淑女のたしなみ
俺は軽やかに御者台から飛び降り、偽装を全て取り払った牛車の重厚なドアを大きく開ける。
いかん、やさしく微笑みかけられて一瞬意識が飛んでいた。
周囲の男どももまだぼうっとしてるやつが多い。
じっくりと眺めて耐性をつけているはずの俺でもこの体たらく。
俺たち男どもをノックアウトした美女軍団は城の女官に出迎えられて今最初の角を曲がり奥へと消えて行った。
ちょっと化粧をしてドレスアップしただけと言うのになんて化け方しやがるんだ、女は怖い。
年に一度、ナーギャの王様は家来を引き連れて、大規模な狩りに出かける。
その間、城はほぼ女達だけとなり、女官達の娯楽と慰労をかねて女祭りが催される。
本来ならば主が招待されているので城の厩舎に牛車を繋がないといけないのだが、この期間は男たちが城から追い出されるので城下に泊らないといけない。
男に決して見せてはいけないと言う無礼講の中日を持つ祭り、見たいような見てしまってはいけないような悩みを持ち越して次の朝を迎えた。
久しぶりにアリスと並んで歩く街中はどうも居心地が悪い。
どう見ても俺がかなり年下の弟にしか見えないからだ。
人の流れにそって街を見物しながら歩いていると一枚のチラシを手渡された。
”武術大会掛け率大予想”だと?
一番人気は近衛軍第2師団長のディアナ王女、ふむ、姫だから周りが手をぬくんだろうな。
二番人気は第2軍セリナ千卒長、きっとごっついんだろう。
三番はなんちゃら公爵家の・・・
「シェリー姉ちゃんが一番強いよ!」
確かにその名前の持ち主は一番強い。
「違うもんアモンの方が強いもん。」
なんだと?
人ごみを掻き分けると賭け屋の前でルーナと少年が言い争っていた。
周りをおじさんたちがニコニコしながら取り巻いているから危険なことにはならないと思うけど。
しかしアモンって・・出ているな。
「その二人の組み合わせなら対戦ブロックが別だから決勝対戦だ、一口銀貨一枚だよ。」
ルーナは口をへの字にまげてパシッと銀貨を一枚置いた。
「ほい、ありがとう。」
少年は悔しそうに見ていたが、財布を出して銀貨を一枚置いた。
「ほい、まいど、二人とも予備予選組みだから決勝に出れたらどっちが勝っても当りだよ。仲良く応援しな。」
なんかうれしくなった俺も1枚銀貨をとりだした。
「俺「わたし」もおなじ「の」やつ。」
おなじく銀貨を出したアリスと声がかぶってしまった。
「お連れさんですか?ありがとう。」
「わたし達この街は初めてだから、どこで応援したら良いかとかよくわかんないから案内してくれるかしら。」
「うんいいよ、しばらく休みでひまだから。」
「これ案内のお礼。」
アリスは少年に一枚の銀貨を渡した。
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ソフィアさんとユリアちゃんはびっくりするくらい美しくかわいく化けた。
アモンでさえでれ~としてしまっている。
城の客間に案内された俺たちは王宮の侍女から申し訳なさそうに説明を受けた。
祭りの期間、女達は全て仕事を休むので、身の回りのことは全て自分達でしなければならないこと。
保存食はたくさん作り置きされているけど、暖かい食べ物はそれぞれの部屋で自分で調理しないといけないこと。
侍女1名、メイド2名指定はこれが原因だった。
俺たちは荷物を片付けた後簡単にお昼を取り、ユリアちゃんはソフィアさんと挨拶回り。
レイは使用人達の打ち合わせに出かけ、俺はひとりでお茶のしたく。
何人かお客様を招待するとのことだったので、あえて保存できないケーキを焼いていると、窓の外の中庭を武装して歩く人と目が会った。
その人物はフルプレート装備にもかかわらずすべるように音もなく近づいてきて、、
「おいしそうな匂いだね。」
「主が留守ですのでご招待できませんが、もしよろしければお持ちになってください。」
ちょうど出来上がったホールケーキを箱に入れてお渡しした。
「ありがとう、これに君の名前を書いて城の女官に渡しといてね。」
武術大会参加申込書。
「え?」
「わたしが気配を消していたのに気が付いただろ?護衛も兼ねているんだね。楽しみにしてる。じゃ、また。」
ちょいとまずいことになった。ま、いっか。
しかし重装備にケーキの箱は似合わないな。
アインから念話がはいった、俺に賭けたから手抜きしないで優勝しろ。
簡単に言ってくれる。
この人だって出るんだぞ。
俺はやばい人の胃袋をケーキでがっちりつかんでしまったらしい。
夕食の一番上座に、プレートメイルからドレスに着替えて座っているディアナ王女を見てため息をついた。
まじやばいぞ。
「これにも名前を書いてね。」
料理大会参加申込書。いじめですか?




