44.思い出と眠る時
ここまでいろんな事があった。
衰弱して動けない身体は考える事しかできない。
私はベッドの上で今まであったことを思い出すことにした。
ー聖歴4526年、私はこの国、イグニア王国に生まれた。
それからいろんなことがあった。
時に勘違いをして、時に仲違いして、仲直りして。
私は周りからいろんなことを学び、いろんな感情を学んだ。
嬉しみ、悲しみ、怒り、慈しみといった感情表現がある。
中でも私は「幸せ」という言葉が好きだ。
ベッドの天蓋を見ながら昔のことを思い出す。
これは、息子のバーデンが14歳の時の話。
彼はルージェント学園に通っていたのでその様子を時々妖精にエイゾウというものを見せてもらっていたのだ。
エイゾウを見るといつも彼は婚約者と一緒にいる。
バーデンの婚約者はシェリーナ・フィバルブ、ミラとライアーの娘、フィバルブ侯爵家の長女だ。
ミラに似て将来を約束された美少女でとても可愛らしい子だ。
彼女はいつもバーデンと楽しそうに笑っているのを社交パーティーでも見かけるほど二人の仲に心配はなさそうなので安心していた。
しかしそんな二人を引き裂こうとする人が現れた。
その子の名前はセリア・ルージェ、ルージェ男爵家の養子として受け入れられた子で根は悪くないのだが性格に難ありな子だった。
いつもバーデンとシェリーナが二人でいるとこに突っ込んでいって「バーデン様は私と結ばれる運命なの!」と言ってシェリーナに突っかかっていたのだ。
それとなく娘のクリスティアとアリスティアにセリアのことをどうにかしてほしいと言っておいたので二人は兄のバーデンの近くにいるようになった。
そしてクリスティアはセリアにこう聞いた。
「セリア様、なぜそんなにもお兄様の婚約者にこだわるのですか?」
「それは...私が光の魔法を持っているからです!」
彼女は迷いなく言う。
確かに光や闇魔法の類の魔法を持つ人は少ないですが...。
私がそう思っていると今度はアリスティアが両手を合わせて彼女に言う。
「まぁ!光の魔法が使えるのですか!私と同じですね!」
私がほとんど全属性を持っているからか、子供たちにも遺伝してバーデンは闇、アリスティアは光、クリスティアは精霊、リアードは天とそれぞれめずらしい属性を持って生まれた。
セリアはとても驚いた顔になってこう言う。
「え...そうなんですね。えっと、その...。光魔法は珍しいと、聞いたのですが。」
驚きすぎて今までの勢いを忘れて焦った話し方になっている。
「そうですね、珍しいです。...けど...」
クリスティアが言い終わる前にアリスティアがかぶせて言う。
「私達のお母様も持っていますよ?私持っているのが普通かと思っていました。」
と余計なことを言っている。
思わず頭に手を当ててつぶやく。
「アリス、また余計なことを...。」
そんな頭を抱えている私のことを知らない彼女は続けてこう言った。
「いいことを思いつきました!セリア様、私と共に光魔法を教えてもらいましょう!お母様に!」
「え、いいのですか?!あの有名な王妃様に教えてもらっても?」
なぜかセリアはアリスティアの提案に食いついた。
「もちろん!きっとお母様も喜ぶわ!」
勝手に話を進めている娘にまた私は頭を抱える。
いままでその会話を呆れ半分で聞いていたクリスティアはセリアに聞く。
「...お兄様との婚約関係の話はもういいんですね?」
セリアは今思い出したかのように言う。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!お二人の邪魔をすることは今後一切しません!アリスティア様!先ほどの話の続きをしませんか?」
唖然とするその場の中で空気を全く読まないアリスティアはセリアの手をつかんで「ええ、もちろん!さあ、こっちで話しましょう!」と言って淑女らしからぬ速さでその場を去っていった。
その場で一切口を開かなかったバーデンとシェリーナはつぶやきます。
「今のは何だったのでしょうか。」
「私にも、よく、わかりませんでした。」
私はエイゾウをやめてもらう。
私は溜息をついて紅茶を一口飲む。
「なぜこうなったのかしら...?」
一人そうつぶやく部屋には2人の妖精がいる。
