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鳥居の島  作者: 青竹煤
護役サナギ
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護役の家

 この世界の妖怪の中には、神様になることを目指す者がいる。

 何をしたら神様になれるか?

 それは自分で考えるしかない。

 そして、自分で考えた修行をする。


 それは旅をして世の中を見ることであったり、誰かを助けることであったり、自分の持つ力を極めようとしたり、己に問いかけた何でもない疑問に自ら答えるためにそれを探したり……実在する神様に話を聞き、自分で考えることであったりと、修行といっても様々だ。


 サナギが熱中症で寝込んでいた一方別の部屋で、犬に弄ばれて目を回していた妖怪も、その修行中の身であった。


 ──なんたる不覚!

 自分のはるか高くに広がる茶色い木目の天井を睨みつける雀の姿をした妖怪は、自分の不甲斐なさに足を畳に強く打ちつけその音にハッとして怒りをこらえようとする。

 もう動物にいじられることに慣れ、そのいなし方も心得ていたはずだ。それでも今回犬に咥えて振り回されたのは、旅の疲労による注意不足。つまり油断していたことに他ならない。


 この妖怪は今までにたくさんの神様と話をしてきたし、自分に活かせそうなこと、理想に沿ったことを実践する努力をしてきた。おかげでつまらないことに腹を立てることもなくなり、理不尽ないざこざに巻き込まれても、こういうこともあると納得できる心も感じられるようになった。


 しかし今回は酷い。修行で少しは目指すものに近づけたと思っていたのに、疲労を押し込めることもできないとは。己の未熟さに悔しさを禁じ得ない。

 小さく黒いくちばしを合わせたまま、雀の妖怪は心を落ち着けようと目を閉じて大きく息を吸って吐く。


 気は治まらないが、じっとしていてはいけない。ここは少しでもいいから動くこと。抑えられない怒りは、少しでも行動することで分散させるという方法をとることにする。

 起き上がってこの部屋の中を見回す。出入り口である襖は自分には壁と同じく目の前に広がっており山のように大きく、反対側の壁には高い位置に窓だけしかない。実際のスズメと同じ大きさの自分だからわかるが、この空間は人間ほどの大きさならば少々狭く感じることだろう。自分が寝かされていた枕元には被ってきた笠と、今までの旅で重要だと思ったことを書き込んできた分厚い帳面が揃えてあり、その横に一枚の紙が置いてあった。雀は人間が書いたであろうそれに乗り、書かれた文字を追っていく。簡単な挨拶の後に、この家の見取り図が描かれていた。


 「『この部屋を出て左側に見える襖が護役長もりやくちょうの部屋になります』……ふむ!」

 護役長の部屋がすぐ近くにある。つまり気を失っている間に何らかの方法でこの潜竜せんりょう島のあの危ない鳥居を抜けて、護役の家に来たということだ。自分がその時のことを覚えていないことは残念であるが、しかし目的は達せられるだろう。重要であるべきは自分の足で鳥居を潜ることではなく、この島の守り神の話を聞くことなのである。

 雀は重々しく頷くと、窓の外を見た。もう夕方を過ぎ、黄昏時の空だ。

 ──この時間に拝殿へ伺うのはよろしくない。あの書面通り、まずは護役に会うのがいいだろう。


 護役という言葉は、この華表かひょう諸島に来る前に聞いたことがある。守り神様の世話役だ。そして、よその土地の巫女や宮司のような役割を持つという。呼び方が違うならば明確な違いがあるということだろうが、それは気にしなくていいことだろう。今は護役に挨拶をしに行かなければ。


 雀が襖をそっと開けると、ふわりといい香りが漂ってきた。今までの経験から、食事時なのだとわかる。

 食事時を邪魔するのは、気を遣わせてしまうから良いことではない。


 しかし、もし自分の分を用意されていたらどうだろうか。この時間が終わり、冷めたものを口にするか?それでもいいが、温かいものをと用意してくれたその心を無下にするのか?

 ひょっこりと頭だけを襖の隙間から出して様子を窺うと、静かに食事が始まっているようで、廊下の左の突き当り部屋から食器の音が聞こえてくる。

 今、出て行ったらどうだろう。やはり気を遣わせてしまうだろうか。


 行くべきか待つべきか。決められずにいると、ガタンと椅子を乱暴に引く音が雀の耳を襲った。雀の目には、黒に近い赤の足が見える。それがどんどん足音を立てて近づいてきて、山のように大きな赤黒い身体が視界を覆いそうになる。慌てて襖を閉め、背中で意味もなく襖に寄りかかる。長い旅での間でいざという時にこそ落ち着く心を得たというのに、呼吸が乱れ、喉の奥で鼓動を感じた。

 ガラリと襖が乱暴に開かれ、その気持ちの悪い色の山が部屋に入ってきた。電灯の明かりを遮る黒い山は、雀を恐怖という陰で覆い身動きを封じ、何とか言葉を絞り出そうにもそのすべてが怯えという感情のせいで震えてしまう。

 「私を喰うつもりか」

 答えはなく、はるか上から手が下りてくる。

 雀は悲鳴を上げた。

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