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オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい  作者: 広原琉璃
最終章 冒険者5~6か月目
102/132

97話 登山準備【後編】

「重たい……」

「あっはは、あと少しだヒロト。頑張れー!」


 ギルドから出たオレたちは、山越えに必要となる品々を手分けして確保して回ることになった。

 品物の数が数なので、オレとサディエル、アルムとリレルのペアに分かれて、あっちにアレ、こっちにソレと購入していくうちに、重量だけがかさばり、宿に戻る頃には、もうへろへろ……


 そのまま、オレたち3人が宿泊する部屋に荷物を降ろして、ようやくひと段落だ。

 あ、リレルは個室な。


 若干、硬直しかかっている指を軽く回しながら解していると、サディエルが時計を見る。


「確かそろそろ、クレインさんが送ってくれた品も届くはずなんだが……」


 まだかな……と、彼は首を捻る。

 そう言えば、クレインさんが『旅の準備について、少しばかり援助をする』と言っていたっけか。

 結局、何をサディエルはお願いしたんだろう。


『すいませーん、サディエルさん、いらっしゃいますかー?』

「おっ、もしかして」


 部屋の外から聞こえた声に反応して、彼はドアまで急ぎ足で駆け寄る。


「はーい! 俺です!」


 そう返答しながらドアを開けると、宿の人なのだろうかガラガラと荷台を押しながら、こちらまで来てくれた。


「サディエルさんですね。では、身分証明として、届主の方の名前と、取り決めた暗証文字をこちらへ」

「わかりました」


 身分証明書と言うか、本人確認をするって…‥少なくとも異世界だと、そんなシーンあんまりお目にかからないよな。

 届け間違いがあっても困るから、こういうのは大事なのはわかるけど。


 オレがそんなことを考えている間に、サディエルは必要事項を紙に記載し終える。

 内容を確認して、間違いなく受取人であることを確認したのか、少し大きめの木箱が彼に手渡された。


「確かにお届けしました」

「ありがとうございます」


 一礼してドアを閉めると、サディエルは小走りにテーブルまで行き、どさりと木箱を置いた。

 置いた反動で箱から僅かに、何かがぶつかる音がする。

 ジャラジャラと豆が揺れた時のような、そんな音だ。


 さっそく開けようとした所で、ドアがノックされる。


『おーい、サディエルかヒロト、戻っているか?』

「アルムか、ちょっと待ってろ」


 一旦、木箱を開けるのを諦め、サディエルはドアに向かう。

 ガチャリと開けると、こちらも大量の荷物を抱えたアルムとリレルが居た。


「2人とも先に戻っていたのか」

「お待たせしました。あら? そちらの荷物は?」


「おかえり、アルム、リレル」

「クレインさんからの荷物が届いたんだ。確かここに特定の波長で魔力を込めれば……よし、開いた!」


 魔力で封がされていた部分を解除し、サディエルは中から品物を取り出す。

 それは瓶詰された、果物……って、これは……


「ドライフルーツ、っぽいけど」

「そう。果物を天日干しにして乾燥させた、ドライフルーツ。これが結構高価だから助かったよ。日持ちするし、手軽に糖分を摂取出来るからな」


 箱から2瓶のドライフルーツと、山越え用の服、タオルなど様々なモノが出てくる。


「ほー……さっすがクレインさん。品物が的確だな」

「あの人も、何度か山越えをするからな。このあたりはお手の物なはずだ」


 経験則からのラインナップなのか。

 サディエルは、先ほどの買い物で購入していた、小さめ瓶を8つ取り出し、ドライフルーツを小分けにしていく。


「1人2瓶づつだ。登りで1瓶、下りで1瓶と言う目明日で消費してくれ」


 渡された小瓶を受け取り、オレたちは各々の荷物袋にしまい込む。

 同じように、買い込んできたもののうち、水や固形のパン等の食料品を次々と分配。

 さらに、クレインさんからの荷物に入っていた、山越え用の服も、各自に配られた。


「配分は……これで問題ないかな?」


 メモを確認しながら、サディエルはあれこれと配ったものを再確認する。

 各自の食料、水分、服に道具……思いつく範囲では抜けが無いはずだ。


「大丈夫じゃないかな? アルムとリレルの方はどう?」

「……それもある、これも大丈夫。うん、問題ないはずだ」

「ですね。これで荷物に関しては大丈夫だと思います」


 オレたちの返答を聞いて、サディエルは安堵のため息を吐く。


「よしっ、これで荷物に関しては問題ないな。あとは、明後日までは自由行動になる。各自、しっかりと体調を整えておくこと!」


 明後日までか……どうしようかな。


 いや、受験勉強とかやらないといけないことはあるけど、それ以外の時間って意味で。

 対ガランド戦についても考えたいから、アルムと相談するとか。

 山越えの知識がもうちょい欲しいから、その辺りを確認するのもありかも。


 あれこれやりたいことが思いつくから、どれから手を付けようか悩みどころだな……


 そんなことを考えていると、リレルが右手を挙げる。


「毎朝のトレーニングは、いつも通りの時間ですか?」


「あぁ、それはいつも通りにしよう」

