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 空はうっすら夕闇に包まれている。時間帯のせいかあまり人が歩いておらず、二人分の足音が耳に響く。


 そう言えば、話ってなんだろう?


 今日は悩んでそう? だったから、後でなっちゃんとの時間を作ろうと思ってたけど、私の中では家でお母さんも交えての予定だったんだよね。

 隣にいるなっちゃんは、いつもと雰囲気が違う感じがしてちょっと落ち着かないよ……。


 ぽん、と頭になっちゃんの手が乗る。見ると目があって、なっちゃんはフワッと優しく笑う。

 昔っから、なっちゃんはこういうタイミングで私を安心させるように撫でてくれる。

 こんなお兄ちゃんがいたらいいなってずっと思ってて、今でも思ってる。

 そんな兄みたいな、なっちゃんが大好きで幸せになって欲しくて……、葵くんの言うヒロインじゃなくて普通の乙女ゲームの優しいヒロインなら応援するのにな。


 「あ、公園入る前に飲み物買うか。ゆう、何飲む?」


 声をかけられて顔を上げると、なっちゃんが自販機の前で財布を出してこっちを見ていた。


 「あっ自分の出すよ!」

 「いいよこれぐらい夕飯ゴチになったし、何がいい?」

 「いいの? ゴチしたのはお母さんだけどね?!」

 「ははっ! いいよ」

 「んーーじゃ、お茶くださいっ」

 「ん」


 返事をしながらボタンを押すと、ガシャンと音を立ててペットボトルが落ちてくる。取り出し口から取ると私に差し出す。


 「ありがとなっちゃん」

 「おう」


 ちなみに、なっちゃんはお水を買っていた。昔は炭酸系買ってたから今回も炭酸系かと思ってたよ!

 少し会わなかっただけでちょっとずつ変わってたなっちゃんを知らなかった事に、少し寂しく思いながら促されるまま公園のベンチに二人で腰掛けた。


 「アイツ……、王子の事好きなのか?」

 「うえっ!? う、うん好きだよ! だから付き合ってるんだよ!」


 葵くんの事を聞かれて体温が急激に上昇する。

 話って、葵くんの話か!! えっ?!もしかして仮の彼女だってバレた?!

 好きなのは合ってるんだけど、付き合ってるフリなんだよね、そんな事言えないけど。


 「……ほんとに付き合ってるのか?」

 「うん、付き合ってるよ……?」


 沈黙。

 黙ったまま見つめてくるなっちゃんが、とてもすごく、……いやかなり気まずい。

 でも今目を反らしたら、嘘っぽいから頑張って見つめ返す。


 「……ふぅん?」


 目を細めてなっちゃんが嬉しそうに相槌を打つ。

 あっこの返事の仕方は信じてませんね?! ここでむきになるのもおかしい気がするし、どうしよう!


 「俺達、幼馴染みで付き合い長いよな」


 にっこり笑いながら言うなっちゃん。


 「? うん、そうだよね」


 つられてにっこり笑う私。


 「ゆうの嘘吐く時のクセ出てて、嘘って分かるんだけど」

 「えっ?! どこに?!」

 「対策とられるから言わねぇ」

 「ずるい!!」


 ハッとして、なっちゃんを見ると意地悪そうに笑う顔で私を見ていた。

 ぶわっと汗が出るのを感じる。


 「やっぱり付き合ってねぇんだな」


 ノオオオオオオオオオ!! バレた!!!!


 「いやいやいや、付き合ってるよ!」

 「あ、分かった。お前ら付き合ってるフリ(・・)か」

 「?!」

 「ゆう、お前自分が思っているより全然分かりやすいからな? ……まぁ、そこも可愛いんだが」


 後半は声が小さすぎて聞こえなかったけど、えっ私ってそんなに分かりやすいの?! 


 「ゆうの事だから面倒に巻き込まれてるんだろうけど、何かあったら悩まないで相談しろよ。俺も一緒に考えるから」

 「……っ」


 なっちゃんは本当優しい。私、なっちゃんの幼馴染みで良かったよ。


 「……うん、ありがとう。でもちゃんと付き合ってるからね?!」

 「はいはい、そう言う事にしといてやるよ。……取り合えずな」


 また微妙に後半が聞き取れないんだけど何だろう?

 なっちゃん嘘吐いてごめんね。でもね、葵くんの事は確かに面倒なんだけど巻き込まれて良かったって今は思ってるんだよ。

 巻き込まれなかったら、葵くんと仲良く出来なかったしドキドキで心臓が大変なんだけど好きな人と一緒に居れるのが今は幸せなんだ。


 「あれ? 桐島先輩?」


 この聞き覚えのある可愛い声はもしかして!?


 振り返ると、そこにはヒロインがゆっくりこちらに向かって歩いて来ていた。

 おかしくなる、そう葵くんに言われてからちょっと息を飲んで身構えしまう。


 やっぱりヒロインだ! あれ? ヒロインとなっちゃん知り合いなの?!


 「こんばんは、桐島先輩。こないだは助けてくれてありがとうございました」

 「あーー、別に気にすんな」


  笑顔で話すヒロインと、何故か私をチラチラ見ながら話すなっちゃん。

 見た限りだとなっちゃんがおかしくなる様子はない。もしかしたらなっちゃんは大丈夫なのかな? まぁ、まだ分かんないけど……。

 あっ、また目が合った。 もしや私はお邪魔かな?! なっちゃんが心配だけど葵くんに近付くなって言われてるし、私は帰った方がいいかな……?


 「あっじゃ、私はこの辺でーー……」

 「行くな」


 さりげなく立ち去ろうとしたら、なっちゃんに後ろから抱き竦められた。

 ちょっと動いたけど、がっちり抱き締められてて動けない。


 えっちょ、なっちゃん! 動けないから!! 


