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現世でも異世界でも捨てられた俺、孤児たちを見捨てられない――気づけば孤児院が町を動かす商会になってた件  作者: 薬屋 翼
Prologue

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01 第二の人生

「出ていけ」

 三度目だった。


 森の奥にある里から、人の住む街へ続く平原へ。

 少年は()()追い出される


(またか)


 荷物は少ない。

 いつものことだ。


 寧ろこれまでの人生で一番潤沢ですらあった。


 肩にかけた鞄。

 中には数日分の衣類、携帯食料、簡易テント。複数の本。多少の路銀。

 腰には短刀、背には弓と矢筒。

 首には深緑の石がさりげなく埋め込まれた、木彫りのネックレス。



 少年は先ほどまで住んでいた森を眺めながら、これまでの人生を振り返る。

 一度目は服と靴のみで捨てられ、

 二度目はボロ布を巻かれた簀巻き状態で捨てられた。

 それと比べれば、今回は破格の待遇だ。


 森の境界線まで送ってくれた兵士に頭を下げる。

「大変お世話になりました、今迄ありがとうございました」

「ああ、精々短い余生を後悔なく過ごすんだな」


 彼ら基準では大抵の生物は短い余生になってしまう。

 兵士の言葉を背中で受けながら、少年は心の中で呟いた。


 何事もなければ、少年はあと二半世紀は生きられるはずだ。

 まだ齢10歳なのだから。

 彼らからしたら、長生きでも一世紀しか生きられない人間種(ヒューマン)の人生は短すぎるのだろう。


 地平線の彼方に見える街を目指し、少年は平原を歩き出す。

 背後の深い森に戻れることはもうないだろう。

 これからは本当の意味で一人で生きていかねばならないからだ。


(まずは街で冒険者として日銭を稼ぎながら、人間(ヒューマン)社会を知らないとなあ。

 あの人達は「ヒューマンは愚か」の一言で、マトモなことは教えてくれなかったし……)


 方針は決まった。

 やれることが少ないと悩む必要がなくて良い。

 前途多難ではあるが、目的地が定まっているだけマシだろう。

 見渡す限り青々しい原っぱが広がっている平原を進みながら、少年は思った。




                  ☆



 少年が街に辿り着いたのは、兵士と別れてから3日後のことだった。


 見通しが甘かった。


 少年の見立てでは、地平線の彼方に見えた街に一日でもあれば着く予定だった。

 しかしその見通しは()()()()()()()()()の概算である。

 少年は文字通り幼い子どもであり、その歩幅は大人の半分以下だ。

 おまけに、ここは魔物がひしめく世界。

 真っ直ぐ進めばいい所を魔物を回避するために遠回りし、魔物や野生の動物達に見つからないために見晴らしの良い道を進まず森に潜みながら進み、日が傾き始めたらテントの設営、水と火の確保に時間を取られる。

 一日を終えてみたら想定の3分の1しか進めなかったという顛末だ。

 まさに前途多難。


 少年は昔から見通しが甘い。

 一日あればアレもコレもソレも出来ると計画を立てるが、大抵一つしか完遂できない。

 人は一つずつしかできない生き物なのに。


 少年は何度目かわからない反省を胸に、二人の門兵に挨拶をする。

「はじめまして、田舎から出てきたんですが通行料は幾らですか?」

 門を左右に挟んだ門兵は、顔を合わせながら少年に尋ねる

「田舎からって……ぼうず、親は?」

「もう成人したので親離れしました」

 二人は困ったような残念そうな表情をして、門に手に掛ける。

「通行料は銀貨1枚。名前と滞在目的を」

(げっ、聞いてた通行料の倍じゃないか、これだから長命種は……)

