↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/125

92. 公爵家の援助



 リーゼンフェルト公爵家の広い応接室。

 太陽が差し込み美しく光るのは、自分が作ったステンドグラス。

 それを横目に見ながら、リアナは小さく息を吸う。


 今日は急遽ここに来ることになったので、胃薬を飲んでない。

 リアナは、胃が痛くならないように祈りながら、笑みを浮かべた。



「忙しいのに、呼び出してすまないね」

「いえ、お気になさらず」

「リアナも来てくれてありがとう。すまないね」

「お会いできて嬉しいです」



 呼び出された時は焦ったが、一人ではなく、父がいるだけで救いである。

 ただ、今日は昼食を抜いた方がいいかもしれない。


 ご飯について考えているリアナを見るアイリスは、嬉しそうな表情(かお)をしている。



「忙しいのに、ごめんなさいね」

「いえ。お会いできて嬉しいです、アイリス様」

「リアナ。その呼び方は、少し違う気がするのだけど」

「…アイリスお姉様」

「私も会えて嬉しいわ、リアナ」



 どうやら、お姉様呼びは固定らしい。

 まだアイリスと親しくないのでわからないのだが、クレアのような着せ替え人形の趣味がないことを願う。


 挨拶も終わり、少しの沈黙が流れる。

 メイドにより紅茶を出され、他の者を退げると、マルクスは話し始めた。



「今日、ここに呼んだのは、アイリスから話があってね。聞いてくれるかい?」

「なんなりとおっしゃってください」



 ガラスがある応接室へ、しかも父と共に呼ばれた理由がまだわからない。


 商会へは、朝一番で迎えと日時しか伝えられなかったので、少し不安だった。

 リアナは胃が痛くなるのを感じ、気付かれぬように深く息を吐いて気を紛らわせる。



「商会の保証人に、公爵家の名を連ねたいのだけど。いいかしら」



 商会の保証人に、名を連ねる。

 リアナは話が大きくなったことで、固唾を飲んで見守る。


 現在の保証人には、シュレーゲル侯爵家、ベーレンス伯爵家。

 他にも、保証人はいるが、それも父の古い友人だと聞く。

 それに名を連ねるということは、商会の加護が強くなるということだ。



「それは、商会(うち)にとって嬉しいことですが。その理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」



