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養父の断罪タイム

「カイブル。そいつを運ぶのは、任せてもいいか」

「もちろんです」

「あとは神官共を、黙らせるだけか……」

「それならわたしに、お任せください」


 先ほどまで司祭が座っていた椅子の前に置かれたテーブルをガサゴソと漁った彼は、持ち運びやすい小さなスタンドマイクを手に取った。


「ロルティ様。少しだけ、お静かに願います」

「うん。わかった! しぃ~って、するね!」


 護衛騎士が口元に人差し指を当てた動作を目にしたロルティは、ニコニコ笑顔を浮かべて唇を噛みしめる。


 主の同意を得た彼は、マイクのスイッチをオンにして静かに声を発した。


「全神官に継ぐ。10分以内に、礼拝堂へ集まりなさい。聖女様より、皆様へ信託を授けます」


 マイクをオフにしたカイブルは、小太りの司祭を軽々と持ち上げ背中に背負うと先陣を切って無言で歩き出す。

 その様子を目にしたロルティは、感嘆の声を上げて喜んだ。


「カイブル、すごーい! 力持ち~!」

「わふっ」


 きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ愛娘と犬の姿を目にして微笑んだ父親は、黙って護衛騎士のあとに続いた。


「一歩、ニ歩、三歩~」

「わふっ。わふん、わふーん!」


 行きは知らない道を恐る恐る下るからか永遠にも感じるが、帰りはあっと言う間に過ぎていく。

 父親が足を動かし階段を上がるたびに歌っていれば、あっと言う間に地上へと到着した。


「この扉を開けた先には、ロルティ様の言葉を待ち続ける神官達の姿があります。合図は私が出しますが……」

「うん! わたし、がんばる!」

「閣下。ロルティ様が無理をされるようであれば……」

「ああ。任せておけ」

「では、参りましょう」

「はーい!」

「わふっ」


 ロルティの同意を得たカイブルは、勢いよく大広間へと躍り出た。

 先程までただ広いだけの空間であったはずのそこは、白装束を身に纏った神官達でいっぱいになっていた。


「おい、見ろよ」

「あれは……」

「聖騎士カイブルじゃないか?」

「隣にいるのはハリスドロア公爵……?」

「――静粛に」


 戸惑う神官達を黙らせたカイブルは、無駄口を叩いていた群衆が静まり返ったのを確認してから言葉を紡ぐ。


「私の名はカイブル・アカイム。聖女ロルティ様の護衛騎士です」


 聖騎士ではなく護衛騎士と名乗ったからか。

 その場に集まった神官達がざわついた。

 彼が教会を裏切ったと知らされている人々は、それほど多くなかったからだろう。


「聖女の聖なる力を私利私欲の為に使い、世界征服を目論んだ司祭ガンウ・ヘールを捕らえました。これよりこの教会の最高権力者は、聖女ロルティ様となります」


 ロルティは大好きなカイブルから紹介を受けて、そうっと神官達の姿を彼の背中から盗み見る。


 驚愕、安堵、不安、怒り――。


 さまざまな視線が渦を巻いていると気づいた彼女は、すぐさま彼らから視線を逸らした。


「ロルティ様はまだ幼い子どもです。皆様方も、黙って彼女の言うことを聞く気にはならないでしょう。ですので、ここで聖女様が本物であることを証明いたします」


 淡々と語っていたカイブルは、つまらなさそうにジェナロの背中に隠れていた犬へ前に出るように視線で訴えかけている。

 付き合いの長いロルティは瞬時に彼が言いたい内容を悟り、父親に抱きしめられたまま獣に指示を出した。


「わんちゃん!」

「わふーん!」

「ご覧になったことがない方のほうが多いでしょう。聖女様が召喚された神獣です」


 護衛騎士の声に合わせて、神官達がどよめいた。

 どうやらこの犬がここに存在しているのは、とても驚くべき珍事らしい。


 人々から畏怖の視線を投げかけられても、明るい性格の獣は自信満々にしている。


(うさぎしゃんを連れてきたら、ストレスで大変なことになってたかも……)


 気の弱いところがあるアンゴラウサギを連れてこなくて本当によかったとホッとしながら、ロルティはじっと護衛騎士の言葉に耳を傾けた。


「神獣は神の祝福を受けし聖女にしか懐きません。その証拠に……」

「わふ……。わん!」


 カイブルが手を差し出せば、犬はそのまま彼の手を口に咥えてガブガブと歯を立て噛み始めてしまう。


「わんちゃん!?」


 まさか護衛騎士に向かって牙を剥くとは思わずロルティが悲鳴を上げれば、彼女の耳元で父親が囁く。


「あれは神官達を騙す演技だ」


 ジェナロが口元に人差し指を当てている姿を目にした娘は、唇を両手で抑えて黙り込む。


(いけない! しーっ、しなきゃ……!)


 父親に耳元で囁かれていなければ、普段の獣はもっといい子だと声に出してしまっただろう。

 ロルティはカイブルから声をかけられるまでずっと、両手を唇で覆っていた。


「このように噛みついてきます。しかし聖女様が触れても……」

「わふっ」

「このように、大人しく従うのです」


 護衛騎士に促されたジェナロは、ロルティを獣の背中に座らせた。

 獣は待ってましたとばかりに嬉しそうな鳴き声を上げ、カイブルとの違いをアピールした。


「さすがは聖女様だ……!」


 誰か1人が幼子を称賛すれば、神官達は彼女を聖女として崇め始めるものだ。

 集団心理を見事に利用して己の思惑通り手中に収めた護衛騎士は、最後の仕上げとばかりに宣言する。


「これより聖女ロルティ様から、ありがたいお告げを賜ります」

「聖女様! どうか迷える我らを、お導きください!」


 神獣の背に乗ったままカイブルに目線で神官達に向かって声を発するように促されたロルティは、言葉を詰まらせながら告げた。

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