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 左足が後方に華麗なステップを決めた刹那。


 ジュシュウゥゥゥー


 侍従の亡骸が異様な音と共に溶け出した。


 水蒸気。違う

(あれは)

 泥。


「マッドパペット」

 侍従は最初から人間ではなかった。何者かの放った刺客。疑似生命体の操り人形だ。

「こんな物がどうして城に……」

 警備はどうしたんだ?

「勇者を生んだ国だ。情報はどの国も喉から手が出る程ほしい。こんな物は日常茶飯事だ」


 この国の情報は価値がある、という事か。でも、今の言い方じゃ……

「マッドパペットを放ったのは、人間の国なんですか」

「その可能性は十分ある。無論、魔王一派の残党の可能性も拭いきれないが、魔王という世界共通の敵がいなくなった今、各国は人類世界の主導権を取らんと、水面下の小競り合いが始まっている。権謀術数は当たり前だ」

「そんな」

「我が国は勇者の存在の分だけ、頭一つ秀でているからな。他国にとっては格好の標的だ」

「俺は争いを起こすために戦ったんじゃないのに」

「そうしょげるな、勇者様。お前のお蔭で世界に光が戻ったのは事実だ。ここに来るまでに人々の顔を見たろう」

「うん」

 皆、嬉しそうだった。笑っていた。

「だったら胸を張れ。政争なんてもんは、国の文官共に任せておけ。それでも平和が崩れそうになったら、その時は我らがいる」


 ギウウゥゥゥー


 奇声を上げて、かつてマッドパペットだった物が、最早原型も留めぬまま襲いかかる。



「シュヴァルツ・シュッツエンゲル」


 守護の大剣



 この人は、王国騎士団長



塵芥(ジンカイ)





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