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124. デザートと約束

ハル視点です。



 背後に人が並び出したのに気付き、ルカを連れて、すぐにその場から逃げた。

 綺麗なスイーツが並ぶ机の方へ行き、ルカと共に見て回る。


 今日は背中に乗らず、横を歩くルカは、出会った頃に比べ、少しだけ背が伸びた気がする。



「緊張したね」

「そうだね。ちょっと、緊張したよ」



 比較的早く、ルカとは普通に会話をするようになった。

 クレアの別荘宅での工事が終わってから、リアナがいない時間が長く、ふたりで過ごすことが多い。

 そのことにリアナが気付く様子はないので、まだバレてはいなさそうである。

 横を歩いていたルカは、立ち止まると、まっすぐとこちらを見る。



「ハル。騎士(ナイト)の称号、おめでとう」

「ありがとう。ルカも助手になったね。おめでとう」

「ふふ。ありがとう」



 互いに褒め合い、笑い合う。

 そして、ルカはスイーツが並ぶ机を見渡した。



「見たことないスイーツがたくさんあるね」

「そうだね。こんなにたくさんのスイーツを見れて、僕は幸せだよ」



 ここまでの種類が並ぶのを見るのは、生きてきて初めてだ。

 そのことに、少しだけ気分が上がる。



「ねぇ、ハル。これは?」

「それは、東の方の国のやつだね。お団子だよ」

「お団子。ハルのほっぺみたいだね」

「ルカのほっぺも似たようなもんだよ」



 この世界には、前世の世界に似た食材や料理、スイーツがある。

 そして、自分はただのかわいい猫から喋れて魔法が使えるかっこいい猫になった。

 おかげで、色々なものが食べられるので、今の生活の方が楽しい。


 ルカの視線は今はスイーツではなく、この会場の主役の横に立つ存在を見つめている。

 その黄金の瞳は、とても寂しそうだ。



「ハル。師匠は貴族になったの?もう、教えてもらえないのかな…」

「今だけだよ。それに、僕らはこれから色んな国に行くことになってるからね」



 ノイエンドルフ公爵家。

 フーベルトがその血筋であることは、この前の中庭での会話で聞き取れた。

 変なことを口走りそうな気がしたので蹴り飛ばしたが、それは悪くないと思う。


 それより、あの国王の言うことが本当なら、自分達は国外に出ると言うこと。

 それは、少し楽しみだ。

 自分の隣、相反する反応をするルカは、うつむいている。



「僕、良いのかな。一緒に行っても」

「もちろん。ルカはリアナの助手になったんでしょ?一緒に行かないの?」

「行きたい、けど。僕とハルだけじゃ、リアナを守れないかもしれないから…」



 ふたりだけでは、大切なリアナのことを守れないかもしれない。

 それなら、いい方法を自分は知っている。



「大丈夫だよ。フーベルトを連れていけば」

「来てくれるかな?」

「来るよ。だって、フーベルトはずーっと昔から、リアナのことが好きなんだから」



 フーベルトのために、ダリアスが動いているのを知っている。

 それに、フーベルトもわざわざ、公爵家に出向いていた理由も理解できた。



「昔って、いつから?」

「僕が初めて会った時には、もう好きそうだったよ。でも、せっかくそばにいれたのに遠慮しちゃってさ。好きなら好きって、言葉にして言えばいいのに」

「どうして言わなかったんだろう?」

「さぁね。あの頃のフーベルトは、リアナの隣で寂しそうに笑ってたよ」



 フーベルトの過去は、想像するだけで辛かった。

 リアナには濁して伝えていたが、エドモンドは病ではなく、毒とかそういう類のものだろう。

 好意を伝えることなくそばにいたのは、遠慮ではなく、失った時の恐怖から。


 自分のせいで、なにかが起こる。

 そのことは、しっかりと心に棘となって深く刺さってしまっているようだ。



「今は幸せそうに笑ってるね」

「そうだね。やっと決心がついたみたいだけど、僕はまだ、渡したくないな〜」



 やっと素直になったかと思えば、それを言葉にすることはない。

 周囲に遠慮して伝えずにいるのだろうが、それは好都合だ。

 リアナの一番近くで、幸せそうな笑顔を見る権利は、まだ渡したくはない。



「…実は、僕も。まだ渡したくない」

「そっか。ルカもリアナが好きだもんね」

「うん。でも、なんて言えばいいんだろう。ハルはいいんだけど、他の人はだめなの。どうしてだろう?」

「そういうお年頃なのさ。たくさん甘えていなさい」

「うん、甘える。もちろん、ハルにもね」



 意外にも、ルカも同じ意見なようだ。

 フーベルトを師匠と慕っているが、まだ子供だ。

 それに、自分が選んだ人間を渡したくはないと言う、本能が残っているのだろう。



「でも、師匠のことも好きだよ。色々教えてくれて、毎日が楽しい」

「彫刻、上手くなったもんね。絵も上手」

「全部、師匠のおかげだよ」

「そういうところもリアナに似たんだね。謙虚でよろしい」

「けんきょ?」

「いい子ってこと」

「ふふ。ありがとう」



 この頃、ルカはリアナに似た笑みを浮かべるようになった。

 うん。大変、かわいらしい。


 ルカは自分の本当の姿について、まだ気付いていないようだ。

 リアナと同じ、普通の人間だと信じきっている。


 初めてルカと出会った時、ルカが神獣であることに気付いてしまったが、それを伝えようとは思わない。

 知らない方が幸せなことも、この世にはある。



