弟子入り
俺たちは賭け屋で知り合った少年、カイルの案内で町外れまで来た。
木立の中にひっそりと建った道場、掃き清められた土の床からかすかに香る血と汗。
その真ん中に佇む人影に思わず声をかけた。
「一手ご教授お願いします。」
自然にたたずむ姿に全く隙がない。
俺は替えに挑み、地にはいつくばった。
何がどうなったのか、たしか・・
「お兄ちゃん!」
「ぇ?逆じゃねぇの?」
ややこしいいつもの説明のあと、
「アインさんってかなり剣を使えるんだ。強い人ほど長い時間消えて、出てきたと思ったらひっくり返ってるんだ。」
「もういっかい。」
「一日一回だけだよ。」
気が付いたらまた床で寝ていた。
「アインさんなんかわからないけどすごいね、2回続けて消えた人初めてだよ。」
「まだまだ。」
「アリス、悪いけど俺しばらくここにいる、カイルと見物に行ってくれ。もう一回!」
結局おれは昼も食べないで、夜までそこにいた。
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料理大会は初日に行われる。
材料確保のために他の日だと男手が使えないからだ。
お昼までに一品を百人ぶん。
参加申し込みが遅くなったため、高級食材は別の参加者にほぼ抑えられてしまっていた。
しかし俺が使いたかったものは誰も手をつけず、大量に残っていた。
そして、審査が始まって20分が経っても俺の料理は誰も手をつけずそのまま残っていた。
極薄くスライスされた生の白い切り身が2種、氷の上に花の形に美しくもりつけられている。
みんな手に取ってくれるのだが、食材の名を聞いて元に戻す。
悪魔の魚ハポンと猛毒の魚ハッピー
うまいんだがな、この世界では限られた民族しか食べない。
俺としては始めから勝つつもりも無く、この手に入れにくい食べ物をそのまま持って帰ることに重きを置いた。
「こんなところにいたのか?探してたんだぞ?これはおいしそうだな。」
ディアナ王女が近づいてきた。来なくても良いのに。
「殿下おやめください、ハッピ-とハポンと書いてございます。」
「ん?ハポン焼きはおいしいし、ハッピーといえば毒を抜くための調理が難しいが、最高の食材だぞ?不死王に仕えたという料理人が調理したのを一度だけ食べたことがあるが魚ではこれが一番だぞ?」
俺は、一礼した。
「ゼムの弟子でございます。」
プロムの実から作ったたれをかけると、白い花びらがピンクに染まり、さわやかな香りが立つ。
「殿下、私がまずお毒見を。」
王女についてきた少し年配の婦人は、おそるおそる一口食べて、残りをむさぼるように食べてしまった。
暫く動きが止まっていたが、周囲の視線を集めていることに気付いて真っ赤になった。
かわいい人だな。
「私としたことが下品な食べ方をして申し訳ありませんでした。とてもおいしゅうございました。」
「女官長、だから言ったではないか。」
王女は優雅にに皿をもちあげた。
大会は無事に終わり、俺は他の何人かとともに王室秘蔵の果実酒を一瓶もらった。
料理は楽しくおいしく食べれれば良いので、あえて順位の発表は無かったが、おれの料理も参加者に気に入ってもらえたことは確かだ。
その夜、夕食を食べに来た王女に、弟子を二人押し付けられた。
ハッピーの調理法を伝授しろだと。
二人とも腕ものみこみもよく、朝にはひとりで捌けるようになっていた。
俺、寝てませんけど、これいじめですか?