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108. 守りたい気持ち



 魔力を流し始めて、どれくらい経っただろうか。

 かなりの量の魔力がレグルスに補充され、リアナの魔力はそろそろなくなりそうだ。



「…どう?まだ、必要…?」

「いや、十分だ。久しぶりに、気分がいいな」

「それは…よかった」



 レグルスは満足そうな様子で、立ち上がる。

 どうやら、この賭けは成功したようだ。

 リアナは額から流れ落ち続けていた汗をドレスの裾で拭うと、安堵の息を吐く。

 


「無理をさせたな。だが、おかげで他の魔法も使えそうだ。もちろん、認識阻害魔法も解除してある」

「なら、大丈夫ね」



 レグルスは申し訳なさそうにしていたが、これはお互いが決めたことである。

 そこまで気にしないでほしい。

 レグルスの認識阻害魔法も解除されたので、誰かにここを見つけてもらえるだろう。

 リアナが少し期待していると、上の方から少し大きな物音がした。



「上の方で、何やら暴れているな。もしかしたら、リアナの迎えかもな」

「そんな…。急いで行かなきゃ」

「まぁ、待て。この部屋には鍵がかかっている。他の方法で、ここから出よう」

「それは、どうやって?」



 確かに、この部屋は鍵がかかっている。

 どのような鍵かは分からないが、魔法の場合は厄介だ。

 解除しようとするものに、攻撃魔法が来る場合がある。

 それに、アドルフに部屋を出たことがバレてしまうだろう。

 リアナが考え込んでいると、レグルスは誇らしげに胸を張っている。



「これでもドラゴンだ。特等席で、ファイヤーブレスを見せてあげよう」

「いいの!?」

「あぁ。では、背中に乗ってくれ」



 ドラゴンが得意とするファイヤーブレス。

 それが見られるのなら、危ない気持ちより楽しみの方が勝った。

 リアナは意気揚々とレグルスの背中に乗らせてもらう。



「すごい…!高い、かっこいい!」



 初めて乗るドラゴンに、少し興奮してしまうのは許してほしい。

 リアナはしっかりとその背中にしがみつくと、レグルスの口から炎が吹き出る。



「すごい…」



 ここまで大規模な火魔法は、人生で初めて見た。

 リアナが感動していると、レグルスは翼を羽ばたかせ、空へ飛び上がる。



「綺麗…」

「あぁ、そうだな。美しい星空だ」



 空高く上空へ飛んだレグルスとリアナは、美しい星空に目を奪われた。

 それをじっくり眺めたい気持ちもあるが、それはまた今度の機会にする。



「さて。私はあまり、ここにいてはまずい。よって、リアナを迎えに来たものに渡すが、私のことは内緒だぞ」

「レグルス、ありがとう。また、いつか会いたいわ。今日のお礼がしたいの」

「あぁ、私もだ。次に会った時に、今回の礼をしよう」

「ふふ。約束ね」

「約束しよう」



 約束を交わし、レグルスは地上へ一気に近付く。

 地上の様子を見て、リアナは少し目を見開く。

 先程の衝撃で、屋敷が半壊し、入口の門への道が隔てられている。

 広い敷地、父とギルバート、フーベルト、そしてハルの姿が見えた。

 それに敵対するアドルフは、こちらを見て、唖然としている。



「行くぞ、リアナ」

「任せるわ、レグルス」



 地上へ近付いたレグルスに合わせ、リアナは腕を広げてくれている父の胸に飛び込む。



「リアナ、無事か」

「大丈夫。心配させて、ごめんなさい」

「お前が無事ならいい」



 そのまま父にきつく抱きしめられる。

 父が生きている。それがわかっただけで十分だ。

 リアナはしっかりと抱きしめ返すと、空を飛ぶレグルスを見上げる。



「なぜ、あいつが空を飛んでいる。なぜ、言うことを聞かない!」

「さらばだ、リアナ。また会おう」



 レグルスは転移したのか、一瞬で姿を消す。

 仲間がどこにいるかはわからないが、無事に見つかってほしい。

 空を睨んでいたアドルフは、ダリアスの胸にいるリアナへ視線を移し、再び脅し始める。



「リアナ、さぁ来い。この聖獣が、どうなってもいいのか」

「良くないです。でも、そちらにはいけません」

「なら、お前の相棒を奪うのみ!」



 ハルは他が意識が取られてるうちに、アドルフに近付いていたようだ。

 アドルフはそれに気付いていたようで、香水をハルに向ける。

 あの正体を知るのは、自分一人しかいない。

 そして、助けられるのも。

 リアナは父の腕を解き、ハルの元へ走る。



「ハル!それに近付いてはだめ!」

「これでお前の相棒は、私の駒だ!」



 アドルフは右手に持つ例の香水を、ハルに吹きかけようとしている。

 ハルは避けようとしているが、それも難しいだろう。

 魔法が使えない自分の足の遅さに、リアナは少し悔しくて顔が歪む。


 きっと、もう間に合わない。

 だが、アドルフに大切な相棒を奪われてなるものか。


