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諸悪の根源に罰を与えて

「あのね。わたしは、パパと一緒に暮らしたい!」

「なんだ?」

「どう言うこと……?」


 ロルティの叫びを聞いた神官達は、とても困惑しているようだ。


(言い方、間違えちゃったかな……?)


 彼女は慌てて、言葉足らずな分を補足するためだろう。

 勢いよく叫ぶ。


「だから! わたしは聖女だけど、お仕事はしないの!」

「な……」

「聖女様は我々を見捨てると言うのか!?」

「そんなのあんまりだ!」

「わふん!」


 口々にロルティへ向かって抗議してくる神官達は、彼女を乗せた獣が威嚇して黙らせた。


『文句がある奴らは全員、噛みつくぞ!』


 そんな犬の声が、聞こえてきそうだ。


 大人達は先程カイブルの大きな掌に歯型がつくほど強く噛み締められていた姿を目にしているため、すぐに口を紡ぐ。


(わたし、失敗しちゃったのかな……?)


 彼らの反応があまり芳しくないと気づいたからだろう。

 その様子を目にして怯えたロルティがしょんぼりと下を向けば、愛娘を慰めるように父親が彼女の頭を優しく撫でた。

 思わず振り返ってジェナロと視線を合わせれば、彼は、安心させるように口元を緩める。


「以上が聖女ロルティ様のご意思となります。今後一切、皆様方が聖女様とかかわる機会はないでしょう」

「では、我々は……」

「本日を持って、教会は封鎖いたします」

「そんな……!」


 神官達は職を失うなど思いもしなかったようで、この世の終わりのような表情とともに崩れ落ちた。

 どこからか啜り泣く声が聞こえ、あっと言う間にこの空間が地獄と化す。


(みんなが悲しんでるのは、わたしのせい……?)


 ロルティが嘆き悲しむ彼らの姿を目にして心を痛めているのを理解したからだろう。

 少しでも愛娘が気に病まぬようにと配慮した父親は、神官達に宣言する。


「再就職先の斡旋は、我がハリスドロア公爵家が責任を持って行う」

「ですので皆様はどうか心配なさらず、指示が下されるまで怪しい動きをすることなく大人しくしているように」


 ジェナロと見事な連携プレイを見せたカイブルはこれ以上話す必要はないとばかりに、肩に背負っていた意識を失っている司祭を勢いよく群衆の中に投げ込んだ。


「うわぁ! なんだ?」


 誰もが突然降って来た司祭の下敷きになるのを防ぐためだろう。

 円を描くように避ければ、彼はそのサークルのど真ん中で背中を床の上に叩きつけた。


「さ、司祭様……!」

「おい! ちょっと待て!」


 見かねた神官の1人が助けに入ろうとしたものの、すぐに近くにいた人間達が複数人で止めに入る。

 カイブルが彼を、すでにこの教会の最高権力者ではないと紹介した話を覚えていたからだろう。


「こいつのせいで、俺たちは職を失ったんだぞ……!」

「手足の拘束を解くなんてあり得ない!」

「やっちまえ!」


 ガンウが下に見ていた神官達が、暴徒に変わった瞬間だった。

 ロルティは思わず養父を助けようと獣の背中から身を乗り出そうとしたが、大きな手が彼女の両目と耳を塞いでしまう。


「むぅ? パパ? カイブル……?」


 一時的に聴覚を奪われたロルティは、たとえ大人達が声を発していたとしてもそれを聞き取れなかった。


(これ、いつまで続くんだろう……?)


 ロルティは困惑している間、誰かに抱きかかえられて移動しているのに気づく。

 彼女は顔を上げようとしたが……。

 逞しく鍛え抜かれた胸板に顔を押しつけられてしまい、それは叶わなかった。


「ロルティ様。怖がらせてしまい、申し訳ございませんでした」


 ロルティが不安に思いながら再び大好きな人達の声が聞こえるのを待っていれば、やっと視界と聴覚が戻ってきた。

 彼女は父親に抱きかかえられ、教会の外まで出てきたようだ。


「うんん! 大丈夫!」

「わふっ」

「ずっとあのままの状態だったら、どうしようかと思ったよ~」

「わふーん?」


 ロルティは申し訳なさそうにしている護衛騎士を安心させると、ほっとしたようにジェナロの胸元へ身体を預けた。

 不思議な鳴き声を上げる犬を労りたい気持ちでいっぱいだったが、獣を抱きかかえて歩くのは少し無理がある。

 ロルティは触り心地のいい毛並みを撫でるのは諦め、言葉で神獣を褒めた。


「わんちゃん! 大活躍だったね!」

「わふーん!」


 犬が嬉しそうな鳴き声を上げる中、愛娘を抱きかかえていた父親は露骨に肩を落とす。


「父親よりも先に、ペットを褒めるのか……」

「相手は神獣ですから……」


 自分達も頑張ったのに褒めてくれないのかと不満そうな会話を耳にしたロルティは、視線を父親と護衛騎士に向ける。


(わ、忘れてたわけじゃないよ? あとからちゃんと、言うつもりだったんだから!)


 心の中で言い訳をしながら。

 彼女はとびきりの笑顔を浮かべて告げた。


「カイブルとパパも! ありがとう!」

「ロルティ……!」

「わっ。痛いよパパー!」


 先程まで不貞腐れていたのが嘘のように、ジェナロは愛娘を抱きしめ瞳に涙を浮かべる。

 そんな親子の姿を目にしたカイブルが、目元を緩めて優しく見守っていた。


「帰るか。ジュロドが待っている」

「うん!」


 公爵家に残してきた兄の名を耳にしたロルティは、元気に返事をしてその場をあとにした。

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