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40.初夏の訪れ

※シェイナス視点です。

お姉さまに出会ったのはいつだったでしょうか。






ヴェルディーン家の庭に行った時に見つけた時、私は初めて彼女に出会いました。



隠れるようにして木陰に寄りかかって座って本を広げる彼女を見つけました。

彼女の顔はすごく真剣で私の存在にも気づかないほど集中して本を読みこんでいました。



いつも「アリシナ様は本当にご優秀な令嬢ですよね。」「ええ、だってあのヴェルディーン家の令嬢ですもの。納得ですわ。」と周りから言われていたので「努力をしないでもちやほやされている、ずるい令嬢」というイメージだったので驚いたのを覚えている。

彼女は何をしても完璧にこなしているのは才能があるだけ、元々で来たからあたりまえ、そう思っていたイメージ像とは程遠いほど彼女は努力家だったのだ。



その日、私は何も挨拶もせずに庭を後にした。

それからよく彼女を見るようになった。



そして気付いた。



彼女は「公爵家という身分だから優秀」という言葉が一番嫌いだということが。

誰よりも周りの声を聴いてきた彼女は自分の話題が出るたびにその噂話に耳を傾けるたびに、寂しそうな顔をした。

まるで「自分自身は認められていない」というように、「誰も私自身を見ていない」ことを悲しむような顔をした。



彼女は認めてほしかったのかもしれない、兄妹が一人もいない彼女は「孤独」だったのかもしれない。

しかし、彼女は変わった、自分自身で変えたのだ。






いつのまにか、私にとって彼女が尊敬する人になっていた。

いまでもそれは変わらない。



王太子妃としてこの国をまとめる王族として彼女は今も努力をしている。

そんな自分の義姉をこれからも家臣として支えていこうと思う。



仕事のペンを止めると外の景色を見た。

姉が王家に嫁ぐまで育て続けた庭が



「ペンがとまっていますよ。終わったのですか?」

とパープルブラウンの髪にヘーゼルの瞳をした彼女が私に向かってそう言った。



「ええ、だいたい仕事が終わったので、少し休憩をしましょうか。」

書斎の机から離れてワインレッドのカウチに座っている彼女の隣に腰を掛ける。



執事のアルフレッドがお茶の準備をする。

アルフレッドは私の信頼を置いている使用人の一人だ。

小さいころからの幼馴染でもあるため空気を読めるのかそこは定かではないが、さっさと部屋を出ていった。



紅茶のいい香りが部屋を充満する。

優雅にカップをとって口元に運ぶ嫁を見ながら昔を思い出す。







最初にサナに出会ったのはお姉さまのいる教室だった。

それまで存在は知っていてもあいさつ程度をするぐらいの関係だった。



彼女は私と同じ、お姉さまを尊敬する人だった。

最初はそこを気に入って婚約をしようと思った。



元々お姉さまに危害を加えるような醜い令嬢と結婚して死ぬまで永遠に一緒に暮らすという考えはなかった。

だから最初は「ちょうどいい」と思って婚約をしたはずだった。



彼女はお姉さまのことを目標とし、今も常に彼女のために動いている。

お姉さまに見てもらいがために努力を重ねた。



私も元々ヴェルディーン家の養子になる時に公爵に「絶対に学園では上位を取れ」と言われていたので勉学に励んだ。

お姉さまに追いつくためにも、努力を小さいころから重ねていたのであまり難しくはなかった。



ある日、学園の図書館で勉強をしている彼女を見つけた。



「勉強しているのですか?」



私は後ろからそう声をかけた。



彼女は驚いた顔でこちらを見る彼女と視線が重なる。



ーああ、綺麗だ。



私はその時そう思った。

なかなか見ないヘーゼルの瞳が図書館のガラス張りの天井から入る光で、光って見えてとても綺麗だったのだ。

透けるように白い肌に可愛らしい顔をした彼女はなぜここに私がいるのか、といったように首を傾げた。



そのときから彼女のことを気にするようになった。

いつの間にかに落ちていた。







横に座る彼女に微笑みかける。

「王城の仕事は楽しいですか?」



彼女はカップを戻して考えるような仕草をした後に言う。

「そうですね、まだわかりませんが、皆さん優しいのでうまくやっていけそうです。でもまた、産休をとらせていただかないといけませんね。」

彼女は大切そうに自身のお腹をさする。



まだ小さいお腹はきっと数か月後には大きくなっていることだろう。

「私が貴方の身体に変われたのならば、よかったのに...。」

と私は自分の頼りのなさを感じた。



男性は女性の痛みを共有できない。

去年、初めての息子が生まれた時にそう感じた。

彼女がどんなに痛みを訴えても私と痛みを共有することができなかった。



いつも辛い思いをするのは彼女で、私は彼女の代わりにはなれないことがなにより嫌だ。

もし自分が女だったなら、と何度思ったことか。



彼女は私の気持ちを汲み取ったのかこう言った。

「シェイナス、貴方は十分私に力をくれるじゃない。それだけで私はいいのよ。」



こんな私にそんなに優しい言葉をかけてくれる人がこの世に何人いるだろうか。

感極まった私は彼女の肩を抱く。



そして、いい雰囲気をぶち壊しにきた息子が急に部屋に入ってきた。

「かあしゃま、とうしゃま、僕と遊びましょ。」

純粋無垢なサナと同じヘーゼルの瞳がこちらを見つめている。



サナは私の肩を押し戻して笑顔を作る。

「そうね、エル。そうしましょうか。」



彼女はさっさと立ち上がって息子、サティエルドを抱き上げた。



「......」

私は数秒間無言で息子に圧を送ったが無駄だった。



息子、エルは私に向かって舌をだした。



あいつ、確信犯か....まだ....一歳児なのに、そんなに言葉をしゃべれるものなのか?...私の妻に手を出すなんて、いい度胸だ。



「サナ、私がエルを抱っこします。お腹に子供がいる貴方は無理はしてはいけません。」

ありったけのいろんな意味を込めた笑顔をエルに向ける。



彼女は仕方ないというように私にエルを差し出した。

「わかりました。落とさないように、お願いしますね。」



受け取った私は「庭でも散歩しようか。」と提案して庭に行くことになった。



先を歩く彼女をぼんやりと眺めているとまたエルが余計なことを言う。

「僕ね、将来おかあしゃまとね。けっこんするの!」

エルは笑いながら大声でそう口にした。



サナは笑いながら振り返ってこう言う。

「そうね、それもいいかもしれないわね。エルが大きくなったらお母様にプロポーズしてね。」



「うん!」

元気よく答えるエルに私はやさしく諭すように言う。



「エル、知っているかい?この国では親とその子供が結婚できないんだよ?」



「じゃあ、僕がホウをカエルからいいよ。」

あたりまえのように言う息子にさすがに驚いた。



1歳児がそんな言葉を知っているなんて...どこの誰が...?



後ろを向くとアルフレッドが後ろを向いて肩を揺らしていた。



....お前か。








今日のヴェルディーン家の庭には半ば呆れた顔をする妻と自分の執事を笑いながら睨んでいる夫、それになぜか楽しそうにしている息子のエルがいた。

もうそろそろ夏だ、日に日に日差しがだんだんと強くなっている。



どこからともなく香ってくるバラの匂いはもうここには住んでいない彼女を思わせた。

次回の投稿は明日の20時です。最終話まであと5日。明日は『Restart side ストーリー』の方も投稿しますので良ければそちらも読んでいただけると嬉しいです。

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