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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
第2章 冒険者1~2か月目
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28話 初めての国にて

「うわあああ……すっげー!」


 荷馬車から顔を出し、オレは感嘆の声を上げる。

 予定通り3時間とちょっとで到着した国は、今まで立ち寄った街や村よりも多くの人々で賑わい、露天を始めとした店に、吟遊詩人っぽい人が楽器を演奏して住民を和ませたりと、平和そのものな雰囲気だった。


「ヒロト君は、ここまで大きな国は初めてなんだって?」

「はい! おぉ! ちょっと先に見えるあれ、教会? 大聖堂? とりあえずそんなやつだよな!?」


 クレインさんの問いかけに答えながら、オレはそりゃもう田舎者丸だしな感じで周囲を見回す。

 凄く立派な大聖堂っぽいやつなんて、海外旅行でもしないとお目にかかれないわけで、思わず興奮してしまう。


「ふふっ、嬉しそうですねヒロトは」

「だな。おい、サディエル、何ぼけーっと外見てるんだ」

「んやー? 相変わらず活気のある国だなーって思ってな……」


 サディエルは頬杖をつきながら、アルムたちにそう返答する。

 振り返ってサディエルの顔を見ると、うわぁ……完全に黄昏ちゃってるし。


「え? なに、この国に嫌な思い出でもあるの?」

「それはないない。単純に疲れが出たから、今日は宿でノンビリしたい気分なだけさ。心配してくれてありがと」


 わざとらしく、腕をぐるぐると回して疲労アッピールしながら答えてくる。

 本当に疲れているならいいんだけど。

 実際、戦闘になったら一番動いてるのサディエルなわけだし、日中も周辺警護と注意もろもろやっているから、そりゃ疲れるよな。

 

 あと、ここ数日ずっと野宿だったし……そういう意味では、オレも宿に早く泊まりたい。


 シャワー浴びたい! 風呂入りたい!

 村とか街に寄れた時にも一応入っているけど、野宿が続くと川とかで軽く体拭いて頭を洗い流す程度だったし。

 と言うか、毎日風呂が当たり前な現代人としては、暦上は夏な時期になりそうだし、可能な限り毎日、せめてシャワーだけでも浴びたいというか。


 あれ、そいやその割には暑くないよな。この世界の四季周りってどんなもんなんだろ?

 ……急いで聞くことでもないか。次思い出した時にでも聞いてみよう。


「そうだ、サディエル君たち。この国に儂の別邸があるから、滞在中はそこに泊まるといい」

「いいんですか?」

「構わないよ。まだまだ先は長いし、そもそも今回の護衛依頼に関して儂はだいぶ君らに融通して貰っているんだ。これぐらいはさせてくれ」


 融通って……あぁそうか、サディエルたちほぼ無報酬でこの仕事請け負ってるからか。

 交換条件でオレを搭乗者として荷馬車に乗っける、ってことでの交渉成立なわけだけど。


「クレインさん」

「何かね、サディエル君」


「本音は別邸での積み荷の出し入れを手伝って欲しい、って魂胆ですよね?」

「はっはっはっは!」


 サディエルが苦笑いしながら指摘すると、まったく動じずクレインさんは豪快に笑ってごまかした。

 あ、そっちが本音……いい人だなーって思って損した。


「さて、この国の滞在日程なんだが」


 完全にスルーする気だ、このおっちゃん。

 思いっきり話題変えてきやがった。


「4日後に商会の会合が開かれる予定でね、最低でもそれに参加しないと出発が出来ないんだよ」

「となると、4日目に最終荷物の積み込みになりますね。会合はいつ頃終わる予定ですか」

「順調なら夕方と言いたいが、大方揉めて伸びるし、晩餐会もあるから深夜戻りになるだろう。別邸の者たちに積み込みメモを渡しておくから、指示に従って出発準備を進めておいて欲しい」

「分かりました」


 つまり、完全フリーが3日間ってわけか。

 大きな国だから、観光するだけで1日が終わりそうだよな。

 その前にギルドなり図書館なり行って、情報収集はしないといけないわけだけど。


 そうこうしている間に、荷馬車は賑わう中央道から少し離れた郊外への道を進み始める。


 その道の先を見ると……


「でっか!?」


 かなりの大きさのお屋敷が見えた。

 え、もしかしてこのめっちゃでかいお屋敷が?


「凄いだろヒロト君。儂の別邸の1つだ」

「わーお……」


 クレインさん、もしかしなくても豪商なのでは?

 そう思いながら、オレたちはクレインさんの別邸に案内されたのだった。


 別邸に到着するや否や、事前に連絡が行っていたと言わんばかりに、ずらりとメイドさんや執事さんが出てきた。

 本格的過ぎる。


「旦那様、お帰りなさいませ」

「うむ、ご苦労。紹介しよう、バトラーのレックスだ」

「ご紹介に預かりました、レックスと申します。滞在中、何か御用がありましたら我々にお声がけ下さい」


 バトラー? なんじゃそりゃ。

 オレは思わず首を傾げてしまう。えーっと、こういうのに詳しいのは誰だ?

 サディエル、は……違いそう。アルム……も、なんか違うから消去法で……


「リレル、バトラーって?」


 決して、オレの世界でいう執事喫茶的なイメージだから女性に聞いたわけじゃないぞ。断じて!

