平和な国の子供のいたずら
今日が女祭りの最終日。
城の中は無礼講で酒が入って大変なことになっているらしい。
アモンはおれの量肩に手を置いてため息をついた。
「お前城の中に入れなくてよかったな。女性の神秘とかいっきに砕け飛んでしまうさ。」
お前も女だろうという突っ込みは怖くて出来ない。
アモンたちが城から出てきたので、おれは通っていた道場へ案内した。
道場の真ん中まで進んだアモンを無数の光点が取り巻き、ふっと消えた。
なにがどうなったんだ?
アモンは木で出来た剣を一振り取り出して振り上げおろした。
「これでこの練習したほうがいい。」
あまりにも決まった流れるような美しい動作に、危うく投げ渡された剣を取り落とすところだった。
「世界最強の達人が練習した剣さ。それやるから、今の動作だけ修行しろよ。」
なんなんだ?あいつ。
渡された剣は見かけ以上に重く、いつも使っている剣以上に俺の手になじんだ。
なんなんだ?この剣。
とにかく、振ってみた。
?
何かが違う。
ヒュッ
?
おかしい。
ビュッ
でもない。
「ほっといて行こうぜ、ありゃぁ時間がかかりそうだ。」
そんなアモンの声が聞こえたような気がする。
******************************************************
決勝で対戦したシェリーさんもカイル君と同じアインの通っていた道場の門下生で、案内された場所に見知った顔があったので驚いた。
世の中はせまい。
剣の道を究めて最期に精霊となる。
そして後に続く者たちを導く。
俺はそんな先達を尊敬する。
しかし俺は剣士ではない。
俺が優先するのは目的を達成し生きて帰ることだ。
俺はうじゃっと湧いた剣士たちを広範囲にばら撒いた魔力球で殲滅した。
何かしらいびつで欲求不満な道場の空気は、木剣での一振りによって霧散してしまった。
武道大会で使った力だけの一振りではなく、全霊を込めた一振りだった。
剣も使えれば文句はねぇだろ。
呆けているアインに木剣を渡した。
これは俺が尊敬する師匠にもらった剣だ。
ゼムじゃないぞ!
旅に出る前になる。
俺はアモンに竜帝がアヌの深淵にいることを聞いて、すっとんで会いに行った。
そこで、武を練っている竜帝の姿を見たとき。
初めて思った。
勝てない。
だから頼み込んで弟子にしてもらった。
実年齢は俺のほうがチョイ上なんだけどぜんぜん問題なし。
隣のエルフさんに年の話はし無かったよ、エルフで女性だから、俺賢いから。
汚い勝ち残り方はたぶん俺が上なんだろうけどそれも問題なし。
だってさ、かっこいいんだもの全て問題なし。
誰も来ないし、思いっきり暇だったんだと。らっき~♪!
道場から出てドアをくぐった時、アインたちの気配が消えた。
気配が残ったのは後ろを歩いていたカイル君とシェリーさん。
「依頼の受領はいたずらでした。明日お城に行ってそう謝って来い。それで全てが丸く収まるはずだ。」
俺はシェリーが抜きかけた剣の柄を押さえて言った。
カイルの顔が押し付けられた短剣で歪む。
「いつから気が付いていたの?」
「大会の控え室からさ。あの城で殺気をはらんでいたのが一人しかいなかったんだ。何人か捕まっていたのはこそ泥だろう。姫さんとブロックが違ったのが不幸だったな、勝ち残れば確実に対戦できると思ったんだろうが途中に俺がいたからな。一発でけりをつけようってのは甘すぎるぞ。」
俺は短剣を引いた。
「ホロウハンドは何十年も仕事をしてないらしいし、お前らも人を殺したことが無いようだ。ここの精霊で危ないやつらは消滅させておいた。」
人をのろう悪霊、たぶんそれが真のホロウハンドだったのだろう。
護衛の人たちから聞いたことや昔の資料を検証していくとそういう結論になった。
「いたずらにしておけ。子供っていたずらをしては叱られて許されるものだ。」
次の日またディアナ姫が朝食を食べに来た。
「もう祭りは終わったんじゃないですか?」
「だって、アモンの料理がおいしいんだもの。」
「それは光栄ですが。」
「あ、そうだ、結局暗殺ってこどものいたずらだった。おしりを10回もぶったたいてやったよ。」
と姫さんは上機嫌だった。
その日のうちに城を辞したが、賭けで勝ったお金を受け取るとかで一日牛車ですごした。
姫さんなんでまたテーブルに座っているんだ?
なんで料理当番表に俺の名前しかないんだ?