表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/125

101.壁の補修工事の立ち会い



 読んでも読んでも終わらない、手紙の山。



「ふー。まだまだあるわね」



 リアナは少し手を止めて、苦笑いをする。



 朝、いつも通りに商会に来たリアナは、配達人によって運ばれる箱の山を見た。

 きっと、仕事に関連する物が届いたのだろうと思っていたが、その荷物の確認を行っていたリックに呼ばれた。

 リックの横に並び、リアナもその中身を見て、戸惑いを隠せなかった。


 箱の中身は、商会に届けられた仕事の手紙。

 しかし、ここまでの量は、商会を始めてから一番の多さになるそうだ。

 その手紙の大半がガラスに関する注文についてで、リックと手分けして読んでいるが、なかなか終わらない。



「よし、頑張ろう」



 再び手を動かし始め、ガラスとそれ以外の仕事に分けていると、リックから声をかけられる。



「少し休憩しよう。さすがに、この量は目にくるよ」

「そうですね。読んでも読んでも、終わりませんから」



 リックの声に、リアナは前のめりになっていた姿勢から、少し椅子に寄りかかる。

 確認できた手紙は、まだ四分の一にも満たない。



「ガラスの依頼の受付日、初日にこの量とは。シュレーゲル侯爵様の効果は、凄いね」

「ここまでとは思いませんでしたが…。有難いことです」



 ギルバートのおかげなのか、お披露目会の招待客のほとんどが注文してくれたようで、名簿に載っていた名前もちらほら見える。

 しかし、驚いたことに、貴族のみならず、店舗やギルト、学院からも手紙も届いた。

 これからしばらくの間はとても忙しくなりそうだが、本当に嬉しい限りである。


 リアナは満足げに笑みを浮かべると、手紙の山から、新しい手紙を取り、中身を確認する。



「午後からは、学院の頃の友人の元へ行くんだって?仲はいいのかい?」

「よくしていただいてました。浮いた噂が、多い方でしたけど」

「心配だけど、ダリアスがいるなら安心だね」

「大丈夫ですよ。良き友人です」



 リアナは話しながら、仕事内容ごとに手紙を分ける。

 学院の頃、浮いた噂が多かったアドルフに、自分は特に気にならないのだが、周りはよく気にしていた。

 それと同じように、リックは気にしているようだ。


 リアナは昼まで手紙を分け終えると、昼食と休憩を挟み、再び手紙を分ける。

 しかし、そろそろ出る時間なので、あとは任せるしかない。



「あとはお願いします」

「ルカにも手伝ってもらうから、大丈夫だよ。気をつけてね」



 手伝うと言っても、分けた手紙を各代表者の机に置いていってもらうだけだろう。

 きっと、ガラスの注文の手紙は、ルイゼの机に置かれるはずだ。しかし、あの量は机には乗り切らない気がする。

 早く商会へ帰ってきて、これを見たルイゼの驚く顔をぜひ見たい。



「いってらっしゃい!」

「では、いってくるわね」

「リアナ。帰ってきたら、絵を見てね。リアナのために描くから」

「まぁ、楽しみ。ありがとう、ルカ」



 元気なルカに、とても癒される。

 フーベルトの机はすっかりルカの机と化し、色鉛筆や紙が大量に置かれている。

 そこに、ルカに宛てたフーベルトのメモ書きもあり、少し笑みが溢れる。

 今日は、自分へのプレゼントがお題らしい。

 ルカの頭を撫で、鞄を持ち部屋を出ると、階段の前でハルに止められる。



「ねぇ。僕も行く…」

「それは難しいわ。ルカと一緒に、ここで待っていて」

「じゃあ、行かないで」

「ハル。今日はどうしたの?」



 仕事に行かないように願うハルは、すごく悲しそうな表情(かお)をしている。

 いつも仕事へ行く自分を笑顔で見送ってくれていたのだが、今日は珍しく渋って、引き留めてくる。

 そんなハルを、リアナは一度抱きしめる。



「なんだか行かせな方がいい気がする。行かないでよ」

