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9.兄国王Side

『私、大人になったら大恋愛して、大好きな人と結婚するのよ!』


 かわいらしい夢だ。

 もっとも、それを言ったのが十三歳になる妹(ユリア)でなければの話だが。


『ユリア、急にどうしたの?』


 ユリアの突拍子のない宣言に、カロリーネは理由を聞いた。


『これ! これを読んでみて、お姉さま』


 そうして差し出されたのは一冊の本。

 なんでも今、流行りの恋愛小説らしい。

 身分違いの男女が惹かれ合い、恋に落ち、結婚する話だ。

 非現実だ。

 通常では起こりえないことだ。


『王女はね、最後は優しい森の狩人と結ばれるの! 素敵よね!』


 全然。

 何をもって「素敵」だと評価しているのかが分からない。

 架空の物語に難癖をつけるのはアレだが……。愚かな……、ああ、この場合、小説そのものではなく、ユリアが、という意味だ。

 常日頃から王女らしからぬ振る舞いの多いユリアではある。

 小説に影響を受けて、こんなことを言っているのだって理解している。

 しかし、だ。

 脳みそが腐っているのか、と聞きたくなる。

 同時に、これでは国外の婚姻など不可能だとも理解できた。

 王族の結婚など、所詮は政略だ。

 恋愛結婚など無理に決まっているだろうに……。

 まあ、その政略結婚もユリアの場合は難しそうだ。

 王妃はまず無理だろう。他の王族の妃……無理だな。我が国の恥を他国に晒すようなものだ。うん、駄目だな。国辱だ。やはり、我が国の恥は、我が国で囲っておく必要がある。


 そう思っていた矢先の出来事だった。

 フランツ皇帝との結婚は——


 まさか、皇帝がユリアに一目ぼれするとは……。

 ユリアは「愛されて結婚することこそ正しい」との思いがある。

 見た目だけは超一流だ。

 皇帝が恋に落ちたのだって、あり得ることだ。

 そう、自分に言い聞かせた。

 私なら世界が滅びようと、ユリアのような女性と結ばれるのは御免だ。

 あんなのと結婚などゾッとする。

 だがまぁ、人の好みはそれぞれだ。

 だから、私は否定はしない。


 婚姻後、当たり前とはいえ、皇后になったユリア。

 帝国側は大変だろうな、と他人事のように思っていた。

 実際、他人事だ。

 苦情の手紙は山のように届いたが、念押ししての婚姻だ。

 我が国はきちんと「ユリア第二王女に帝国の皇后は務まらない」と伝えてある。

 それでもいい、と言ったのは皇帝だ!

 文句を言うな!

 まあ、一応、こちらも不良債権を引き受けてくれた手前、諸悪の根源たる父を早々に退位させた。

 これで手打ちだ。

 帝国も意図には気づいてはいるのだろう。

 それでも文句を言いたい、といったところか。

 もっとも、その文句もユリアの懐妊が分かった段階で格段に減った。

 ユリアが男児を出産し、その後も次々と子を儲けているため苦情は止まった。

 帝国の思惑なのか、それとも伯母上の作戦なのか、皇帝のユリアへの愛情が深すぎるがゆえの出産率なのかは分からないが……。とりあえず、ユリアは「子供を量産してくれる皇后」としての地位は確立された。

 ユリアが嫁いで七年。

 その間に産まれた子供は四人。

 素晴らしい快挙だ。

 普通は無理だからな。これは一種の才能といえるだろう。

 これから先もどんどん子を儲けてくれ。

 それがエウニア王国とハイデスブルク帝国の平和に繋がる。

 私は、ユリアからの手紙をいつものように暖炉で燃やした。


 その数週間後、帝国から連絡が届く。


「は!? 死んだ? 皇女が!?」


 帝国皇女が亡くなった。

 ユリアの産んだ末の娘の死の報告だった。

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― 新着の感想 ―
お花畑の遺伝子をボコボコ量産されてもね…
悪い予感しかしないやつ〜!! あんな手紙書いてるアンポンタンがやることだからなぁ…という謎の逆方向の信頼感…。 と言うか皇帝まだ溺愛?してんのか??頭平気??
ユリアが、じゃなくてそのお子さんがお亡くなりに。 確かに昔なら産後数日で死ぬことはあるでしょうが、今なら産後すぐのシロップ投与で防げるやつとかあるらしいので。 こういう展開ということはユリアさんなんか…
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