26話 過程と結果の相異【後編】
「ふぁぁ……ねっむ……」
昼に差し掛かろうとしている頃、大きな欠伸をしながら、オレは宿の階段を降りる。
結果的にまるまる一晩、サディエルからあれこれ説明受けました。
はー……凄まじかったよ、本当に。
「あそこまで考えられてたら、もう何も言えない……」
サディエルたちの目的達成表の内容だけど、下層部の部分がもう頭抱えるしかなかった。
オレの現状確認から始まって、出来る事、出来ないことを細かく分別。
その中で、絶対にやって貰わないといけないことをピックアップして、さらにその中から優先度をつける。
んで、その優先度にもさらに優先度があって、状況によっては切り捨ててサディエルたち自身がなんとかする等々と……もう途中から何言ってるのかさっぱりで、意識飛ばしたかったぐらいだ。
そんな目標の中には『二の次』と公言していた、元の世界に戻るための情報収集に関してもしっかりあった。
ただ、こっちはやっぱり現状としてエルフェル・ブルグに行った方が高効率だ、という説明を受けた。
『今は仕事で荷馬車の護衛をしながらだから、寄り道らしい寄り道は当然出来ないわけだ』
『そうだよな……今日みたいに街に着いて荷物の積み下ろしで2~3日、なわけだし。護衛のそもそもの意味が、エルフェル・ブルグまでの片道の到達日数を短縮する為だもんな』
『半年を3か月にした代償だな。まっ、ギルドに行けば多少の資料こそあるが、やっぱりあの国が保有している資料の量と比較するとな』
だから、ギルドへ行ってそれっぽいのを探して内容を斜め読み、ぐらいしか手立てがないわけだ。
同時進行で一般的に情報収集の場、と呼ばれるギルドや酒場などでもそれとなく探りを入れる。
そうなると到達日数を短縮した影響が出て、情報収集が出来る量も時間も限られるわけで……街や国への移動の最中で、オレが生き残る為に必要なあれこれをやった方が、後で利点があるという結論だった。
『それに、資料類の確認に関してヒロトはそもそも戦力外だ。文字が読めないしな』
『あああああああ……その問題もあった……ちなみに、オレにこの世界の言語を教える気持ちは?』
『君の世界の言語を反復復習している暇がなくなって、元の世界に戻った時に涙目になっていいなら教える』
『ごめんなさい、素直に自分の世界の言葉を勉強します』
『はい、了解。出来るやつがやればいいんだよ、こういうのは。ヒロトがこっちの文字覚える時間で、俺ら3人は百冊ぐらいは読めるわけだし』
適材適所とはまさにこのことだな、という一例に結果的になってしまった。
オレが自分自身を守れるようにさえなれば、同じ2~3日の休暇でも、少し足を延ばして近場の遺跡なりを探索できるようになるそうだ。
『つまり、"損して得取れ"って事か……』
『んー、響き的に今は損してもいいから、将来的に大きな利益があるよ! って感じかな?』
『だいたいそんな感じ』
『……ヒロト、やっぱ君の所の言葉、もっと有効活用した方がいいと思う』
ほんとにな……
今更だけど、先人が残した言葉がこうもドカスカとクリーンヒットすると、何も言い返せない。
そんなわけで、一晩使って散々話し合った結果、当面の目標達成についてを明確化出来たわけだ。
いや、最初からしていたんだけど……認識合わせってことで。
「むしろ一晩で良く終わったよ……ふぁぁ……ダメだ、欠伸が止まらない」
説明聞いて思ったことは、やっぱ意思疎通も、認識合わせもめっちゃ時間掛かるってこと。
あっはは……漫画やアニメじゃ、絶対にありえないよな。テンポ悪いし。
だいたい頭いいキャラが適当なタイミングで、後方彼氏面の如く『お前の考えてることは分かった、後はオレらに任せな!』ってやるわけだし。
もしくは、よくわからんけど主人公の言うことなら何か作戦があるんだろう! 的な?