 しかし、名を連ねるのも簡単な話ではない。

 商会が繁盛していれば、その分利益も還元される。

 だが、商会がなにか大きな損失や違反を犯した場合、保証人にもペナルティが科される。


 有難い話なのだが、既に侯爵家がいるため、他の商会に比べ、もう十分に加護がある。

 そこへ公爵家がわざわざ、保証人になってくれる理由がわからない。


 ダリアスとリアナが少し困惑していることがわかったのか、アイリスはマルクスを見つめる。



「そうね。マルクス様、私が話してもいいかしら?」

「アイリスがしたいことをしてくれて構わないよ。私は、アイリスの行動は、全て信じているからね」

「まぁ、ありがとう。では、話させてもらうわ」



 アイリスは嬉しそうに笑うと、こちらを見る。

 その目が、クレアが自分を見るときに似ているのだが、気のせいだろうか。



「まず、商会でのガラスの発表、おめでとう。めでたいことだわ」

「ありがとうございます」

「あのガラスは今後、人気になるわ。その時に、侯爵家以下の横槍は入らないでしょうけど、それ以上はどうかしら」



 思ってもみなかったことに、リアナは息を呑む。

 ガラスの人気がそこまでになるとは考えていなかったのだが、その可能性がアイリスにはあるようだ。


 商会のことは父に任せているので、あまり把握していないが、もしかすると今までもそういうことがあったのかもしれない。

 父の無言が、そのことを肯定している気がする。


 リアナはアイリスへ視線を戻すと、少し手を握り込む。



「そこで、私の出番だわ。侯爵家の名前も良いけれど、それよりも公爵家の名前の方が影響力は大きい。この国には、他にも公爵家がいますし、貴族は少し強引な方が多いから」

「……公爵家、ですか。動きがある可能性は、高いでしょうか?」

「そうね。新しいものが好きな方もいるわ」



 この国の公爵家は、四家ある。

 自分が知っているのは、リーゼンフェルト公爵家とノイエンドルフ公爵家。

 他にも居るが、名前までは知らず、どういった人物かまではわからない。

 しかし、貴族であるアイリスが言うのであれば、そういう人もいるのかもしれない。



「先に、手を打とうかと思うのだけど、どうかしら」

「…有難いことです」

「私にも、アイリスの妹を守る義務があるからね。遠慮しないで。あと、これからは私のことはマルクスと。よろしく頼むよ、ダリアス、リアナ」

「心より、感謝申し上げます」


 

 アイリスの妹になったことで、守られる存在になったらしい。

 しかも、名前を呼ぶ許可も得てしまった。

 少し恐れ多いのだが、商会と自分を守るために、今回は甘えさせてもらうことにする。


 ふと、マルクスと目が合い、とても楽しげな表情(かお)であることに気付く。

 それに、少しだけ嫌な予感がしてしまうのは、なぜだろうか。



「そうだな、リアナならマルクスお兄様でもいいよ。私も少し、アイリスが羨ましいからね」

「まぁ、名案ですわ」



 アイリスはどこからか紙を出し、マルクスの前に置く。

 胸ポケットに挿していた万年筆を取り出し、なにか書き始めた。


 もしかしてそれは、もう増えないことを願ったものではないのだろうか。


 保管場所を、本格的に考えた直した方がいいかもしれない。


 リアナが考え込んでいると、書き終えたのか、マルクスは魔法でインクを乾かした。

 そして、封筒に入れて、リアナへ差し出す。



「かわいい妹は、何人いてもいいからね」

「…有難く受け取ります…」



 リアナは封筒を受け取り、持ってきていた鞄に仕舞い込む。


 かわいい妹は、きっと、クレアのことも含まれている。

 クレアは納得できるとして、自分も含まれていることは、少しだけ違和感がある。


 リアナが少し考え込んでいると、マルクスは期待した目でこちらを見ているのに気付いた。



「早速、呼んではくれないのかい?リアナ」

「…私も優しい兄ができ、とても嬉しいです。……マルクスお兄様」

「いいね。お兄様なんて、初めて呼ばれたよ」

「クレアは恥ずかしくて、いまだに呼べてないものね」



 二人が楽しそうに話すのを、リアナは眺める。


 クレアもこれを受け取っているというのに、まだ呼んでいないらしい。

 そのことに少し気まずくなりながら、リアナは会話が進むのを傍観する。


 話が終わり、商会へ帰る時間になったのだろう。



「本日は、有難いお話ありがとうございました。日々、精進してまいりたいと思います」

「期待しているよ」



 父の頭を下げるのに合わせ、リアナも深く頭を下げる。

 顔を上げると、アイリスが嬉しそうに自分へ顔を向けていた。



「では、ダリアス。リアナを今日は借りさせてもらうことになっているけど、いいかな」

「はい、予定を空けております」

「感謝するよ。アイリスが楽しみにしていてね」

「感謝しますわ、ダリアス」



 待って欲しい、その予定は聞いていない。

 確かに、今日の仕事の予定は入れずに、全ての時間を空けるように言われていたが、このためだったとは。

 なら尚更、胃薬が必要だった気がするが、もうそれも難しいのだろう。


 自分の横に立つアイリスに、逃げられないことを悟る。



「リアナ、行きましょう。今日はクレアと三人、姉妹で語り合いましょう」

「…ありがとうございます、アイリスお姉様」



 アイリスと二人きりというわけではないことに、少し安堵する。


 リアナは席を立つと、アイリスと部屋を退出する。


 きっと、同じように緊張しているであろうクレアが思い浮かび、少し笑みが溢れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。