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1.縁組1

 私の祖国、エウニア王国は小国ながら大陸一の歴史と伝統を持つ国です。

 その立地から数多の国々との政略結婚を繰り返してきました。戦乱に巻き込まれる危険性が高く、それを外交と血縁でどうにか回避してきたとも言えます。

 そんな王国の第一王女として産まれた私、カロリーネは、一つ上の兄と共に自らの価値を高めてきたと言っても過言ではありません。いずれ国王になる兄の手助けをするため、私は他国に嫁ぐ運命。覚悟はとうの昔にできております。

 なにしろ、「国の一番の外交官は、エウニア王国から嫁いで来た王女」と、謳われているくらいですからね。

 今は幸い……といってはアレですが、大陸の情勢は安定しています。百年前に、とある軍国が勢力を伸ばしていましたが、それも落ち着いていますので暫くの間は平和が続くことでしょう。なにより、頭一つ分飛びぬけている帝国の存在がありますので、迂闊な真似はできないのです。

 帝国と戦争になれば無事ではすみません。

 なんらかの奇跡が起きて勝利したとしても、内部から破壊されるでしょう。帝国人は、大変、執念深い国民性です。普段は、穏やかなのに、侮辱を与えた者に対する報復は常軌を逸していました。

 まあ、「目には目を」、「やられたらやり返す」という寸法なのでしょう。間違ってはいません。ただ、それが他国よりも執拗だというだけの話。

 これは私個人というよりも、国の上層部が判断したものです。

 

「逆鱗に触れなければ問題はない」

「あぁ、彼らの誇りを傷つけなければ、いつまでも良好な関係は維持できる」

「他国より、よほど付き合いやすい国だ……怒らせなければ」

 ——とまあ、このような感じです。

 大臣たちの言い分は、至極まっとうなもので、「常識ある付き合いをしていれば安心な大国」でした。

 

 そんな帝国から縁談がきたのは、私が十八歳の春のこと。

 お相手は、帝国のフランツ皇帝。

 国力から言って断れる話ではありません。

 偶然が重なった結果でしょうか?

 今まで帝国に嫁いだ王女は一人もいませんでした。帝国が巨大すぎるというのもありましたが、今まで付かず離れずの関係だったため……いえ、はっきり言いますと、外交関係は常に良好だったため、婚姻まで至らなかったのです。

 ただし、まったく縁がないというわけではありません。実は、フランツ皇帝は私の従兄にあたる存在。「親戚なのに関係が希薄?」と、首を傾げられるかもしれませんが、フランツ皇帝は母方の従兄にあたる方です。母は、エウニア王国の出身ではありません。他国の王女です。その母の姉がフランツ皇帝の母親。つまり、エウニア王国から見ると「王妃の甥」です。国王である父とは血の繋がりはありませんので、どうしても関係は希薄になってしまいます。これは我が国が帝国と地理的に遠方にあることも起因しているはずです。その証拠に、私は今まで、フランツ皇帝と会ったことは一度もありません。男女だから、ということもあるでしょう、ですが、同性のお兄様ですらフランツ皇帝とお会いしたことはなく、手紙のやりとりすら皆無なのです。

 まあ、遠方の親族ですからね。致し方ありません。

 

「どうする?カロリーネ」

「お受けするに決まっていますわ」

「いいのか?」

「あら、お兄様。そもそも断れる縁談ではありませんでしょう?」

「一応、伯母上からはカロリーネの意志を尊重する旨は伝えられているよ」 

「ええ、正式な婚約内定の書類と一緒にですわよね。ふふっ。伯母様も中々の食わせものですわ。遠回しなやり方をされていますけど、これは脅しです。見てください。この皮肉とウイットに富んだ内容の手紙を」

「やはりそうか……」


 個人的に頂いた手紙を見せて差し上げると、お兄様はガクリと肩を落とされてしまわれました。そんなに落胆なさらなくても……。どうも、お兄様は情が厚いといいますか、情に脆いといいますか。身内に甘い傾向にあります。

 そのせいか、他者……この場合、私など自分と血筋が近しい者は「総じて身内への情がある」と無自覚に捉えているのです。そんなはずありませんのに……。少なくとも伯母様には「甥や姪に対する親愛の情はない」と、考えるべきでしょうね。

 

「流石は帝国の女傑ですわ。こちら側が断れないように圧をかけてきていますが、婚姻したらどれだけの恩恵をもたらすかまで提示してきています」

「……ああ」

「病弱な先代皇帝を陰から支えた大公夫人(伯母様)なだけありますわ」

「……伯母上も必死なのだ」


 そうでしょうね。

 私は、お兄様の言葉に同意します。

 伯母様が先代皇帝の妃ならば違ったのでしょうが……。

 実際は、先代皇帝の弟である大公の妻でしかありません。

 ならばなぜ、息子を皇帝にできたのかというと、簡単な話です。

 先代皇帝にお子がいなかった——それだけのこと。

 政治に明るい伯母様は、先代皇帝の許可の下、精力的に働いていらっしゃったと伝え聞いています。大公妃とはいえ、皇后ではありません。しかも、伯母様は他国の王女です。帝国出身者にとっては余所者。嫁いで来たとはいえ、排他的なところがある帝国での苦労は想像がつきます。先代皇帝がご存命だった頃とは違い、伯母様を敵視する者が表面化してきているのです。元々、敵が多かったというのに、さらに増えたといったところでしょうか。

 

「ご自身の身内を味方に引き込みたいのは理解できますが、巻き込まれる側は迷惑ですわね」

「……はっきりというな」

「本当のことです」

「それでもだ。伯母上の味方は少ない。身内を取り込みたいと考えるのは自然だ」

「その身内に足を引っ張られるのが王族ですわ」

「後継者争いならともかく、フランツ皇帝が存在する限り足の引っ張り合いはないだろう。伯母上は、嫁を自分の陣営に組み込みたいのだ」

「未来の投資ですわね」

「ああ」

「伯母様には敵いませんわね。これはお父様も気がついてますわよね」

「間違いなく、察しているはずだ。それで、どうする?」

「もちろん、謹んでお受けいたします、と伝えて下さいませ」

「わかった」


 帝国との結びつきは我が国にとっても悪い話ではありません。

 こうして私の婚姻が決まったかに見えたのですが……。


「私が生涯を共にする女性は、ユリア王女だ」



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