―――だけど、これが『現実』ってやつなのかもしれないな。
自分で散々言っててあれだけど、他人の考えなんてさっぱり読めない。
そんなこと、口で説明してくれなきゃわからない! ってことの方が大半だ。
話を進める為に、理解あるキャラクターが適当に状況まとめてってことは、絶対にない。それが、普通の現実。
そもそも、そんな都合がいいなら今回のような衝突は起こらないわけだし。
『僕らは、今、間違いなく、お前の目の前で"生きている"人間だ。君の世界にある都合のいい奇跡を信じて、無謀な賭けを躊躇なく出来る想像や空想上の存在じゃない。常に最悪を考え、少しでも良い結果にしたいと足掻く……君にとっての現実が元の世界であるならば、僕らの現実は"ここ"だ』
昨晩のアルムの言葉を思い出す。
そうだよな……凄い現実的に色々考えて、あれこれと可能性を想定して、それを仲間内で共有してと……先が見えてないから、足掻くわけだ。
特別なことじゃない。オレだって受験に合格する為に、あれを覚えた方がいいかとか、ここを抑えておかないとまずいよな、とかやるわけだし……程度は違えど、つまりはそういうことなんだよな。
さて、そうとなれば今日まずやることは1つだ。
階段を下りて、宿の食堂へ足を運ぶと、奥側の席に目的の人物を見つけた。
1人はこちらに背中を向けた形で、もう1人は側面になるように座っている。
そのうちの1人……リレルが先にオレに気づいて、小さく手を振ってくれる。
「アルム!」
「……ヒロト?」
テーブルに近づき、オレはすぐさまアルムに声を掛ける。
「あの……えっと……」
振り返ったアルムに、少し言いよどんでしまう。
けど、えーい、男は度胸と根性!
「昨日は、ごめん!」
「昨日はすまない、言いすぎた!」
「「……え?」」
同時に言って、同時に驚く。
その光景を見たリレルが、ぷっ、と噴き出して必死に笑いを堪えて居る。
うわあああ……なんか逆に恥ずかしい。
「おい、リレル」
「ふふっ……ごめんなさい。おもしろ……いえ、可愛らしくて」
「面白いっつーたよ。面白いって、言い切ったよこいつ」
「だからごめんなさいって……ふふふっ」
口元抑えて、ふるふると震えながら笑いを抑えて……いっそ、爆笑して!?
「そこまでにしとけってリレル。おはようさん、アルム」
「遅いご起床で……おはよう、サディエル」
いつの間にか、まーたオレの後ろに居たサディエル。
驚いてオレは思わず後ろを見て、姿を確認してしまう。
漫画とかでよくある『誰かの気配が近づいて……』って分かるやつ! 無理だって、気配わからん!
「お2人とも、遅かったですね」
「色々喋ってたら、時間なんてあっという間だったんだよ……ふぁ……」
サディエルも眠そうに欠伸をする。
うわ、つられ欠伸しそうになるんだけど……
「間抜け面」
「必要経費の寝不足だよ」
そう言いながら、サディエルは空いてる席に座る。
おっと、オレも座ろう。
サディエルとアルムを両隣にする位置に座って、メニュー表を……見ても意味がないので、あれこれ喋っている内容を聞くしかない。
「ヒロト、本日のご気分はどうですか?」
「時間的に昼なんだけど、寝起きでがっつりはきついから軽めでお願いします」
リレルに問われて、オレは今の気分を素直に話す。
でしたら……と、リレルはメニュー内からいくつかのスープと、パン系をリストアップしてくれた。
結果として卵のホットサンドと、玉ねぎスープで注文して貰えることになった。
何の卵か、は問わないでおいた方がきっとオレの精神的にも安泰なんだろうな、うん。
サディエルも同じように注文を決めて、近くに来たウェイターにその内容を伝えてしばらくの待ちだ。
「さっき、クレインさんに会ったんだけど、予定より早く準備が整ったらしくて、午後から出発の準備を手伝って欲しいそうだ」
「ってことは、出発は明日か」
「そうなるな。昼ごはん食べたら、ギルドの方へ行こう」
そっか、もう出発になるのか。
意外と短い休暇だったなぁ……この街の探索もちょっとはしたかった気もしなくはないけど。