Dディーです、この街に働きにきました」

「ようこそディー、ブールストリームの街へ」


 銀貨一枚の出費は想定外だったが、どこの田舎出身か詮索されなかったことに安堵する。

 正直に彼らの里の名前を言えば驚かれるし、嘘をつくにもディーは人間種(ヒューマン)の村や街の名前なんて一つも知らなかった。

 いや、知りたかったのだ。せめて訪れる予定の街の名前くらいは。

 しかし、彼ら森人から言わせれば「人里などすぐ滅び、栄えてもすぐ名前が変わる。そんなものを一々覚えるのは時間の無駄ではないか?」と言われ、納得せざるを得なかった。

 森人と人間種(ヒューマン)の時間感覚の差は、そのまま貨幣価値にも反映されていた。

 彼らが最後に訪れた際の通行料が小銀貨5枚だった時代から、倍の銀貨1枚のインフレした時代へと。


 ディーはまたしても想定の甘さを実感する。

 単純に倍の資金が必要だとすると、一ヶ月分の貯蓄は半分になったのだから。

 前途多難再びである。



 溜息を吐きながら、宿を探す。

 初日は10年ぶりの人里を観光しようと思っていたが、そんな浮かれた気分ではいられない。

 早めに拠点を定めなければ、野宿になるのではと不安に駆られる。


 キョロキョロと頭を右に左に振りながら、宿のシンボルであるベッドマークを探す。

 その間にも何度も大の大人とすれ違う。

 背丈が大人の半分ほどしかないディーにとっては、大木が歩いてくるようなもの。

 ブールストリームは小さな街ではないが、大都会と呼べるほど大きな街ではない。

 それでもこの人混みと、ぶつからないように人を避ける無駄な動きに疲弊する。

 ようやく目的地を見つけ、人の波から外れることができた。


 運が良い、見つけた宿は安く当たりな気がする。

 案内された部屋は狭いが藁のベッドに虫は湧いてない。

 近くに井戸もあるから水の心配もない。

 食事も追加料金で小銀貨5枚払えば、朝と夜の二食分つく。

 一食分から取らないのも頭が良い。料理は多く作るよりも少なく作るほうが手間だからだ。それに二食分で小銀貨5枚なら安く感じお得感がある。

 同年代の小さな看板娘に、お金はあるのかと怪しまれた点も宿屋の娘なら当然だろう。

 なんせヒューマンの10歳で成人というのは、あくまで10歳から雇用を認めるという決まりだからだ。

 大抵の場合、親の仕事を真面目に手伝い始めるのが10歳。

 その程度の認識であるため、一人で宿泊する少年を怪しむのは至極当然。


 ディーは一週間分の費用を看板娘に払い、質問する。

冒険者(ハンター)ギルドってどこにありますか?今日中に登録したいんですが」

「ハンター? あんた、ゴホンッお客様が、ですか?」

「はい、簡単な採取や討伐なら経験あるので」

「へえー、意外ー。ゴブリンにも負けそうな見た目なのに」

 ディーは背丈が看板娘より低い。男のプライドが少し揺れる。

「これから成長期なんです」

「あら、わたしは現在進行系で成長期よ。お姉さんでゴメンなさ〜い」

「悪いと思ってないでしょお姉さん」

 男はいつの時代も身長という小さなプライドを守ろうとする。

 咄嗟に砕けた口調になってしまう。


 しばらく看板娘と談笑を交わしたあと、宿を出る。

「ハンターギルドは十分くらい歩いたところよ、ガンバんなさいよ!」



                  ☆



 看板娘の叱咤の意味を痛感する。

 お目当てのハンターギルドに入った途端、一斉に大勢の目線がこちらを向く。

「ガキじゃねえか」「親はどうした」「ここは託児所じゃねえぞ」「死にてえのか」

 苛立ちと心配の声音。


 ざわざわと好き勝手に噂されながら、受付の元に向かう。

「ハンター登録お願いします。里では簡単な採取や討伐経験があります」

「ハンター登録ですね、かしこまりました。年齢はおいつくつでしょうか」

「ちょうど成人になりました、問題ないですよね?」

 受付は少年を上から心配そうに見下ろしながらも、キッパリと告げる。

「問題はありませんが、お勧めできかねます。成人を迎えたのであれば親御さんの手伝いから始めるのが」

「親はいません。ハンターなら成人でも働けると聞き、この街に三日かけて来ました」

「そうですよね……」

 受付は最初からわかっていたように落胆すると、ハンターについて説明をしてくれた。


 ハンターはランク毎に受ける依頼が決まっている。

 ディーは一番下からのスタート。

 依頼は雑用と、近場の森での採取&狩猟。そしてモンスター討伐。

 そして死亡率が一番高いのが、この一番下のランクである。

 言わずもがなハンター初心者に狩猟やモンスター討伐が危険なのは想像がつくが、雑用や採取でも油断するなと警告された。なぜなら依頼が簡単なものでも、それ以外のトラブルや事件に巻き込まれ死亡するケースがあるためだ。

 依頼も、依頼者も必ず善行なものとは限らない。

 ハンターは成人さえしていれば誰でも依頼を受けられる。

 裏を返せば、成人さえしていれば誰でも依頼を出せる。裏に何を考えていようともだ。


 そして、そんな事情があったとしても働かなければ食えないのだから依頼を受けるしかない。

「この野犬討伐の依頼を受けます。まだここの地理に疎いので、依頼元の場所を教えてください」


 その依頼は、不思議と報酬が良かった。

貨幣価値一覧(日本価格:ブールストリーム価格)

 

10円:銅貨一枚 最低貨幣

100円:小銀貨一枚

1,000円:銀貨一枚

10,000円:小金貨一枚(男性平均月収:二枚)

100,000円:金貨一枚

1,000,000円:聖金貨一枚

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