妃教育の始まり
後宮への引越しが完了し、私はベルとともに後宮へ入った。
どこもかしこも豪華で華やかな作りになっている。
だが、すれ違う女官たちには冷たく厳しい視線を向けられる。
(視線が冷たい。……味方ではない、ということね)
ローザリア嬢の一団と出くわす。
女官たちは既にここの主であるかのように付き従っていた。
——視線すら、彼女の許可を得て動いているかのように。
「リオラルーシュ様ごきげんよう。住み心地はいかがかしら?」
「ローザリア様ごきげんよう。みなさまに良くしていただいてありがたいことですわ。」
(人数差がありすぎる。無難にやり過ごすべきだ。)
「これから教官様の所へ向かう予定ですの。みなさまご一緒にいかがかしら。」
ふと見たらセリーヌ嬢もいる。こちらを観察していたのだろうか?
「ありがとう存じます。わたくしもご一緒させてくださいませ。」
「わたくしも向かうところでした。ともにまいらせていただきます。」
3人で教官の元へ向かうこととなった。
「失礼いたします。」
その部屋へ入ると様々な教材と思われるものが沢山あった。
それぞれの席へと案内される。
机の上には教本と思われるものが山となっていた。
とても興味深く、つい数ページ捲ってしまった。
「こちらはこれから学んでいく教本となります。本日は貴女方の実力を見るため使いません。無闇に触らぬように。淑女としてはしたないですよ。」
……怒られてしまった。教本の整理はベルに任せることにした。
「本日は社交を通して貴女方の実力を測ります。国内の有力貴族との社交は王妃として避けて通ることは出来ません。陛下の婚約者候補として有力貴族と話すことになった時の対応を見させていただきます。」
確かに王妃として重要だ。まずはローザリア嬢からスタートした。
「其方はローザリア嬢ではないか?」
「本日はお目に叶う栄を賜り恐悦に存じます。スファレライト大公が娘ローザリアにございます。」
「やはりそうであったか。其方の活躍我が耳にも届いておるぞ。」
「光栄に存じます。陛下をお支えする立場として、諸家の教えを大切に学ばせて頂いております。」
「素晴らしい考えだ。今後の活躍も期待しているぞ。」
「長く王家に仕えた皆様のご期待に添えるよう、一層精進して参ります。」
ローザリア嬢の試験が終わる。
「さすがローザリア様ですね。素晴らしいです。」
教官も満足そうだ。
続いてセリーヌ嬢の番になった。
「其方はセリーヌ嬢ではないか?」
「お初にお目にかかります。アベンチュリン侯爵が嫡女セリーヌと申します。」
「やはりそうであったか。其方の活躍我が耳にも届いておるぞ。」
「まだ学ぶ事の多い身ですが、皆様のお力をお借りしながら努めてまいります。」
「素晴らしい考えだ。今後の活躍も期待しているぞ。」
「それぞれの意見を伺いながら最善を選びたく思います。」
セリーヌ嬢の試験が終わる。
「年齢を考えれば良くできているほうでしょう。これからも精進するように。」
教官は静かに見極めているようだ。
そして私の番になった。
「其方はリオラルーシュ嬢ではないか?」
「初めまして。ラピスラズリ家のリオラルーシュともうします。」
「やはりそうであったか。其方の活躍我が耳にも届いておるぞ。」
「まだ至らぬ身ではございますが……
陛下が少しでも心安らげるよう、お側にいられたらと……」
「素晴らしい考えだ。今後の活躍も期待しているぞ。」
「ありがとうございます。たくさんのことを教えていただけたら嬉しいです。」
私の試験が終わる。
「心構えは悪くないでしょう。……ですが、主体性に欠けますね。」
教官は微妙な顔だ。
「ローザリア様は統率の資質をお持ちです。
セリーヌ様は調整の才がある。
——ですが、リオラルーシュ様は……」
「何者にもなりきれておりませんね」
(何に対して従順なのか……それによって評価も変わっていそうだ。)
「貴女方の実力は概ね分かりました。
次回は古き言葉について学んでまいりましょう。」
古語の教本と思われるものをちらりと見る。
なんだかとても懐かしい文字だ。これは……
(日本語……?)