「アリシナは大変ね~。ね、貴方もそう思うでしょ?ウェル?」
「ルーシエ、たぶん僕たちも大変だと思うよ?」
「なんで?」
「だってアリスのことだから僕たちのことも紹介するでしょ?そうなると...ね?」
「...あまり考えたくないわね...。遊ばれるのは目に見えてるし...。ウェル、どこに逃げればいいと思う?」
「一時的にティアドラに戻る...とか?」
「そうね、でもそうするとアリシナを守れない...はぁ、仕方ない。遊ばれるしかない...か。」
「諦めるしかないね。」
「二人共、それはどうにもできなそうだから諦めましょう?ね?」
私は二人にそう言った。
まあ何とかなったみたいだからいいかと気にしないことにした。
そのあとにアリスティアが来たのは言うまでもないけれど...。
その一年後にイヨ王国から第一王女が留学に来た。
その名前は劉帝 江卑と言い、次期イヨ王国の王になる予定らしい。
一年間ルージェント学園に通うというので挨拶に来た時にこう聞かれたことを今でも覚えている。
「王妃様、お初にお目にかかります。私はイヨ王国から来ました。第一王女の江卑です。少々聞きたいことがあります。よろしいですか?」
私は静かに頷くと彼女は続けた。
「実は探している人がいるのです。名前はアズミ、王妃様知っていますか?」
もちろん知っている、しかし知らない。
「知っていますが、彼女のことを探しているのですか?」
「ええ、彼女に聞きたいことがあって。」
「私は彼女の行方は分かりませんよ。彼女はいつもどこにいるかわかりませんから。」
その時私が言っていることはあっていた。
彼女は私が結婚式の日に見かけてから今までの数年間、一回も見たことがなかったのだ。
「...そうですか。」
彼女は顔を俯けて一瞬悲しそうな顔をした後に何もなかったようにこう言った。
「一年間お世話になります。」
「ええ、ぜひ娘たちと仲良くして頂けると嬉しいです。」
彼女がそれ以上は口にしなかったので話を終わらせた。
それから2年が経ってバーデンがシェリーナと結婚式を挙げた。
そしてクリスティアはコルトノール侯爵家のアスロルドと、リア―ドは私の実家、ヴェルディーン公爵家のシェイナスとサナの子供のリンシアと、アリスティアはデルタゴン侯爵家のディーランドとそれぞれ結婚して城から出ていった。
たまに会いに来るが私が王族だからか、なかなか来ないので少し悲しかったのを覚えている。
私とロストワール様が50歳になる時に息子のバーデンに王位を引き渡した。
それからいままで、離宮で余生を楽しく過ごしていた。
いままでの思いでのすべてを思い出した私は現実に戻る。
王族にはある特徴がある。
それは昔の話、それぞれの王族にはエルフの血が入っている。
一番美しい時で成長が止まり、決してその姿が変わることがないエルフの血が入っているのだ。
ロストワール様はもちろん、王族の血が流れる私も長生きをしている。
今の私の年齢は175歳という王族にとってはまだまだ生きれるという歳だ。
しかし残念ながら私はここまでらしい。
すでに私が仲良くしていた友人たちは次々に命を落としていった。
それを見ていた私は自分の生が終わるのを待っていた。
いままで毎日元気に過ごしていた。
しかし、一週間前から急激に体が弱くなったことからして私の死は近づいているのだろうと悟った。
それにロストワール様も気付いたのか、ベッドから離れられない私のそばにずっといることが増えた。
静かにその時を待つように私は瞼を閉じる。
「ロストワール様、ありがとうございます。...私は幸せです。」
唐突に感謝を言いたくなりベッドに寄り添う彼の手を握った。
手に力が入らないので弱々しく握った手を強く彼が握ったのが分かった。
彼の手が温かいのに対し、私の手は氷のように冷えている。
だんだん意識が朦朧としていくのを感じた私は彼に微笑む。
「来世でも逢えたら、いいですね。」
私は開いた目をゆっくりと閉じる。
閉じるときに彼の声が聞こえた気がした。
そして、私の意識はそこで途切れた。
「アリシナ、私も幸せです。...来世で逢いましょうね。」
次回の投稿は明日の20時です。最終話まであと1日。




