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鳥居の島  作者: 青竹煤
護役サナギ
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宣戦布告

 ジリリリリン

 ジリリリリン

 ガチャ


 「はい、時鐘島ときがねじま禊月けいげつ神社。護役長のマサナリです」


 「お~や、マサ坊かィ。アタシですよ、鶯舌島おうぜつじま閑雅かんが神社のヤナイですよぅ」


 「……」


 「お前さん、やらかしちまったねェ。ツガの坊やには、きちんと謝ったかィ?」


 「挨拶回りは本島が先だ。例外はない!

 私はこの島の護役もりやくとして、この島で生まれ育った人間として、この島を第一に考え守っていかねばならん。島民の安心を得るためなら、何だってする!」


 「ハッ! 本島の威厳だなんだと、よくもまぁ大きく言えたもんだよ。

特殊とはいえ、守護霊憑きの挨拶回りならイゲンなんて無視して、まずうちに来させりゃよかったんだ。それならあんなに怒らすことも、傷つけることもなかったんじゃないのかねェ?

 まぁ、アタシはまだその新人がどんなか知らないわけだけどね?

 でも、うちにもいるもんだから。お前さんよりゃあちょっとくらい、うまくできる自信はあったんだが」


 「私を笑いたいだけだろう!」


 「ひゃっはっはっは!」


 ガチャン!



 「下手な嘘を吐くより前に、やれることはあっただろうにねェ。

 本当に、マサ坊はバカだねェ。ひっひっひ……」

 「えーーーい!!!!」


 セミの声が反響する境内で。

 夏の日差しの照り返しのない参道で。

 よその島から挨拶に来た新しい護役の掛け声を合図に、その場にいたすべての人がスローモーションを見ているように感じた。それは当のマサナリも同じで、信じられずその場に立ち尽くしてしまった。

 まさか、水入りのバケツをこちらに向けて走り寄ってくるとは思ってもみなかったのだ──。


 「あっはっはっはっは!」

 セミの爆笑に乗せるように、大きな笑い声が一つ。つられて何人かの護役もりやくが笑い出し、現実に引き戻された参拝客は大半がそそくさと神社の鳥居を潜って行ってしまった。

 水をかけた張本人は勢い余って尻もちをつき、マサナリよりも自分に多く水がかかってしまったが生意気な笑みを湛えていた。

 「な、な、な……」

 何をする! とマサナリが怒鳴る前に、今度は頭から水がかけられた。振り返れば、自分よりも背の高い狼の姿をした妖怪が、空のバケツをひっくり返した持ったまま、大きな舌を出している。

 「お前たち、何をする! ツガ君に報告するぞ!」

 マサナリは丸い顔を怒りで赤くして、サナギと千松を交互に見て怒鳴るが二人には堪えていない様子で同時に親指を立てていた。

 「暑かったから! モリヤクチョーさん涼しいかなーと思って!」

 悪意のある言い方に、マサナリは起き上がっていないサナギに歩み寄り、手を振り上げ……千松の赤黒い手に止められた。


 「あのさぁ、体が痛えのと心が痛えの、どっちがダメージでかいんだろな?」

 千松の怒りに満ちた黄色い目がマサナリを貫く。掴まれた手首から先が、千松の体と同じ色になりつつある。

 「なぁ!?」

 答えろと言わんばかりに、千松はドスを利かせた声を上げる。境内の空気が震えた。セミの爆笑はそのままだが、人間やそこにいた妖怪たちは息を吞んだ。

 ややあって、何体か境内にいた黒い塊──魍魎もうりょうがぴょんぴょんと跳ね始めると妖怪たちがくすくすと笑い出した。サナギ以外の護役たちは拝殿に目をやって頷き、ことを見守る体勢に入る。

 マサナリは恐れも後悔もない目で千松を見つめ返す。千松は舌打ちもせず乱暴に手を放した。


 「殺さねえ約束を、サナギとしてる。いいか、そこのサナギと! 殺さねえ約束をしたんだ!」

朝、マサナリがこの島民たちに言ったつまらない嘘は、この二人に強く残っている。深く傷ついた。許すつもりはない。それがサナギと千松の出した答えだ。


 これは宣戦布告だ。

 この島にいる間、世話にはなるが許さないという意思表示をずっとしていくと、二人は決めたのだ。


 夕方、午後も四時を過ぎれば参拝の時間が終わりになり、護役たちは掃除をして拝殿も社務所も閉める。ほぼ同時に子供たちの宿泊施設にボランティアの人たちが来て、夕食を作ってくれる。

 朝の発表の後に遅刻として学校に行ってきたユウトを迎えたのは、形のない魍魎が敷き詰められて見えなくなってしまった床だ。あの狼の守護霊千松と新人護役サナギがやったと聞き、感心すると同時に吹き出してしまった。

 「面白いことすんじゃん」

 「面白いのはいいけど、全館こうだぞ。お前の部屋もやられてるから、早く着替えてこい」

 慌ただしく箒で魍魎を玄関に掃き出している先輩護役の言葉にユウトはマジで!? と素っ頓狂な声を出して、魍魎を踏むのも構わず部屋に駆け込んでいった。

 「どっからこんなに集めてきたんだよ! くそー!」

ユウトの叫びは、残念ながら犯人に届いてはいなかった。


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