表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/125

12. 実家とお風呂



 作業を終えた職人達を見送ると、リアナは屋敷の前に立っていた執事に声をかける。

 少し待つように言われ、その場で待機していると、レオンとクレアが揃って玄関に現れた。



「お待たせ。ご苦労だったね」

「お言葉、ありがとうございます。本日の作業は無事に終了いたしました」

「そうかい。本当はリアナの仕事ぶりを見ていたかったのだけど、明日からは王都へ行かなければならなくてね。その間は、クレアに相談してくれ」

「なにかあったら、すぐに伝えてくださいね。待っています」

「お気遣いありがとうございます。明日もよろしくお願いいたします」



 下げていた頭の上げ、そのまま帰路に着こうとすると、クレアに手を掴まれた。



「待って、リアナ」

「ん?どうしたの?」

「これを持って帰って」



 クレアの視線を追うと、近くにいたメイドかが大きな鞄を持っている。

 それを受け取りながら、リアナはクレアの方へもう一度向いた。

 


「これは?」

「それはあげるから、気にしないで。子供服なんて初めてで。これからも楽しみだわ」

「ありがとう、クレア。…ほどほどにね」



 自分だけではなく、子供も着せ替え人形として狙われている気がする。

 クレアが楽しそうに子供を見つめているのに気付いて、リアナはそっと背後に隠した。



「今日は馬車を呼んでおいたから、それで帰るといい。ダリアス、リアナ嬢、明日からも頼みます」

「お任せください。子供の服だけではなく、馬車の手配までお気遣いありがとうございます」

「重ね重ね、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします」



 ダリアスとリアナは頭を下げて、今度こそ敷地から出た。

 子供もハイポーションで治療済みとはいえ、二人は気を利かせてくれたみたいだ。

 用意された馬車に乗り込むと、父の住む街へ移動する。



「お父さん。朝はどうやって来たの?」

「乗合馬車で来た。歩いて来るには、少し距離があるからな」

「たしかに。私にはハルがいるけど、お父さんはそういうわけにいかないものね」

 


 ダリアスが住む家とクレアの別荘地とは、少し距離がある。

 リアナはハルに乗って移動するため距離があっても平気だが、ダリアスの召喚獣は人を乗せられるような大きさではない。


 揺れる車内で、リアナは少し一休みする。



「馬さんすごい!」

「力持ちですごいわね」



 子供は馬車が珍しいのか、動くだけで興奮して喜んでいた。

 その様子を見守りながら、リアナはこれからについて考える。


 どこか店や屋台で買って、家で食べるのもいいが、子供の顔色がまだ少し悪いのが気になる。

 それに、馬車の中で服は着替えたとはいえ、髪や体は汚れたままだ。


 できるだけ早く休ませてあげたい。



「お父さん、家になにか食材はある?」

「一人だとあまり料理はしないし、リックと食べに行くことの方が多いからな。ないと思ってくれていい」

「じゃあ、なにか買って帰る必要があるのね」



 相変わらず、家には食材はないようだ。

 今後のことを考えて、色々買う必要がありそうだが、とりあえずは今日の晩御飯と明日の食事分だけにしよう。

 その前に、確認しなければならないことがある。

 