 「えっと? お二人はお付きあいしていらっしゃるのですか?」


 え?! ヒロインいきなり何言っちゃってるんだ?!


 「まだ付き合ってねぇけど、いずれ付き合う」

 「なっちゃんも何言っちゃってんの?!」


 なっちゃん、君は突然何を言ってるのか!

 あれ?! もしかしてなっちゃんも葵くん達と同じでヒロインの事が苦手で避けようとしてるの?!


 なっちゃんの言葉を聞いてヒロインは笑みを浮かべる。その笑みは綺麗すぎてゾッとする様な笑みだった。


 「やっぱりそうなのですか。あっ、初めて名乗りますね? 私は和泉愛(いずみまな)仲良くしてくださいね、山里悠莉さん」

 「違うからーーって、……私を知ってるの?」

 「王子くんと一緒にいる子って初日から有名人ですよ」


 葵くんが目立つからね! 一緒にいる私も目立ってるって事かああああ! 悪目立ち嫌すぎる!!(血涙)


 「私の事は愛って読んでください。良かったら、悠莉って読んでもいいですか?」


 目がぱっちりキラキラしててやっぱり可愛い。

 でも仲良くしないって決めたから、ここは一回断って距離を感じる苗字で始めるべきだよね!


 「……うん、いいよ愛」


 あれ?! なぜか勝手に口が動いて返事してる!!

 彼女、ーー愛から目が話せない。

 愛が私に近付くと手を取って両手で握る。


 「嬉しいです、私初めて会った日からずっと悠莉と仲良くなりたかったんです宜しくお願いしますね」

 「宜しくね」


 焦る私の心とは裏腹に、愛に向けてにっこりと笑顔を浮かべてるのが分かる。


 なんで?! 勝手に体が動いてるよ?!


 葵くんと約束する前は、愛と仲良くなりたかったから友好的になるのは違和感無かったけれど、仲良くしないって決めてからその気持ちで目の前にすると、違和感が酷すぎる。

 拒否しても体が勝手に動いて何故か愛に友好的な態度になってしまう。


 こんなの嫌だよ。動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!


 「悪ぃな俺ら用があるから、もうそろそろいいか?」

 「「!!」」


 私に目隠しをする様に後ろから手を顔に被せながら、なっちゃんは愛に言った。

 視界が遮られ、愛が見えなくなって安心する。


 「……、ええ取り込み中失礼しました。また明日、お話ししましょうね悠莉」

 「うん、また明日ね」


 少しずつ遠ざかって行く彼女に手を振りながら、体が自分の意思で動くか確認する。


 ……怖い。自分の体が勝手に動くなんて思いもしなかったよ。今更ながら震えたら、なっちゃんの抱き締める力が強くなった。


 そう言えば、なっちゃんに抱き締められてたんだっけ。伝わる体温に安心してきたからか、段々震えが止まってくると同時に涙が出た。

 小さい頃からなっちゃんに助けられてばっかりだよね。しっかりしないと心配かけちゃう。


 「……なっちゃんありがとう」

 「……あぁ、大丈夫か?」

 「うん、もう大丈夫だから」


 そう言って私を囲む腕を引っ張ると、そっと離してくれた。

 袖で軽く涙を拭う。


 「さっき、ゆうの様子がおかしかったのは見間違いじゃねぇよな?」

 「うん、そうなんだけどごめんね、今はちょっと話せないんだ」


 なっちゃんに乙女ゲームの事をどう話していいのか分からない。兎に角、葵くんと話がしたい。それからなっちゃんに話すのは遅くないと、思う……。


 「俺は俺で、勝手にお前を守るから気にすんな」

 「え?」

 「ん?」


 口を開けて見上げると、頭をかきながら照れ顔のなっちゃんが私を見つめている。


 「さっきみたいに、ゆうが泣いたりとか嫌なんだよ」

 「あっありがとう! なっちゃん!」

 「おう」


 私がお兄ちゃんの様に慕ってるのと同じで妹の様に思ってくれてるのかな? だったら嬉しいな

 思いながら笑顔をなっちゃんに向けると、大きな手が私の頭を撫でる。


 優しいなっちゃんが幸せになりますように!


 そう思わずにはいられない。






**********





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 from 王子葵


 to 山里悠莉


 件名 先程はありがとう


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悠莉、今日はありがとう! とても楽しかったよ。

さとさんにも宜しく伝えてね。夕飯とても美味しかったです。


そう言えば、言っておくけど今日もしかしたら桐島とヒロインのイベントがこれから公園で起こるかもしれないから、悠莉は巻き込まれない様に外には絶対出ないようにしてね?


桐島は男だしどうにかするだろうけど、一応これからちょっと様子見てくるから変になったらフォローする予定。


じゃあ、また連絡するね



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 from 王子葵


 to 山里悠莉


 件名 悠莉メール見てなかったね?


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今回のイベントはヒロインがしつこいナンパに絡まれて、それを桐島が助けるイベントなんだけどそれが起きないでなぜか悠莉達と談笑していたよね?


またヒロインと対面して悠莉がおかしくなってたけど、それを桐島が助けた様に見えたけど合ってる?

本当は俺が助けたかったけど、変に介入して拗れたら困るから我慢した。


悠莉大丈夫? 今回も自覚ないかな? 正直、桐島がいて良かったよ。

桐島について提案があるから、詳しくは明日会った時にでも話すね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「ああああ葵くん! ごめん!! メール見れば良かったよ!! ごめんなさいいいい!!!!」


 家に帰ってメールを見た私は、顔を青くして携帯に土下座しながら謝った後すぐに返信したのであった。






 

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