「友人の屋敷で工事をするだけよ。なにも心配なことは無いわ」

「でも…」

「ハル、これは仕事よ。それに、何かあればすぐ呼び出すわ」

「…わかった。絶対に、約束だよ」

「えぇ。約束」



 ただ遊びに行くのなら断ることはできるが、今日は仕事である。

 簡単に断ることはできない。

 なにが不安なのか分からないが、ハルとしっかりと約束をする。


 ハルが事務室へ戻ったのを確認し、階段の下を見ると、父の姿が見えた。

 リアナは一階に降りると、そのまま商会の所有する馬車へ乗り、前回訪れた屋敷へと向かう。



「珍しいな。ハルがあのようなことを言うとは」

「確かに、少し心配だわ」



 階段の下からハルの先程の行動を見ていたのか、ダリアスは少し眉根に皺を寄せる。

 確かに、いつもは見送るハルが引き留めたのだ。少し心配ではある。



「大丈夫だ。俺もいるし、補助装置もつけているな」

「えぇ。大丈夫よ」

「それに、なにかあればハルも呼び出せるしな」

「そうね。それにアドルフ様のことは、クレアも知っているわ」

「そうか。なら、安心だな」



 父のその言葉に、身につけているピアスとネックレスに触れる。

 補助装置も、召喚用のネックレスも、ちゃんとつけている。


 ふと、少し前のことを思い出す。

 そういえばクレアは、アドルフの屋敷に訪れた日に、自分の無事を確認しに来た。

 結局、勘違いと言われたが、少し気がかりだ。


 リアナは、ネックレスに触れると、気持ちを落ち着かせる。

 これから仕事なのだから、余計なことは考えないほうがいい。


 しばらく動いていた馬車が止まり、目的地についたようだ。

 馬車を降りると、屋敷の入口にアドルフの姿が見える。



「よく来てくれたね。母は今日は神殿に行っている。壁の補修は、内側と外側、両面からできるよ」

「お気遣い、ありがとうございます」

「リアナもよく来てくれた。無理を言ってすまないね」

「いえ。これも大事な仕事ですので」



 きっと、ガラスの注文が今日から始まることを、知っているからだろう。

 申し訳なさそうな表情(かお)をするアドルフに、リアナは笑みを返す。



「私は外で作業をしますので。何かあれば、リアナにお願いします」

「わかりました」



 今日は、壁と屋根の職人達を連れてきている。

 リアナは屋内、父は屋根の補修の立ち会い、工事を見守る。



「部屋の中へ、入ってもよろしいでしょうか?」

「えぇ、扉は開けたままにしておきましょう。自由に出入りしてください」

「ありがとうございます」



 部屋に入ると、職人に問題の箇所の壁を確認してもらう。

 作業自体は難しいものではないようなので、任せていいだろう。

 リアナが壁の補修を見守っていると、アドルフの声が耳に入る。



「職人の方々は器用だね。実技の授業は苦手だったから、正直羨ましいよ」

「こういうのは、慣れだと聞きます。きっと、アドルフ様もできるようになりますよ」

「そうかな?今からでも頑張ってみるかな」

「えぇ、ぜひ」



 そのまま会話を続けていると、作業が終わったようだ。

 リアナは職人に説明を受けながら、一緒に確認をしていく。

 そして、確認を終えて部屋から出ると、廊下に父と職人の姿がある。

 


「屋内完了しました」

「屋外も完了した。これで、壁が腐ることはないだろう」

「そうね。一安心だわ」



 短く報告を済ませると、リアナはアドルフの方へ向く。

 父が話し出すのと同時に、頭を下げる。



「工事、全て完了しました。本日は、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。母が喜んでくれるといいのですが」



 顔を上げた先、少し照れくさそうに笑うアドルフに笑みが溢れる。

 母親想いの優しい息子なのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