「分かりました。じゃあ、私は一旦部屋に戻りますね」


 それでは、とリレルは自分の荷物を持って、個室へと戻っていった。


「じゃあ、俺はクレインさんに荷物が届いたことを連絡して、ついでに軽く運動して来るよ」


 次に声を上げたのはサディエルだった。


「1人で大丈夫?」

「大丈夫だって。それに、出来る限り例の薬には頼りたくないからな」


 夕飯までには戻るから! と言って、サディエルは部屋を後にする。

 これで、この部屋に残ったのは、オレとアルムの2人だ。


「さてと、じゃあ僕らは……対ガランドに向けて、色々議論を交わすか」

「そうしよう。詰めれるところは詰めておかないと」


「ついでに、受験勉強もやってしまうか。今日はどの話になるんだ?」

「1920年代で、ある国が『ジャズ・エイジ』って呼ばれる頃の話をしようかなって」


========================


 ギルドでクレインへの手紙をしたため、運搬手続きを終えたサディエルは、そのままランニングをしながら街を1周する。

 しばらく走り、人気のない所まで行くと、ゆっくりと速度を落として立ち止まった。


「……いつまで人の視界から覗いているんだ、ガランド」


『まるで四六時中、ボクが君の私生活を覗いているような言い方、頂けないね』


 その言葉と共に、サディエルの目の前に、ローブを来た人物が姿を現す。


「君らの様子は今日初めて見たのに、勘がいいね」

「不定期に視界がぼやければ、流石に疑うに決まっているだろ」


 そう言いながら、サディエルは自身の剣の柄を手に取り、素早く抜刀する。

 そのまま、ガランドに向けて一閃。


 しかし、彼の攻撃はいともたやすく躱されてしまう。


「今日は宣戦布告に来ただけだ。もうすぐお前を食えるよ、サディエル。やっとお前の魂よりも、力を取り戻せる。それまで、間違っても "顔" に傷をつけるなよ? その "魂" も」


「気色悪いんだよ、相変わらず……!」

「言っただろう? 魔族に "顔" を奪われた奴の末路は。永遠に抜け出せない魂の牢獄。魔王様が決めた、人間を恐怖を植え付ける策……くっはははは! 楽しみだよ、その時が!」


 ガランドの姿が僅かにブレる。

 サディエルは慌てて剣を構え直し、攻撃を加えようとしたが、それよりも早くガランドの姿が消え去った。


『せいぜい、孤独を恐れなよサディエル。恐怖と絶望に歪んだ顔を、ぜひとも堪能させてくれ』


「……くそっ!」


 忌々しいと言わんばかりに、サディエルは地面を蹴る。

 そして、地面に座り込んで深いため息を吐く。


「あの時の話は、俺が一番思い出したくないから言ってないっつーのに……」


 彼の脳裏に、エルフェル・ブルグに到着する前の光景が蘇る。

 ヒロトたちが必死に、サディエルを助ける為に戦っている最中……ガランドによって知らされた事実。

 それをずっと、彼らに言いあぐねていた。


 1度だけ、伝えるチャンスこそあったものの……踏みとどまってしまった。


 だけど、その翌日に判明したことを思えば、その判断は正しかったと、サディエルの中では結論づけている。

 ヒロトとの関係性を考えれば、もし最悪の事態になった場合どうなるかを、正確に理解した為だ。


「永遠の牢獄か……そんな場所、願い下げに決まっているだろ……!」


 強く拳を握りしめ、振り絞るように吐き出された。


「そのお話、詳しく聞かせて頂けますか? サディエル」


 そこに、予想外の声が響いて、サディエルは勢いよく顔を上げる。

 慌てて声のする方向を見て……情けない表情を浮かべた。


「……どこから、聞いていたんだよ。というか、部屋に戻ったんじゃなかったのか、リレル」


 ゆっくりと、サディエルに近づく人影。

 それは、リレルだった。


「途中からです。部屋で荷物整理をして、この街の本屋へ足を運んでいたのですが、その途中で貴方を見かけたので」

「こっそりついてきたって訳か」

「えぇ、街中で、まだ条件を満たしていないとはいえ、1人は危ないと思いまして……それで、教えて頂けますか?」

「………」


 リレルの問いかけに、サディエルは黙り込む。


「サディエル。そんなに私たちが頼りないですか?」


「それは違う! そんなことは……!」

「分かっています。貴方がそんなことを思う人じゃないことぐらい」


 リレルは、サディエルの目の前で腰を下ろす。

 まっすぐに彼の目を見て、彼女は言葉を続ける。


「宿に戻りましょう。今日はゆっくり休んで、明日話してください。ガランドから言われた事を、全て」

「……」

「あいつは言っていました。"孤独を恐れろ" と……危惧していた可能性が高まったんです。でしたら、対策を強化しなければなりません」


 2人の間に、沈黙が下りる。

 それが1分か、2分か、もっと長かったかもしれない。

 やがて、ようやく決心がついたのか、サディエルは顔を上げて答える。


「……分かった。今日のうちに、内容を整理しておく。だから」

「はい。今日は、これ以上は聞きません。宿へ戻りましょう、そろそろ夕飯になります」

「そうだな……リレル」

「はい?」


「ありがとう」

「どういたしまして」

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