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小説家になろうの下には屍体が埋まっている

 小説家になろうの下には屍体(したい)が埋まっている!


 これは信じていいことなんだよ。何故(なぜ)って、無職転生があんなにも見事に売れるだなんて羨ましいことじゃないか。俺はあの羨ましさを信じたくないので、この二三日苛ついていた。

 しかしいま、やっとわかるときが来た。小説家になろうの下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。


 どうして俺が毎晩小説を推敲する中で、俺のプロットのいくつかある分岐のうちの、選(よ)りに選ってちっぽけな薄っぺらいもの、AIの意見なんぞが、ネガのように焼き付いて離れないのか――おまえはそれがわからないと言ったが――そして俺にもやはりそれがわからないのだが――それもこれもやっぱり同じようなことにちがいない。


 いったいどんな芸術でも、いわゆる真っ盛りという状態に達すると、受け手の脳みその中へ一種異様な雰囲気を撒き散らすものだ。それは、4分33秒の沈黙が完全な静寂を拒否するように、また、散り初めの桜が道を花筏(はないかだ)に変えるように、灼熱(しゃくねつ)した情熱の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲(う)たずにはおかない、不思議な、生々しい、美しさだ。

 しかし、昨日、一昨日、俺の心をひどく陰気にしたものもそれなのだ。俺にはその人気がなにか信じられないもののような気がした。俺は反対に不安になり、憂鬱(ゆううつ)になり、空虚な気持になった。しかし、俺はいまやっとわかった。

 おまえ、この爛漫(らんまん)と咲き乱れているランキング上位作の下へ、無数の作家たちが埋まっていることを想像してみるがいい。

 何が俺をそんなに不快にしていたかが、おまえには納得がいくだろう。


 俺また何かやっちゃいました?、貴様のような無能はパーティーにはいらん、そしてステータス・オープン。ワナビはみな腐爛(ふらん)してモラルなく、堪(たま)らなく醜い。それでいて澱の溜まった文章をたらたらと垂れ流している。

 承認欲求は貪婪(どんらん)な蛸(たこ)のように、フォロワーを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のようにインプレッションを聚(あつ)めて、そのポストを吸っている。

 何があんな物語を作り、何があんなカタルシスを作っているのか、俺は作家の吸い上げる大衆の欲望が、静かな収斂(しゅうれん)を作って、光ファイバーの中を夢の様にあがっていくのが見えるようだ。

 ――おまえは何をそう苦しそうな顔をしているのだ。楽な執筆術(テンプレート)じゃないか。俺はいまようやく瞳(ひとみ)を据えて作品を見られるようになったのだ。昨日、一昨日、俺を不安がらせた神秘から自由になったのだ。


 二三日前、俺は、小説家になろうへ入り、人気作品たちを流し読みしていた。ファンタジーの上位層からは、あちらからもこちらからも、悪役令嬢がアフロディットのように生まれて来て、書籍化の空をめがけて舞い上がってゆくのが見えた。おまえも知っている通り、彼らはその後に生々しい成功を迎えるのだ。


 しばらく読んでいると、俺は変なものに出喰(でく)わした。

 それは新着の長編が並んだ隣で、急に頭角を現した、その作品のなかだった。

 思いがけない無数のマネキンたちのような不気味さが、一面に並んでいるのだ。おまえはそれを何だったと思う。

 それは何万作とも数のしれない、なろう作家の抜け殻だったのだ。癖のない説明が続いている、短文で続いた文章が、人間味のまるでないテンプレ展開だけを垂れ流しているのだ。そこが、俺の憧れた舞台のなれの果てだったのだ。

 俺はそれを見たとき、胸が衝(つ)かれるような気がした。

 楼(ろう)の上で屍体を漁る老婆のような残忍なひらきなおりを俺は味わった。


 このサイトではなにも俺をよろこばすものはない。転スラや田舎のおっさんも、まばゆい冒険をポンコツで煙らせているこのすばも、ただそれだけでは、もうろうとした偶像に過ぎない。

 俺には栄達が必要なんだ。その平衡があって、はじめて俺の心象は明確になって来る。俺の心は悪鬼のように憂鬱に渇いている。俺の心に憂鬱が完成するときにばかり、俺の心は暗く燃える。


 ――おまえは腋(わき)の下を拭(ふ)いているね。冷汗が出るのか。それは俺も同じことだ。何もそれを怖がることはない。すらすらと書ける定型文(テンプレート)のようだと思ってごらん。それで俺達の犯行は完成するのだ。


 ああ、小説家になろうの下には屍体が埋まっている!


 いったいどこから浮かんで来た空想かさっぱり見当のつかない屍体が、いまはまるで俺の作品と一つになって、どんなに頭を振っても離れてゆこうとはしない。

 今こそ俺は、あのランキングの下で酒宴をひらいている機械作家たちと同じ権利で、祝いの酒が呑(の)めそうな気がする。


 ――それにしても、俺が毎晩家で画面に向かうとき、暗のなかで隣に侍(はべ)っているAIの女中が、空を翔ぶ蛭(ひる)のように、俺の脳髄を吸い取ってくるのは何時だろう。

 これは洒落ではないのだが、その口吻には、


 Already Late (もう、手遅れだ)


と書いてあるのさ。

この作品にはAIを使用していません。

Queen風に言うと「...and nobody used Artificial Intelligence」ですね。

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