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鳥居の島  作者: 青竹煤
護役サナギ
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サナギをどうするか

ジリリリリン

ジリリリリン

ジリリリチン……


「ツガ君に言って、何になる。

私はあの二人を託されたと同じだ。

何とかしてやらねば」

 護役もりやくの朝は早いが、マサナリの朝は更に早い。

 早いというより、自然に目が覚める。

 セミが鳴く前に起きてしまったマサナリは護役の装束に身を包み、境内の見回りをして、散歩に来ていた妖怪に挨拶と少しの立ち話をして、鳥居を潜り、簡単な散歩をする。

 石段を下り、薄暗い空の下の真っ暗な社叢林しゃそうりんを通る。足元には魍魎もうりょうがいるが、気にせず進む。林を抜けると朝焼けの空が広がっている。今日も暑くなるだろう。


 しばらく歩くと、空から声が降ってきた。

 「護役長殿」

  華表かひょう諸島の本島である時鐘島ときがねじまは他の島より人間が多く、他の島からも仕事で人がやって来る。そのため騒がしいことを嫌う妖怪たちは、深夜や早朝に眠る街を歩くことを習慣にしてるため、この時間は妖怪に会う確率が高い。

 声に呼ばれて立ち止まれば、地面の小さな影が広がっていく。見上げれば身体から蔦を生やした紫色の鳥が下りてくるところだ。

 「ああ、おはよう」

 「なんと暢気な」

 鳥は形だけの呆れた声を漏らして地面に降り立つと、翼をくちばしの前にもっていって体を小さく揺らす。蔦も併せて楽しそうにさらさらと音を立てた。

 「見ていたぞ。あの二人、今度は二輪車を前に何やらしていたようだ」

 あの二人と言われて真っ先に頭に浮かぶのは、よその島から挨拶周りに来たサナギという新人護役と、その守護霊の千松のことだ。鳥の言うことから察するに、社叢林の中の駐輪場でも見たのだろう。そこには十台の古い自転車が収納されていた。

 島民の厚意で生活している護役たちには、何かを買うことがほとんどないし、稼ぐこともマサナリが禁じていた。自転車も、バスが使えない護役たちが自分の力で島のどこにでも行けるようにと自転車屋からもらってきた型落ち品で、いかにも前時代的なデザインのものから俗にいうママチャリまである。あれに何かされたら、たまったものではない!


 ただでさえ厳しく顰められた顔が、一層厳しくなる。それを見て、鳥はキィキィと鳴き声を漏らした。笑っているのだ。

 「発端はお前様だ。報いを受けるはお前様。事故は未然に防ぐがよかろう」

 先日、マサナリは二人を酷く怒らせた。それについて二人は許さないという意思表示として、マサナリに小さないたずらを仕掛けるようになってしまった。いくら叱っても二人には届くどころか、「本来なら、もっと痛めつけてやりたいくらいに怒っている。それを小さないたずらで気が済むまでやってやるんだからいいだろう」と返され、多少なりとも二人を傷つけてしまっただろう自覚があるマサナリはそれでもなお叱りつけた。そんな子供じみたことをするなと何度も言ったが、二人にはやはり通じておらず、それがさらにいたずらに拍車をかけるという悪循環に陥っていた。

 「周囲を巻き添えにするとは! 今回のことはすぐにでも止めさせなければ」

 マサナリは挨拶もそこそこに踵を返し、急ぎ足で神社に戻っていく。鳥は大きく笑うと、蔦の葉を落として飛び立っていってしまった。



 駐輪場には、赤い袴のサナギと赤黒い狼の千松が、水の入ったバケツと古びた自転車の間を行ったり来たりしていた。雑巾を持ち、自転車の表面をせっせと磨いている。側にはスズメと同じ大きさの妖怪、アキノヒが二人を監督するかのように、これから磨く自転車のハンドルの上でじっとしていた。

 「この自転車には、何も仕込まねえのか? ネジ一本外すとか」

 千松は自転車を磨きながら、月の自転車を磨いているサナギに声をかけると、まっとうな答えが返ってきた。

 「自転車ってケガすることも、させることもある危ないものだよ。何かするんだったら危険がない方向でやるよ。他の護役さんたちにはお世話になってるし、あの酷い人に仕返しするんだったら、いいことしてくれた人にはいいお返ししないと」

 「良い心がけだな」

 アキノヒは小さな首で何度も頷くが、その表情には諦めが混じっている。


 子供のようないたずらはよくない。不満があるなら、直接相手にぶつけるよう何度も忠告した。しかしその度に、サナギも千松も恐ろしい顔でアキノヒを睨んで言い返した。言ったところで、相手は完全にこちらの言うことを理解するのか。振り上げた拳の下ろすべき地点はどこか。

 すべて自分たちのことばかりで、相手のことを考えていない。百年を超える年月を修行に注ぎ込んできたアキノヒに、大人の対応はできても子供──文字通りの全力で人に理解してもらおうとする相手のかかわり方は、とうの昔に置いてきてしまった。アキノヒにできることはただ一つ。良くない方向へ進もうとする二人をあえて見守り、何かあった際に声をかけること。

 それがお目付け役としてできることなのだろう。

 アキノヒは木々の向こうの空を仰ぎ、自分にこの役目を頼み込んだツガに対して心の中で頭を下げてくちばしを閉じた。


 マサナリが早足で戻ってきたのはその直後。

 悪循環がまた始まるまで、もうすぐだ。

ジリリリリン

ジリリリリン

ガチャ


──はい、潜竜島せんりょうじま玲瓏れいろう神社。護役長ツガです。


──おはようございます。時鐘島ときがねじま禊月けいげつ神社のマサナリです。

朝早くからすまないね。あの二人についてなんだが。


──何か、やらかしましたか。あのラジオ放送から、千松が暴れるんじゃないかとヒヤヒヤしていまして。


──いや、今朝は早くに起きて、うちの自転車をきれいに磨いてくれたんだ。

やんちゃではあるが、悪い子たちじゃない。君に、それが言いたかったんだ。


──やんちゃというと?


──君が気にするほどのことはないよ。

今日、あの子たちについて学校に問い合わせようと思っているんだ。

聞いたところによると、勉強は教わったが学校に行ったことがないらしい。

預かっている子供たちと仲がいいようだから、許可が下りたら学校に通わせてみようと思う。


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