゃなかったのか。

 それなら今回の護衛依頼も融通が利いたことに説明がつくってわけだ。

 安全に運びたいなら、無報酬とは言えお荷物を乗せたくないもんな、普通。


「ついでに、彼らの言葉で出てきた"ヴァレット"って?」


 聞いた響きだけだと、銃か絵具のパレットあたりを想像してしまうけど、内容からは恐らく違うだろうし。

 変に誤解しておくよりはさくっと聞いておこう。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、である。


 質問をして、何故それを聞くんだと疑問に思われないうちに聞けるなら、聞くに限る。


「ヴァレットは、フットマンの中でも常に主人の側に仕えて、身の周りのお世話をする方のことです。大半の場合は、バトラーが兼任していますね。主人の行くところならば、何処にでも付いていくわけですので、時と場所と場合に応じての臨機応変さも要求されます」


 TPOを意識しないといけないタイプなのか。

 役割的には秘書に限りなく近いって感じで覚えておけば良さそうだな。


 ……にしても、そろそろ出発したいんだけどなオレ。お腹もすいてきたし。


 いっそアルムみたいにサディエル置いてく方向で話そうとした時、進行方向の曲がり角からレックスさんが顔を出す。


「お前たち、そろそろ持ち場に戻りなさい」


「はい、了解です」

「怒られちまった。じゃあサディエル、滞在中に1回はおれらの共同部屋来いよ。お前がどんな冒険してきたか聞きたいし!」

「分かってる。皆も仕事頑張って」


 おーう! と出迎えてくれた時は完璧な執事です、って雰囲気を見せていたフットマンさんたちが笑顔で去っていく。

 なんつーか、ユーモアっつーか空気が緩いというか。

 ずっと気を張っているのもあれなんだろう。


 ただ、あんな雰囲気でも怒られる様子が無いって辺りは、この別邸の主であるクレインさんの性格によるものなんだろうな、きっと。

 そうこうしている間に、レックスさんがオレたちの所までやってくる。


「久しいなサディエル。息災で何より」

「ご無沙汰してます、レックスさん。まぁ元気にやってます」

「顔を見ればわかるさ、いい仲間に恵まれているようだね」


「はい。とてもいい仲間たちです」


 うーん、この素直に仲間を贔屓目無く賞賛する感じ、完全に主人公のそれ。

 しかもまだ1か月ほどの付き合いであるオレでさえ、嘘偽りなく心からの言葉だって分かる程度に嬉しそうな音色である。

 オレの位置からは彼の表情を窺い知ることはできないものの、とてもいい笑顔してそー……


 なんつーか、むず痒いって感じをめっちゃ経験出来るな。


「そちらはリレル様ですね、噂はかねがね。そして、こちらがヒロト様で……」


 レックスさんがオレを見て言葉を詰まらせる。

 ん? 何でだ。


「……サディエル、彼は君の親族かい?」

「いや、違いますよ。似てます?」

「一瞬だけ似ている気がしたのですが……」


 そこでレックスさんは一度言葉を切って、改めてオレを見る。

 上下くまなく見た後、はて……と疑問符を浮かべるような顔をしてから


「よく見たら全然違いますね。失礼致しました」


 と、謝罪してきた。

 親族扱いって……すれ違いざまとかのレベルなら、もしかして似てる部分があるのか?

 オレはサディエルを盗み見るが……うーん、似てる感じはしないかな。


「改めまして、クレイン様のバトラーを務めておりますレックスです。以後、お見知りおきを」


 すっと左足を半歩ほど後ろ下げて、お腹の前辺りに左手を、背後に右手持っていき優雅に1礼する。

 おおー、本格的な執事の礼だ。


「先ほどもお伝えしましたが、御用があればなんなりと屋敷の者へと。お出掛けの所、引き留めてしまい申し訳ありません」

「いいえ、お気遣い頂きありがとうございます」

「滞在中はよろしくお願いします」


 リレルに合わせてオレもお辞儀して、挨拶とお礼を済ませる。

 オレはさておき、もともと丁寧な言葉遣いのリレルが対応すると、その屋敷のお嬢様と執事って感じがめっちゃするな。


「それじゃあレックスさん、行ってきます」

「行ってらっしゃい。あまり遅く帰ってこないように」


 ……内容が、日頃から息子を心配する父親のそれじゃん、完全に。

 信用無いのかよー! とサディエルはツッコミ入れているけど、レックスさんはどこ吹く風であった。

 仲の良さは伝わったけどね、うん。


 レックスさんに別れを告げて、オレたちは別邸を出てギルドを目指して歩き出す。


「しっかし驚いた。クレインさんと知り合い通り越して、めっちゃ関係者じゃん」

「あっははは。ヒロトと最初に行った街のギルドで再会した時はびびったんだぜ、これでも。おかげで今回、エルフェル・ブルグへの日程を3か月短縮出来る手立てを得られたわけで、人生何が幸いするか分からないもんだな」


「めっちゃ他人事……」


 結構重要なことな気もするけどな。

 けど、アルムに師事を丸投げして、クレインさんと日程調整や荷物整理のあれこれ、ルート調整などをやってたのも、つまりは勝手知ったる仲だったと言う事か。


「つか、クレインさんに結構軽口叩いてるけどいいわけ?」

「そこは大丈夫。クレインさん本人から、旅の間は以前護衛してくれた時のように気楽に接して欲しい、ってお願いされているからな。別邸の間はそうはいかないけど」


 そっか、直近で軽口叩いてたのも別邸に到着する少し前だったもんな。

 レックスさんたちの前で軽口叩いたら、さすがのサディエルも叱られるだけじゃすまないだろうし。


「さてと、確かこのまま真っ直ぐ行けばギルドに着くはずなんだけど……ん?」

「どうしました?……あら」


 ふとサディエルがある方向を見て、少し驚いた表情を浮かべる。

 それにつられて、オレたちもそっちの方角を見ると……そこにはアルムがいた。

 花屋なのか、たくさんのブーケや色とりどりの花か並んでおり、店員さんに2~3何か告げている。


「師匠さんに持っていくやつっぽいかな」

「そうだと思います」


 お土産で花束? なるほど、閃いた!


 アルムのお師匠さんは女性だな? しかも、若いか妙齢ぐらいの女性。

 それなら花束をプレゼントってのも納得いくよな、うんうん。

 後でアルムが戻ってきたら、師匠さんがどんな反応だったのか聞いてみよっと。


 1つ、からかいネタゲット! と意気揚々と歩き、ついに目的地であるギルドに到着したわけだが。


「うわぁ……ここもでかい」

「国単位になってくると、ギルドも相応に大きくなるからな」

「ちなみに、こちらは中央ギルドになります。国の広さが広さなので、他にも四方それぞれギルドもありますよ。南ギルドとか、北ギルドとか」


 国内に5つギルド……

 魔物の襲撃があった場合は、中央のギルド1つであれこれやるのは大変ってことなんだろうな。

 負担軽減を兼ねての5か所か。多分他にも理由はありそうだけど、それより今は!


「よーし! ギルドにとっつげきだー! いえーい!」


「こらこらヒロト……って、もう入っていった。テンションたけぇ」

「楽しんでいるからいいんじゃありませんか、サディエル。私たちも資料探しをしなければ」

「だな。うし、頑張って探すかな」

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