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鳥居の島  作者: 青竹煤
護役サナギ
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禊月神社

 夏の朝は早もう空に明るい青が広がっており、洗ったような白い雲が重なり薄く輪郭を浮かべていて、既に暖かい。いや、既に暑いという温度になりつつある。


 迎えの護役もりやくに案内され、サナギ、千松、アキノヒの三人は定期船の待合所から禊月けいげつ神社へと歩いていく。

 本島を最後にした方がいいのではないかというサナギの意見は、何をおいてもこの島々の代表である本島を優先すべきだとお目付け役のアキノヒに一蹴されてしまった。それが済めばどう回ってもいいと言うが、どうしてもこの島を最後にしたかったサナギは寄り道を挟みながら苦い顔で嫌いな島を歩いていく。潜竜島せんりょうじまにはない賑やかさはサナギの目を引くのに十分な魅力を放っており、すれ違う人はやはり千松を見て怯えたり逃げたりと様々だ。


 神社に行きたくない思いがサナギの足を重くし、それに気づいた千松はサナギの手を握って並んで歩く。その間もサナギは目に入った店に片端から興味を示したために時間を食い、目付け役の雀の妖怪に叱られては寄り道をしようとしてまた叱られるという流れを経て、ついに神社の階段の前に辿り着いてしまった。


 「千松くんが鳥居嫌いっていうの、ちょっとわかった気がする。ここ、好きじゃない」

 サナギがこぼすと、千松は人差し指でサナギの側頭部を一度だけ軽く突いた。

 「俺は鳥居が嫌いなんじゃねえ。神が嫌いなんだ」

 サナギは口をとがらせ、案内をしてくれた護役の苦笑いを買った。

 自分が仕えている土地と守り神を好く言われないのはいい気がしない。しかしこの二人に仲間が何をしたかを考えれば、それも致し方ないのだろう。


 手入れが行き届いた石造りの階段を仕方なく上りきると、立派な赤い鳥居の前にサナギたちの前に二十人程の護役たちが炎天下の空の下で迎え撃つかのように横に並んでいたので面食らってしまった。

 三人を見て、皆一斉に「ようこそいらっしゃいました!」と声を上げので、サナギは数センチ跳び上がって、千松の着物の袖を掴む。

 「千松くん、逃げよう」

 「バカ言うな。挨拶してちょっと手伝いすりゃあ、ここから出られるんだろ」

 怯えるサナギに、千松は心底バカにしたような声で目の前の男たちを見渡す。中に最年少の──この島に初めて来たときに、千松に食って掛かった護役を見つけ、けッと息を吐いた。向こうも歓迎しているとは言い難い表情で、やるなら来いと言ったところだろう。


 「潜竜島せんりょうじまからはるばる本島まで、よくいらした。ようこそ、時鐘島ときがねじまへ」

 ひりついた空気を抑えつけるかのように、護役たちの中心にいた丸顔の男が前に出て、サナギたちに軽く頭を下げた。

 「暑かったでしょう。中に入って話を伺います。どうぞ、こちらへ」

 代表して挨拶をしたということは、この人が護役長なのだろう。

 もう逃げることもできないと観念して、サナギは案内されるがままに立派な拝殿に連れていかれた。


 禊月神社の拝殿は潜竜島の玲瓏れいろう神社と全く違い、ずっと大きくて立派で、静かな色に飾られていた。三十人は軽く入れるほどに広い拝殿の中は、走ったら気持ちがよさそうだ。

 「この時鐘島の守り神、禊月けいげつヅナ様でございます」

 護役長が指すその木像は、最初ただの木の塊に見えた。電灯が点いておらず、開け放った扉から差し込む朝の陽をよけて横から近づいてよくよく見れば、眠っている熊だということがわかった。それも自分の所のご神体と違い毛並みも彫られており、寝息を立てているのが見えるような気さえする緻密な出来だ。


 「熊」

 眠りを妨げないように、サナギは静かな拝殿の中でつぶやく。

 「熊だな」

 千松は扉の外の喧騒を引っ張ってくるかのようにきっぱりと言い放ってサナギを驚かせ、丸い顔の護役長は静かに、しかしはっきりと「いかにも、熊です」と答えた。

 「ヒ様とスイ様のご神体は、あんなに古いのに」

 この眠る熊の木像と自分の所のものを比べ、サナギはこぼした。目の前のものは年数が経って落ち着いた色になっているという印象だが、これを見ていると潜竜島のものは落ち着いた色を通り越して古臭いと思わされる。それを言おうと護役長に口を開きかけ、目に映った異形の存在に口を閉ざした。


 身体は人間より二回りほど大きく、顔は人間と同じかと思いきや鼻が黒い。着物を着てはいるが、人間の上半身に比べて袖から伸びる手は黒い毛に覆われ、鋭い爪が四本覗いている。下半身が異常なほど太く、足も手と同様に黒い毛──熊のものだろう──がびっしりと生えている。

 立ち尽くすサナギに護役長は咳ばらいをひとつ響かせ、はっきりと声を上げた。


 「時鐘島の守り神、禊月ヅナ様でございます」



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