 リアナは右の手のひらをアドルフへ向け、魔力を流し込んだ。



「…なぜだ。補助装置がないのに、なぜ使える…?」

「それを貴方に、説明する必要はないです」



 リアナは余裕の笑みを浮かべると、気付かれぬように奥歯を食いしばる。


 どうやら、補助装置なしでの魔法の制御は成功したようだ。

 一気に体に熱がこもるのを感じてしまったが、ハルを守れたのなら、それでいい。


 先程のレグルスを真似た火魔法は、的確にアドルフに向けて、小規模で打てた。

 だが、レグルスに魔力を分け、残っていた少ない魔力もハルを守るために使った。

 自分の魔力がそろそろ尽きそうなことを、誰にも気付かれていないようだ。

 そのことに安堵しつつ、リアナは小さく息を吐いた。



「なら、それには耐えられるかな」



 アドルフの言葉と共に、リアナの右腕になにかに噛み付かれた痛みが走る。

 リアナは腕を振り払うと、壁に蛇型の聖獣が叩きつけられた。動く様子が見られず、気絶しているようだ。



「……っ!」



 リアナは噛まれた部分を、痛さから手で握り込む。

 噛まれた時に、体内に何かが入った気がする。

 なにかの毒だろうか。噛まれた部分が、じわじわと熱を持ち始める。



「リアナ、手当を。早く噛まれたところを見せてくれ」



 フーベルトは駆け寄ってきて、噛まれた部分を確認してくれている。

 優しく腕を触られ、自分の異変に気づく。

 


「…フーベルト」

「少し待ってくれ。すぐに終わるから」



 フーベルトに触れられる場所が、熱い。

 触れられた部分以外も、その熱が広がっていく。

 まるで、身体中の血液が沸騰しているようだ。

 それに呼応するように、自分の中に残っている魔力も流れ始めた。

 この異常な魔力の流れは、自分では制御出来そうにない。 

 少し痛いかもしれないが、許してほしい。



「……ごめん、離れて」

「え?」



 手当てをしてくれていたフーベルトを突き飛ばしたのと同時に、リアナの体は炎に包まれる。

 アドルフは急に発現した炎に笑みを浮かべ、目の前から姿を消した。


 リアナを中心とし、周囲は炎に包まれる。

 その場に座り込むと、リアナは自分の体を強く抱きしめた。



「リアナ!」

「まずいな。噛んだ対象に魔力の暴走を引き起こさせるものだったのか」

「ハル、近付くな。燃えるぞ」



 ダリアスは飛び込もうとするハルを止めると、ギルバートの後ろへ退避する。



「…これは…なかなか厳しいな」



 ギルバートは防御魔法を使い、リアナの炎を出来るだけ小さくに留めようとする。

 しかし、少しリアナの力の方が強いようで、少しずつ火の手が回り始めている。



「急ぎ、敷地の入口にいるエドワードを呼んでこい。リアナの魔力が枯渇するより前に!」

「私が行こう。ギル、任せた」



 ダリアスはこの場を任せ、最初に辿り着いた入口の門へ走る。

 ギルバートが苦悶の表情を浮かべていると、フーベルトは横に立ち、自分の補助装置に魔力を流し始める。



「私が行きます」

「しかし、それでは」

「お願いします。リアナの元へ行かせてください、ギルバート様」



 ギルバートは防いでいる魔法の膜を裂き、少し空間を開ける。

 そこを通り抜け、フーベルトは迷うことなく、炎に包まれたリアナの元へ向かう。



「リアナ。落ち着いて」

「フー…ベルト…」



 勝手に消費される魔力に苦しみながら、リアナの体を包む炎も大きくなる。

 しかし、フーベルトは歩みを止めることなく、リアナの前に膝をつくと、優しく声をかける。



「大丈夫だ、大丈夫。前に教えたことを覚えているか?火球の消し方だ。それを意識してくれ。出来るだけ、無心で」



 火球の消し方。自分の消費した魔力を、体内に戻す。

 リアナは意識して戻そうとするが、魔力の消費量と戻る量が釣り合っていない。

 自分だけでは、限界がある。



「少しの間、我慢してくれ」



 フーベルトに優しく抱き締められ、リアナの周りを覆っていた炎は少し弱まり始める。



「ほら、大丈夫。これは全て、悪い夢。次に起きると、いつもの光景だ」



 悪い夢ならば、早く醒めたい。

 こんなに苦しいのも、怖いのも、寂しいのも、もうたくさんだ。

 早く、家族の元へ帰りたい。


 急速に失われていく魔力に、少しずつ意識が遠のきはじめる。

 リアナは無意識にフーベルトの背中に手を回すと、ふんわりと抱き締め返す。



「……フーベルト…」

「リアナ、おやすみ」

「おやすみなさい…」



 先程、魔法を使ってしまったことで、もうほぼ魔力が残っていない。

 リアナは、更に息が苦しくなるのを感じる。

 だが、自分の名前を呼ぶフーベルトの優しい声に、心が安らぐ。


 胸があたたかくなるのを感じ、リアナは安心してそのまま意識を手放した。



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