「ねぇ、かわいい子。家に帰る前に、ちょっと買い物をしたいんけど、大丈夫?」

「大丈夫!」



 元気よく答えてくれているが、少し心配だ。

 こちらを気遣って、無理はして欲しくない。

 そう考えるリアナの膝の上で、ハルが伸びをする。



「そんなに心配なら、僕が乗せたげるよ。それなら安心できるでしょ」

「ありがとう、助かる。あのね、ハルが乗せてくれ」

「乗るー!」

「しょうがないな〜」



 ハルに乗るのがとても楽しかったのか、話している最中で返事をされた。

 ハルも嬉しいのか、どこか誇らしげな表情(かお)をしている。


 家の近くの街につき、馬車から降りる。

 せっかくなのだから、食べたいものがあるなら作ってあげたい。



「晩御飯は何か食べたいのはある?」

「あったかいの!」

「僕はクッキー」

「俺はポトフを久しぶりに食べたいな」



 ハルのクッキーは欲望でしかない。

 だが、今日の朝はよく頑張ってくれたので、また作ろうと思う。

 ひとまずは、父と子供のリクエストを採用することにした。



「クッキーはご飯じゃありません、とりあえず、今日の晩御飯はポトフで決まりね」

「ポトフ?」

「ソーセージと野菜が入ったスープよ」

「楽しみ!」



 子供が嬉しそうにしている姿に微笑みながら、店が並ぶ場所へ向かう。

 青果店で野菜とハーブを少し買うと、精肉店で肉とソーセージを買いに向かう。



「まいどあり。リアナちゃん、大きくなったねぇ。お母さんによく似てきているわ」

「ありがとう、おばさん。それなら嬉しいわ」



 父の家といっても、自分が生まれ育った家でもある。

 そのため、この街にはリアナの小さい頃を知っている人が多い。


 もうあまり覚えていない母に似ていると言われると、嬉しくて、なんだかこそばゆい感じがする。


 買い物を終え、賑やかな商店の並ぶ道から少し歩くと、懐かしい家が見えてきた。



「ほら、あの家が私達の家よ」

「へ〜。ぼく、好きだな〜」



 木造の二階建て。

 決して広いわけではないが、とても大切な思い出がこもった家である。


 前に帰ったのは、どれくらい前だったか。

 仕事で顔を合わせるため気にしていなかったが、思い出せないくらい前だった気がする。


 少し苦笑しながら家に入ると、二階の自室に荷物を置き、一階へ戻る。



「じゃあ、お風呂の用意をしてくるわね」

「あぁ、任せた」



 リアナは風呂場へ向かい、子供の汚れを落とすためのお湯を張る。


 幸いなことに、この国では水に関する管理はしっかりしている。

 そのため、蛇口からは水が出るし、給湯器には魔力を流すと使用できるため、お湯にも困らない。

 急いで洗っているのだが、その大きさのせいで少し時間がかかる。



「ふぅ。これぐらいでいいでしょう。相変わらず、このお風呂は広いわね」



 一般的な庶民の家とは違い、この家の風呂場は大きめに作ってある。

 ゆったり過ごせ、大人が二人が同時に入っても狭くない。


 広く作られている理由は、父が昔、国外へ旅行したときに出会った温泉というものに感動したらしく、それを再現したかったらしい。


 木製の少し大きな湯船にお湯を張り終えると、リアナは部屋に戻った。



「じゃあ、かわいい子はお風呂に入ろうか」

「おふろ?ポトフは?」

「ポトフの前にまずはお風呂よ。今は体が汚れているから、綺麗にしてからね」

「え…?ポトフ…」



 悲しげに俯いた姿に罪悪感を感じるが、先にお風呂に入ってもらいたい。

 そう思っているのだが、可哀想なことをしている気分になり、少し心が痛い。



「おふろ…。あ、ハルは?一緒に入ろ!」

「え!やだよ!」



 自分に矛先が向くと思っていなかったのか、先程まで子供のそばにいたハルは、急いでソファーの裏に隠れた。

 そのハルの行動に、子供はしゅんとしてしまう。



「……ハル…」

「なら、俺と入るか」

「ダリアスと?」

「……嫌か?」

「うーうん!一緒に入る!」



 ハルとは無理だが、ダリアスと一緒にお風呂に入れることになり、子供は嬉しそうに笑う。

 クレアからもらった鞄を持つと、ダリアスは子供と一緒にお風呂へ向かった。



「もうお風呂に行ったから、ハルはこっちを手伝って」

「はいはーい」



 子供がいなくなったのを確認し、ソファーから顔を出していたハルを呼び寄せる。



「今日は疲れたね」

「ほんとだよ。僕、もうくたくた〜」

「ふふ。いつもありがとう。ハルがいてくれて本当に助かってる」

「い〜え。それならよかったよ」



 ハルと話しながら、リアナはハーブを紐で束ねた。

 次に、買って来た野菜を洗っていると、お風呂から上がった子供が走ってきた。



「ポトフ〜!」

「濡れたままだと風邪ひくわ。ちゃんと乾かさないと」

「大丈夫!ぼくのポトフが待ってるでしょ?」

「待ってるかもしれないけど、風邪ひいたら食べられないでしょ。もう、しょうがないな〜」



 頭に被っていたタオルを受け取り、子供をソファーへ座らせる。

 ハルは子供の横に座ると、髪を風魔法で乾かし始める。



「ありがとう、ハル!」

「もう、僕が濡れるでしょ〜」



 まだ濡れているのだが、子供はハルに抱きつき、感謝を伝える。

 濡れることが大嫌いなはずのハルはそれを受け入れ、嬉しそうに笑いながら、良いお兄ちゃんに徹している。



「ありがとう、ハル。髪を拭いてたんだが、走っていってしまってな。リアナも入ってきなさい」

「わかったわ、ありがとう」



 ダリアスが子供に続いてお風呂から上がり、リアナもお風呂に入る。



「ふー。気持ちいい…」



 湯船に浸かりながら、今日の出来事を振り返る。


 朝は山で迷子になりかけかけ、そこで子供と出会い、仕事で少し緊張した。

 その子供と一緒に住むことになり、今やっとお風呂に浸かっている。


 たった一日の出来事なのに、なかなか濃い一日だった。



「疲れた…。けど、これから楽しくなりそう」



 リビングの方から聞こえる楽しそうな声に、嬉しさで顔が綻ぶ。



「ほら、こっちにおいで」

「はーい。お願いします」



 リアナはお風呂から上がると、少し離れた場所フェアハルに髪を乾かしてもらう。



「あれ…?」



 ソファーでダリアスと子供が話しているのを見て、違和感に気づく。

 子供の見た目が、お風呂前と変わっている。


 灰色がかった髪は、白髪とは違う美しく輝く白色の髪になっている。

 肌も土の汚れが落ちたのか、肌は陶器のような白さで、その頬はお風呂上がりでほんのり赤い。

 それに、あまり気に留めていなかったが、見る場所によって異なる黄金の瞳は大変美しい。


 まるで、芸術品のような美しさである。



「綺麗。でも……」



 あの黄金の瞳を、自分はどこかで見たことがある気がする。



「……アナ。リアナ!」

「はい!」

「ぼーっとしてどうしたの?もう乾いたよ」

「あ、ありがとう。じゃあ、ポトフを作ろうかな」

「ぼくも!いっしょにつくる!」



 何か思い出せそうな気がしたのだが、ハルの声で現実に戻る。

 またいつか、思い出すだろう。

 ダリアスと楽しそうに話していた子供も、いつのまにかこちらに来ている。



「では、俺は服を洗ってこよう。ここは任せても良いか?」

「ありがとう、お父さん」



 ダリアスに服の洗濯を任せると、リアナ達は台所に立った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