 オレのそんな内心に気づいてか、リレルは小さく笑ってから


「バトラーは執事のことですね」


 そう答えてくれた。

 ……って、執事!?


「じゃあレックスさんの周囲の人は? 彼らも執事じゃないの?」

「彼らはフットマンですよ」


 わ、訳が分からん単語が増えた。

 なに、メイドとメイド長みたいな感じでそういうやつ?


「まず、フットマンとは男性版のメイドのようなもの、と思っていただければ問題無いかと思います」


 あ、やっぱりそういうことか。

 言い方が違うだけで、執事見習いみたいな感じなのか。


「そしてバトラーとは、フットマンが長い経験を積んで評価された存在です。並みの気配りや優雅さでは、この称号は授与されません。また、その証として燕尾服を身に付けていることが多いですね」


 燕尾服……あ、本当だ。レックスさんだけ燕尾服を着ている。

 んで、その周囲の人たちは一見するだけなら燕尾服っぽいけど、レックスさんと比較すると全然違うな。

 というか、執事ってひとくくりで覚えていたけど、そんな違いがあったのか……いい勉強になった。


「それじゃあ、儂は自室でたまった書類を片付ける。君たちもゆっくり羽根を伸ばしてくれ」

「分かりました。クレインさんもお仕事頑張ってください」


 書類の山なんだろうなぁ、とぼやきながらクレインさんはレックスさんを引き連れて屋敷に入っていった。

 オレたちはオレたちで、他のフットマンやメイドの皆さんに荷物を持ってもらい、数日滞在することになる部屋へと案内される。


 案内された部屋なんだけど……どこのスイートルームだよ!? って感じだった。


 正直、ベッドにダイブしたいけど、あまりに高級そうなそのシーツに恐れ多くて飛び込めないぐらいにやばい。

 あれだ、良い素材で作られた品物って、素人目で見ても『あ、高級品』ってわかるんだな……今まで見てきたシーツと比較にもならない良さがあるよ。

 ベッドへのダイブを諦めて、オレは室内にある別のドアを開けて覗き込むと、そこにはまた高級そうな風呂があった。


「うし、風呂あった! しかも個室! 素晴らしきかなお金持ち!」

「ヒロト、心の声駄々洩れだから注意しとけよー」

「うわっ!? サディエル、頼むからノックしてから入ってきてくれよ!?」


 思わずソファまで後退したオレを見て、サディエルは笑いながら入室してくる。

 その後ろから、アルムとリレルも同じように……って、全員に見られてたのね……はっずかしいんですけど。

 そして、彼らは当たり前のように、部屋に備え付けられている椅子などに座る。


「休暇中の予定を話そうと思って集まったんだよ」

「あっ、そっか。予定何も決めてなかったもんな。だったらさ、せっかくこんな大きな国なんだし、オレ、ギルドに行ってみたい! 資料も探せるだろうし!……いやまぁ、オレは読めないけどさ」


 あと、こういうでかい所のギルドってのが、単純に興味をそそられる。

 今まではほら、街レベルだったからちょっと広い集会場、みたいな場所だったわけだし。

 これだけ大きい国なら、冒険者たちもいっぱい居るんだろうな!


「そうだな、念のために魔物の襲撃の予兆がないかも確認しておきたいわけだし……よしっ、それなら今日はギルド行こう」


 おっしゃ! ギルド行き決定!

 もちろん冒険者の使命の1つである、魔物の襲撃確認もあるけど、早々起こるもんじゃないはず。

 何よりこの国はでかいから、仮に襲撃があっても早々簡単に防衛が崩壊するようなこともないだろ。


 フラグとかじゃなくてね、うん。


「それなら早いうちに行ってしまわないか? ついでに昼飯でも食って……」

「それなんだが、アルム」

「なんだ?」


「お前は今日の残り時間、別行動な。はい、リーダー権限でけってーい」


 アルムだけ別行動?

 オレが何事と首を傾げている間に、アルムは頭をがしがしと乱暴にかいて不満そうな表情を浮かべる。


「あのな、別に僕は……」

「お師匠さんの所行って来いって。久しぶりにこの国に寄ったわけだし」

「そうですね。私もサディエルの意見に同意です。行ってきてくださいませ、アルム」

「………」


 師匠? アルムに師匠が……って、あれ、そういえば。


『なるほどな。根拠のない心配事や不安の96%は、実際には何も起こらないって、僕の師匠も言ってたな』


 そうだ、そうそう。確かサディエルたちと出会った当初にそんなことをアルムが言っていたな。

 へぇ、この国にお師匠さんが居るのか。


「積もる話もあるだろうしな」

「面白いネタは、報告出来そうだけど……」


「何でそこでオレを見るんだよ、アルム」


「自覚があってよかった、面白いネタ君」


 ひっでぇ!? 完全に笑い話にする気だこいつ!?


「異世界云々は言わないでくれよ」

「そのあたりは大丈夫」


 ほんとかよ……いや、アルムならそこまでのミスはやらないか。


「と言うわけで、オレとヒロトとリレルはギルドに。アルムは自由行動。何か情報があったら、またここで情報共有、いいな?」

「おう」

「了解です」


「分かった!……って、何で集合場所がオレの部屋確定なんだよー!」

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