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30. 良い知らせと悪い知らせ



 レオンとダリアスが屋敷から出てきて、中庭の会場へ戻ってきた。

 そして、レオンを中央として大きな机と人数分の椅子が用意されていく。



「楽しんでいるところ、すまない。一度、集まって欲しい」



 その声に従い、各自、用意された椅子に座っていく。

 レオンは盗聴防止器を机の上に置き、作動させた。


 

「ダリアスには先に伝えたのだが、聞いてくれるかな?」

「お聞かせください」

「ルカに関する情報が入った」



 ルカの情報とは、きっと家族が見つかったのだろう。

 あの日、山の中で出会ってから一緒に暮らして、もう一ヶ月経っている。

 寂しさもあるが、ルカにとっても家族といる方が幸せだろう。



「リアナ、先に話を聞きなさい」



 リアナが寂しさのあまり思い(ふけ)っていると、父の声で思考を現実に戻された。

 家族に会えることはいいことだ。

 その時は、笑顔で見送ろうと決め、姿勢を正す。



「良い話と悪い話がある。どちらから聞きたい?」

「では、悪い話から」



 リアナは、迷わず返答する。

 こういった場合、悪いほうから聞いているほうが、心の準備がしやすい。



「ルカとよく似た容姿を持つ一族がいる。しかし、幻の存在とされており、世界中を旅して暮らしているため、出会うことは稀である。そのため、今どこにいるかは一切情報がない」

