26.長い夢は終わりを告げる
私はまた森の前に立っていた。
今度は昔の私ではなく、今の私の姿だ。
また歌声が森の奥から聞こえてくる。
私はは何も迷わずに森の奥へと進んだ。
奥に行くほど歌声が近づいていく。
かなり奥まで歩くと突然開けた場所に出た。
大きな泉があり、そこだけを神秘的な光がさしている。
歌声の主と思われる女神さまのような人が泉の近くに座っていた。
彼女の傍には白い狼が寝転がっている。
彼女は私の存在に気付いたみたいで歌うのをやめてこちらを向く。
「あら、こんにちは。貴方は...アリシナちゃんね。」
全てわかるのだろうか、私の名前が私を見ただけで分かったようだ。
微笑みをたたえた彼女はまた口を開く。
「貴方何か迷っているのね?」
「そうみたいです。」
私にも迷っている理由がわからない。
だけれど、この森にたどり着いたということは迷っているのだろう。
「貴方は失った心をここに取りに来たのでしょう?」
こころ...?それはいったい何のことかしら。
「貴方、自分の名前は言える?」
「それは、アリシナ?ですよ。」
「ファミリーネームは?」
ファミリー?
「...分かりません。思い出せないんです。」
「貴方の名前はアリシナ・ヴェルディーン、ヴェルディーン公爵家の一人娘でしょう?」
彼女に言われてやっとその記憶が蘇ってくる。
「...そうですね。では、私は何をしにここに?」
「心...記憶を取り戻しに来たのでしょ?」
「記憶...もしかして、小さいころの?」
「そう、今から見せるものはあなたの昔の記憶よ。」
そういった彼女は泉に手を付けた。
すると泉が光りだす。
そして昔の私の記憶が映し出された。
それは懐かしい風景、私が3歳だった頃の話。
このころはよく家に引きこもってばっかりいて外の人とかかわろうとしなかった。
いつものようにバラ園の世話をしている私のもとに誰かが降り立った。
ブルーアッシュの髪の毛をなびかせて彼はそこに立っていた。
「やあ、私は君に加護を与えに来たんだ。」
私は彼の言っている意味が分からなかった。
彼は微笑みながら言う。
「今は分からなくても時期にわかるさ。」
加護が神様や精霊からもらえることは知っていたがなぜ加護を与えるのか分からなかった。
「なぜ、私に加護を?」
幼いころの私の声が庭に響く。
サアっと庭に風が吹き抜けた。
「それはね、君のーーーからだよ。」
重要なところだけ風の音で聞こえなかった。
ーその時は聞こえなかった。
彼は私の小さな手をとると何かの力を流した。
金色のこの世にはない力。
それが加護だった。
...思い出した、海をみて何か忘れている気がしたのは彼、神様のことだったのだ。
彼は私に加護を与えると翼を広げて一瞬にして消えた。
彼がここにいたことを証明するように白い羽が一本地面に落ちていた。
私は大切そうに手に乗せてその手を握った。
ああ、思い出した。
この羽は後で好きだった本『森の歌姫』に挟んで今もとってあることを。
すると突然空から声が聞こえた。
「アリシナ、どうか目を覚ましてくれ。伝えたいことがあるんだ。」
すぐに声の主は分かった、彼の声だ。
ずっと会いたかった彼、聞きたかった彼の声。
元の世界に戻りたい。
「帰りたい。」
思った時には口に出ていた。
泉の女神は微笑む。
「ええ、帰りなさい。あなたのことを大切にしてくれる人たちがいるところに。」
...ああ、やっぱり女神様は人の心が読めるのですね。
だんだんと視界が揺らいで何も見えなくなる。
私は私が神様に言われた私に加護を与えた理由を思い出す。
「それはね、君のことを彼女が気にしているからだよ。」
彼女とは誰のことだろうか。
私は王城の一室で目を覚ました。
本編の終了が近づいてまいりました。あと数話で本編は完結します。ここまで見ていただいた皆様、ありがとうございます。どうか、最後までお付き合いください。次回の投稿は明日の20時です。明日はsideストーリーのほうも20時に投稿されます。




