決断は2人で
「……うっ……」
身体に激しい痛み。視界がぼんやりとしてよく見えない。1回1回呼吸するたびに胸が苦しい。
「ゆ……たか……ど、こ?」
良く見えない視界の中で必死に優孝を探す。指先に何かを振れた感触。そちらの方に這いつくばりながら進むと、ぼんやりとだが優孝が見えてきた。仰向けになって倒れていた優孝の頭からは、血が流れていた。
「ゆた、か……しっかり。わ、私の声聞こえる?」
弱弱しい声で優孝に声を掛けるが何も答えてくれない。
「ご、ごめんね……私のせいだよね。あ、歩いて帰ろうなんって言わなければ……うっ」
口から血が漏れ、優孝の顔にかかってしまう。ゆっくりな呼吸をしている優孝の顔を見下ろして夏織は、泣いてしまう。この状況になったのは自分のせいだと責める。
「な、何か言ってよ。ねぇ……優孝、優孝……あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
意識が薄れていきながら声にならない叫び声を上げながら、優孝の胸に力尽きた夏織。
彼女の胸にはトラックが運搬していた長細いパイプが胸を貫通していた。
「ミーヤ!急いで!」
「分かってる!」
病院から連絡を受けたカルネとミーナは急いで搬送された病院に向かっていた。
到着して手術室に向かうと夏織の両親が先に到着していた。2人は依然、夏織の家に行き夏織の母親に会ったことがある。
「か、夏織様のお母様」
「あ、あなたたちはこの前の」
「じゃあ優孝様と一緒に事故に巻き込まれたのは夏織様」
「2人は歩いてウチに向かう途中で巻き込まれたみたいなんです」
「何故バスを使わずに……」
手術が始まってから1時間、3時間っと何も進展がないまま時間が過ぎていった。
――ウィーン。手術室の扉が開き医師がやってきた。
「男の子の方の身内の方は」
「私たちです!」
少し間をおいてから医師が言った。
「……手を尽くしましたが。経った今、脳死状態に陥りました」
脳死。それを聞いた瞬間にカルネは膝から崩れ落ちた。
「……優孝様」
「女の子の方も危険な状態です。貫通したパイプが心臓に深刻なダメージを与えてしまっていて、このままだと生き延びることは難しいです」
夏織の母親は泣き崩れ旦那さんが支える。この場にいる誰もが絶望感に襲われ無気力になる。
そんな時に医師がこう言った。
「ただ、一つだけ女の子を救うことが出来ます。……男の子の心臓はまだ生きています。それを移植すれば助かる可能性があります」
医師の提案にカルネがフラフラな足で立ち上がる。
「な、何を言ってるんですか?優孝様。まだ生きてる。脳死だからって言って死んだって決めつけないでくださいよ!」
医師に掴みかかろうとしたカルネの肩を掴んで、頬をビンタしたミーヤ。
「ミーヤ。何をする!?」
「……カルネ。もう、無理だよ」
「何を諦めている!まだ、優孝様の心臓は動いてるんだよ!少ししたら……」
下を向いていたミーヤが歯を食いしばりながら、カルネの肩を掴んで壁に押し付ける。
「脳死になったらもう帰ってこない!ずっと機械に繋がれたまま病室で眠らせるのは……酷いよ!優孝様の心臓で夏織様を助けるの!」
いつも控えめのミーヤがこれまでにないほどに感情的で別人のようだ。
「……奥様に連絡しないと」
また、カルネの頬にビンタを浴びせる。
「時間がない!私たちで判断するの!夏織様を助けるか、2人とも見殺しにするか!……決めよぉ。カルネ」
最後の方は、勢いがなくなり泣きながらカルネに訴えた。