「そんな存在がいるのですね」



 そんな一族がいることは、初耳である。

 他の人も知らない様子で、幻の存在と言われてもしょうがないのだろう。


 迷子になった子供を置いてでも、旅をしなければならない深い事情でもあるのだろうか。



「では、良い話というのは?」

「ルカの出生地が判明した。この世界の最北端の地だ。しかし、そこにたどり着くには、どれくらいかかるかわからない」

「そんなに遠く…」



 出生地が判明したことはいいのだが、たどり着くのにどれくらいかかるかわからないのか。

 しかも、もしそこに行ったとしても、家族に会える確率は低い気がする。



「ルカが望むなら、伯爵家(うち)の力で出生地に連れて行くことは可能だ。しかし、必ず親と会えるかは保証できない」

「それでは、どうすれば」



 考えていたことをレオンからも言われ、リアナは目を伏せた。

 そんなリアナに、レオンは安心させるような表情(かお)で話し始める。



「今、王に転送装置が使えないかと交渉している。もしそれが使えるなら、移動の負担もなく、行き帰りできるだろう」

「お手数おかけします」



 そういったものがあるのは知っていたが、王族が使用する大事な装置である。

 レオンには、お世話になりっぱなしで少し面目ない。


 もし、ルカが家族に会えなかった場合を考えれば、こちらに帰ってくることもできる。

 そこからどうするかは、ルカと一緒に決めればいい。


 しかし、転送装置を用意してくれるのは嬉しいが、どうやって交渉したのだろう。

 レオンは伯爵家、相手は王族。

 なにか、特別な伝手でもあるのだろうか。


 レオンは一度皆の表情(かお)を見渡すと、少し声のトーンを下げて、改まった声を出す。



「しかし、仮に中途半端にルカの一族について知っているものがいたら危険だ。この国を出てからは、変装させておくほうがいいだろう」

「それは、どうしてですか?」



 リアナはレオンの言葉に、疑問が浮かぶ。


 ルカの一族は、狙われるほど珍しいものなのだろうか。

 確かに、よく目立つこの容姿は、いい意味でも悪い意味でも目立つ。


 今では街の人にもかわいがってもらっているが、初めの頃は、ルカは物珍しく見られていた。



「あの一族は、神獣と交流があるとされている。その神獣と契約すれば、国を滅ぼすことも取り上げることも可能だからね」

「神獣とは、なんでしょうか?」

「聖獣をまとめる存在。聖獣の王と言っても過言ではない」

「聖獣の王…」

「お気遣い、ありがとうございます。これから、気を付けます」



 レオンが口元を手で隠しながら囁いた言葉に、父が神妙な面持ちで答え、リアナは思わずルカのことを抱きしめた。


 この子に、何かあっては大変だ。

 幸い、住んでいる街の人は知り合いばかりで観光客などはいないが、今後は気をつけようと心に誓う。



「神獣については、国の機密情報になる。そのため、私から聞いたということは内緒にしてほしい。いいね、ダリアス」

「後日、今いる人間で神殿に参ります」



 レオンの言葉に、ダリアスは即答する。

 レオンは笑みを浮かべ、満足げに一度うなずくと話を再開させる。



「そうしてくれると有り難いよ。費用はこちらから出そう」

「そこまでしてもらうのは…」



 レオンの申し出にダリアスが少し渋り断ろうとすると、レオンは少し悪い表情(かお)をして笑みを深める。



「費用を払うので、機密情報を共有した共犯になってもらう」



 レオンは笑って答えているが、共犯となる原因を作ったのはこちらである。


 それに、リアナ達はレオンが費用を払わなくとも、神殿には行く予定である。

 もう一度断ろうとレオンの表情(かお)を見た、リアナや他の人も驚きで動きが止まった。



「秘密の共有者は、裏切ることは許さないよ」



 いつものレオンからは想像が付かぬほど、青の目は冷え切っていた。

 そのレオンから目を逸らせず、リアナは少し背筋が凍りつく。


 これが、貴族の時のレオンなのだろうか。

 レオンが場の空気を制する中、クレアは呆れたようにため息をついた。



「もう、レオン様。この前の歌劇に、影響を受けすぎですわ」

「すまないね、クレア」



 クレアが話し始めてくれたおかげで、レオンの表情(かお)はいつものように優しい雰囲気に戻った。

 クレアは申し訳なさそうに、自分の方を向く。



「リアナ、ごめんなさいね。少し前に観に行った歌劇に、さっきのセリフがあってね。それを使ってみたかったみたい」

「どうだい?迫力あったかい?」



 レオンはいつものように優しく話しかけてくれているが、リアナはまだ混乱している。

 しかし、少し理解できた。

 要するに、歌劇の真似をしてあの表情(かお)をしたということだ。


 そのことにひどく安心して、リアナは安堵の息をつくと、少しだけ抗議することにする。



「迫力もなにも!怖かったですよ!」

「そ、そうなのかい?すまなかった」



 リアナの言葉に焦ったように、謝るレオンを仕方なく許す。

 しかし、次は許さない。


 そんなリアナの心の声が聞こえたのか、レオンは困ったような表情(かお)で笑っている。



「もう、レオン様。リアナを怖がらせてはだめですよ。レオン様こそ、嫌われてしまいますわよ」

「気をつけよう。では、残りの時間は少ないが、今日は楽しんでおくれ」



 レオンがそういうと、新しいスイーツの乗ったワゴンが届き、各々、会話を再開させる。



「ハル、いこ!」

「そうだね!」



 ハルとルカは急いで別の机に移動して、新しく出てきたスイーツを堪能しているようだ。



「ルイゼ、先程の続きを聞かせて」

「まだ話していたの、クレア!」

「一体、何の話をしていたのだ?」

「少し、リアナの昔話を」

「しなくていいです!」



 クレアがルイゼにお願いしているその言葉が聞こえたリアナは、またも話を阻止しようと頑張る。



「それは、楽しい話だな」



 だが、今度は父もその会話に加わり、話が止まらない。


 リアナが生まれてからの成長を年齢ごとに詳しく話し始める父をどうにか止めることができたと思ったら、今度はその続きをリックが話し始める。



「ーーーということがありまして」

「ふふ。楽しいわ。フーベルトも、リアナとは長いのでしょう?なにか、かわいらしい話はないの?」

「いえ、私からは。リアナさんの許可がなければ、話せません」

「いいじゃないか。せっかくの楽しい話だぞ」

「そうですよ、フーベルト。少しくらい、リアナちゃんも許してくれますから」

「いえ、こればかりは…」



 許してくれるとは?

 私は話をやめさせようと、頑張っているところなのですが?


 もう、自分だけでは限界がある。

 それなら、諦めてここから離れる方が、精神的にもいい。



「もういいです。みんな、知りません!行きましょう、フーベルトさん」

「え、ちょっと、リアナさん」



 これ以上聞くのも、話されるのも、よくない。

 ならば、自分の横で、クレアに聞かれてもなにも言わずにいてくれた優しいフーベルトを選ぶ。

 

 フーベルトの服の袖を掴むと、リアナは席を立つ。



「リアナ、すまなかった。もう、しないから」

「そうです。すみません、リアナちゃん」

「もう、知りません。私の味方は、フーベルトさんだけ。お父さんもリックさんも、お呼びではないです」



 謝れば許してくれると思っているのだろうが、大間違いである。


 リアナは追いかけてきたダリアスとリックを置いて、新しいスイーツを食べていた、ハルとルカがいる机の方へ向かう。


 突然、手を引かれたフーベルトは、少し困ったように笑いながらもリアナと歩幅を合わせ、一緒に移動してくれた。



「………」



 ハルとルカがいる机の隣にある机に着き、椅子に座ったリアナは、黙り込んでいる。



「リアナ、これも美味しいよ」

「これ、おすすめ!」

「…ありがとう」



 ハルはリアナが珍しく拗ねていることに気付き、大切なスイーツを少し分ける。

 それを真似たルカからも分けてもらい、リアナはふたりに勧められたスイーツを食べ始める。



「…美味しい」



 美味しいスイーツを食べて、気持ちが少し落ち着いてきた。

 だが、どうして、自分は片手でスイーツを食べているのだろう?


 リアナは、自分の片手が使えぬことにようやく気付き、その手を辿り、赤面した。

 そして、勢いよく手を離して、すぐに謝る。



「フーベルトさん、すみません!」

「いえ、選んでいただけて嬉しかったです」



 そういえば、服の袖を掴んだままだった。


 その事実とフーベルトの言葉に、頬を染めたリアナは、恥ずかしくて表情(かお)を手で覆う。

 そのリアナのことを優しく見つめていたフーベルトの両肩に、手が重くのしかかった。



「フーベルト、あちらで話をしよう」

「さっき、手を出してはいけないと忠告したよね」

「いえ、これは…」

「言い訳は、後で聞く」



 よくわからないが、自分のせいでフーベルトが、二人に連れて行かれそうになっている。

 そのことに気付き、リアナはフーベルトの前に立つと、父とリックと向かい合う。



「待ってください!フーベルトさんは悪くないです!」

「リアナちゃん。これは、男同士の話し合いだから」

「そうだ。一度、しっかりと話し合う必要がある」

「いえ、必要ないです!」



 その一連の様子を見ていたクレアは、心底嬉しそうにリアナを見ると、小さく呟く。



「リアナったら、大胆ね」



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