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第九話 秘密の特訓?

「ねぇってば。聞こえてるんでしょ?」


その少し尖った声に振り向き、わたしは営業用の笑顔を貼り付けた。


「はい、いらっしゃいま……」


言いかけて、わたしは目をぱちくりさせた。

そこに立っていたのは、燃えるような赤い髪と、くりくりとした紅い瞳の女の子。見間違えるはずもない。


「あーっ! あなたは、りんごの!」


「なっ……!」


わたしが指をさすと、彼女はびくりと肩を震わせた。


「あの時はありがとう! すっごく嬉しかったんだよ。ちゃんとお話しできなかったから、残念だなって思ってたの!」


わたしが駆け寄って言うと、彼女はたじたじになっている。その様子がおかしくて、わたしは店の奥に向かって叫んだ。


「お父さーん! りんごくれた子だよー!」


その一言で、店の奥から父さんがすっ飛んできた。


「なにぃ!? あの心優しき天使様がご来店だとぉ!?」


父さんはリリー(あとで名前を聞いた)の前に立つと、感極まったようにその手を両手で握りしめ、目に涙を浮かべた。


「ありがとう……! 本当にありがとう! 娘が大変な時に、君の優しさがどれだけ我々の心を救ったことか……! さあ、これはほんのお礼だ! 遠慮なく持っていきたまえ!」


父さんはそう言うと、店のパンをありったけ袋に詰め込み、リリーに無理やり持たせようとする。


「え、え、ちょっ……!」


「さあさあ、立ち話もなんだ! 上でお茶でもどうだね!?」


何か文句を言おうとしていたリリーの抵抗も虚しく、父さんと、いつの間にか現れた母さん兄さんによる猛烈な歓迎の波に飲み込まれ、彼女はあれよあれよという間に我が家へと上げられてしまった。


「……お、おじゃまします」


玄関で、リリーは小さな声でそう言った。その礼儀正しさに、父さんは「なんていい子なんだ……!」と再び涙ぐんでいた。


家族が「あとはよろしく頼むぞ!」と店に戻っていくと、ようやくわたしとリリーは二人きりになれた。

リリーは深呼吸をすると、わたしをキッと睨みつけて、今度こそ何か言おうとしていたが、その前にわたしが満面の笑みで口を開いた。


「わたし、しずく! あなたは?」


「……リリー」


わたしの勢いに押されたのか、リリーはすっかり剣幕をなくして、ぽつりと名前を教えてくれた。


「リリー! 素敵なお名前だね! わたし、リリーと友達になりたかったの!」


わたしがそう言うと、リリーはうーっと唸った後、小さな声で呟く。


「……うん、ともだち、なる」


「やったー!」


友達になった記念に、わたしは父さんがこっそりくれたクッキーをリリーに差し出す。リリーはそれをポリポリとかじりながら、意を決したように、恥ずかしそうに切り出した。


「……その、おきゃくさんをメロメロにするほうほう……おしえて、くれない?」


その言葉に、わたしの目が輝いた。まさか、弟子入り志願者第一号が現れるなんて!


「いいよ! 一緒にやろう!やったー!」


こうして、わたしとリリーの、秘密の接客講座が始まった。


「まず基本は、笑顔と、明るくて大きな声だよ!」


「うん……」


最初は、基礎的なことから教える。リリーも、素直にこくこくと頷いていた。

しかし、基本をマスターしたとなれば、次は応用編。わたしの指導は、いよいよ秘伝の奥義へと近づいていく。


「それからね、パンを渡す瞬間に、こう……ウインクを混ぜると、お客さんのハートを鷲掴みにできるよ!」


わたしがパチンとウインクしてみせると、リリーは「えぇ……?」と少し引いている。


「さらに上級編は、ちょっと上目遣いを意識するの! こうやって!」


「ね、ねぇ、それって本当にいいの……?」


「大丈夫! これでわたし、人気者になれたんだから!」


わたしの自信満々の言葉と、実際に行列ができているという事実が、リリーの不安をねじ伏せていく。彼女は、少しずつ、しかし確実に、接客術の真髄(?)へと足を踏み入れてしまった。


――その頃、母の楓は、そろそろ店を閉めようかと、家の扉を開けた。


「しずくー、リリーちゃん。もう終わりにするわよー」


リビングを覗くと、そこには信じられない光景が広がっていた。


「うふーん……」


「うふーん……」


二人の幼女が、腰に手を当て、首をこてんと傾げ、謎のセクシーポーズ(のつもり)を決めている。


「ちがう、リリー! もっとこう、ヒップをきゅっと上げて!」


「こ、こうですか、師匠!」


「そう! 素晴らしいわ! あなたには才能がある!」


まるで、どこかの秘密の特訓のような、シュールな師弟関係がそこにはあった。

そのあまりにも可愛らしく、そしてあまりにも間抜けな光景に、楓は呆れながらも、思わず笑みがこぼれた。


「……あなたたち、何やってるの?」


ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます!

もしちょっとでも「面白いかも」「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

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