というか探索してなかったのに、妙に濃かったっつーか……まっ、いいか。
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―――翌日
オレたちは出発の準備を整え、次の街へ向かって旅を再開した。
クレインさん曰く、次の目的地はそこそこの領土を誇る国だそうだ。
本格的な国か、楽しみだな。
次の目的地に思いを馳せながらも、やることは今まで通り。
朝にサディエルたちと一緒に軽い運動と体力作りをする。
何でサディエルたちも、と思わずぼやいた時は
「いや、俺らも運動しとかないと、いざって時に体力落ちていたら世話ないし」
「ずっと荷馬車に乗ってだけですと、体も鈍りますしね」
とのこと。
まぁ、そりゃそうだよな。
そして、昼過ぎからはクレインさんにいつものお話と称した勉強を。
夕方になって野宿と夕飯準備が終わった後に、もう1つ日課が追加された。それが……
「ダメだ。この作戦だと、こっちの部分が手薄になるんだ」
「ここへの襲撃率は低いと思う! ある程度、見切りをつけとくのも大事なんだって言ったじゃん!」
「それは、仮にそうなった場合の対策を一緒に提示した上での見切りをつけるんだ。せめて『即撤退』ぐらいの対策を提示しない戦略は、ただの思考放棄の暴論だ」
「あーもー! 重箱の隅を楊枝でほじくるように、可能性低い部分ばっかり指摘してー!」
「その可能性が低い部分を、試練だの困難だの、はたまた面白いからって名目で発生するのが、君の故郷の"お決まり"だと認識しているぞ?」
「具体的かつ、反論出来ない内容で言い返すの禁止ー!」
「黙れ、減らず口」
「うるせぇ、分からず屋!」
「「がるるるる……!」」
バチバチバチ、とオレとアルムの視線がぶつかって火花を散らす感覚がある。
互いに一歩も引く気ゼロだ。
そう、追加されたのはアルムを師匠として、戦い方についての戦術論を学ぶこと…‥ひいては『負け筋』を学ぶことだった。
その結果、こうやって昨日、いや、一昨日か。その時とは全く別のベクトルでの喧嘩が勃発してしまう羽目に。
だけどさ、何でそこまで低い可能性までほんとにさー! いいじゃん、どうせ起こらない可能性の方が高いのに!
「楽しそうで何よりです。はい、お茶をどうぞ」
「どこが楽しそうだ!? あ、ありがとう」
「ちょうど喉が渇いていたから助かった。ついでに、全然楽しくないからな。頭がめちゃくちゃ痛い」
差し出されたお茶を受け取りながら、オレとアルムは言い方は違えど文句を言う。
その結果、互いに視線がぶつかって、再度睨みあいになる。
「懐かしいですね、この光景」
嬉しそうに微笑みながら、リレルがそんなことを言う。
オレは思わず首を傾げて
「懐かしい?」
そう問いかける。
するとアルムが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「はい。出会った頃のアルムとサディエルも、こうやって毎晩のようにあーだこーだと戦術論を繰り広げていたんです」
「そうだったんだ……」
「……喧嘩しすぎてマジになった時に、リレルが鉄拳を喰らわせてきた事、忘れてないからな」
「さぁ、そんなことありましたっけ?」
しらっと、かなーり白々しくリレルはアルムに返答する。
さすがに鉄拳は喰らいたくないので、オレは気を付けよう……と、心に誓ったのだが、当然ながらそれは無理な話になるのに、3日と掛からなかった。
そんなオレたちから少し離れた場所で、その光景を眺めていたサディエルとクレインさんが
「いやぁ、微笑ましいものだね、有意義な談義をしている光景は。なぁ、サディエル君」
「そう思います、クレインさん。仲良く喧嘩すりゃいいんですよ、好きなだけ」
「はっはっは! 仲良く喧嘩できるってことは、信頼の証とは良く言いますな」
「全くです。仲良きことは美しきかなってやつですかね……ヒロトの故郷の言葉らしいですけど」
なんて会話をしていたのに気づかないまま。