「そういえば、リアナは絵を描かないけど、どんな絵を描くの?」

「えっと…。それは、見てのお楽しみかな…」

「じゃあ、今度描いてもらおう。楽しみだな〜」



 知らない方が幸せなこと。

 その代表例が、リアナの描いた動物の絵である。


 なぜか、リアナは動物だけは描けない。

 描けないと言うか、その生物に見えない。

 なんなら、化け物になる。 


 そんな絵を生み出してしまうリアナは、離れた場所で笑みを浮かべている。



「今日のリアナ、今までで一番綺麗だね」

「そうだね。今日のリアナは世界で一番綺麗。ドレスも化粧も、髪のアレンジもよく似合ってる。だけど、あのピアスはだめだよ。目立ちすぎ」

「そうかな。師匠の髪色に似てて、綺麗だけど」

「そこが問題なの!」



 今回、あのピアスを用意したのはクレアだろう。

 フーベルトの髪色によく似た耳に揺れるピアスを、今すぐ取り外したい。



「そう?リアナも師匠のこと好きだから、問題ないんじゃない?」

「ちょっと。それ、本人に言っちゃだめだよ。気付いてないんだから」

「わかってるよ。まったく、リアナはしょうがないんだから」



 ルカにもバレているのに、リアナは一切、自分の気持ちに気づいていない。

 リアナが選んだ相手だし、フーベルトの人柄を知っているので反対はしないが、それでも、取られてしまうのが嫌な気持ちがある。

 なので、リアナが気付くまで、黙っておくことにする。



「国外に出たら、ママは見つかるかな」

「きっとね。色んなところに行くから、いつかは会えるよ」

「もし会えたら、ママにリアナを紹介するの。もちろん、ハルもだよ。師匠のことも」

「そっか。楽しみだね」

「でも、その時には、さよならなんでしょ?」



 ルカの母親は、大人の神獣。

 そして、その神獣に会えた時、これから始まる旅も終わり、ルカとの生活も終わってしまう。

 それを理解しているルカは、悲しそうに目を伏せた。



「きっと、その頃にはリアナと離れたくなくなってるかも…。想像するだけで、寂しいもん…」

「それなら、一緒にここに帰ってこよう。ダリアスもギルバートも喜んでくれるよ」

「そうだね。そうなったら、嬉しいな…」



 この国に帰ってくる時、そこにルカの姿があるかはわからない。

 だが、自分はわがままなので、ルカとも離れたくはない。

 もしルカの母親に会えたなら、首を縦に振らせるまで、説得するつもりではある。



「リアナ、頑張ってるね」

「そうだね。レオンの元で頑張ってたから、それが生かされてる。クレアも喜んでるはずだよ」

「次は、マルクス様とアイリス様だね」

「それが終わると、ギルバートか」



 高位貴族にも堂々と相手をし、礼儀正しく尽くす姿は美しい。

 だが、それに見惚れる令息がいるのに気付かないリアナは、誰にでも同じ笑みを向けている。

 その隣、ピアスと同じ色を持つフーベルトのおかげで口説かれていないが、今後が心配だ。



「そろそろ戻ってあげる?」

「このお団子を食べたらね。ルカも食べてみて」



 団子を皿から取り、一口で食べる。

 ルカも真似をして食べたが、少し食べるのが大変そうだ。

 その姿を見守っていると、ルカはこちらに満面の笑みを向けた。



「もちもち。美味しいね」

「だね。じゃあ、リアナにも持って行ってあげよう。喜んでくれるよ」

「じゃあ、たくさん持って行く!」



 ルカはお皿を用意して、団子を山積みにしていく。

 それを見守りながら、ハルはルカに尋ねる。

 


「ねぇ、ルカ」

「なに?」

「最初は、どこの国に行きたい?」

「海がある国がいいな。夏は海で泳ぐと気持ちいいって、ママが言ってたよ」



 海のある国。


 記念すべき最初に訪れる国は、それで決定だろう。

 また、ギルバートにでも伝えておかなければ。


 この世界で海で泳ぐ文化があるかはわからないが、それはそれで楽しそうかもしれない。

 だが、それに混じって自分が泳ぐことはない。



「そっか。僕は泳がないけど、楽しみだね」

「え〜。一緒に泳ごうよ」

「いやだよ。濡れたくないもん」



 自分は猫である。

 気にせず入る聖獣はいたが、自分には無理だ。

 自ら進んで、水に濡れたくなどない。



「じゃあ、ハルは見守ってて。リアナと一緒に入るから」

「待って。リアナ、泳げるかな。それだけが心配だよ」

「大丈夫。その時は、ハルが助けてくれるでしょ?」



 また、ルカはリアナと似たことを言う。

 本当に、かわいい弟だ。



「もう。ルカもリアナみたいなこと、言うんだから」

「だって、ハルがいれば大丈夫だもん。だから、リアナのところに戻ろう。きっと、寂しがってるよ」

「そうだね。寂しがりやなリアナのところに戻ろっか」



 今はフーベルトがいれば平気かもしれないが、そわそわしている令息を追っ払うのは自分の役目だ。

 それに、誰がリアナの後ろに立っているのか、しっかりと教え込まなければ。



「きっと、リアナとフーベルトじゃ全部は食べきれないから。ルカが渡したい人に、お団子を渡してね」

「わかった。まずは、マルクス様とアイリス様に渡すね」

「そうしよう」



 団子を渡して、家来にする。

 前世であった昔話では、鬼を倒しに行っていたが、今世ではどんな目的なのか。

 それが、とても楽しみである。


 ハルは大量のお団子と美しい白髪のルカを連れて、リアナの元へ戻った。



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